ビビットオレンジの結晶"ウルフェナイト" |魅惑の美しさと神秘に迫る

世界的なミネラルショーで有名なツーソンがある、アリゾナ州。ジェムコレクターが「一度は訪れたい聖地」というアリゾナの「州の宝石」をご存じでしょうか。
それが、今回紹介する「ウルフェナイト」です。ビビッドなオレンジ色が特徴で、一度見たら忘れないほどの強い印象を与えます。
硬度が低く脆いため、ルースカットされた個体は非常に稀なウルフェナイト。結晶の形もユニークで、標本コレクターからも人気があります。
今回はウルフェナイトの魅力にじっくり迫りましょう。鉱物的観点からの解説や、もっと気軽に楽しむヒントも紹介します。
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1. 宝石・ルースとしてのウルフェナイト

はじめに、ウルフェナイトを宝石・ルースの観点から見てみましょう。
■ウルフェナイトのルースは希少

パキっとした鮮やかなオレンジ色が魅力のウルフェナイト。鉱物そのものは、珍しいものではありません。
ところが宝石品質を満たし、ルースとなれるウルフェナイトとなると、一気に希少性が高まります。
そもそも、ウルフェナイトの結晶は、ほとんどが薄い板状や針状の集合体です。モース硬度も低く、ファセットカットを施すのは至難!
ルースではなく、結晶や標本のまま流通するウルフェナイトが多いことからも、ルースになる難しさがわかります。
もしカットされたルースを見かけたら、本当にラッキーです。
■ウルフェナイトの品質基準
ここからは、希少なウルフェナイトのルースの品質が、どのように決まるかを見ていきます。
カラー
ウルフェナイトのカラーは、オレンジ色が濃いほど・赤味が豊かであるほど価値があるとされます。自然のものとは思えないほどのビビッドな色味は、ウルフェナイトならではの素晴らしい魅力でしょう。
ウルフェナイトは、本来は無色です。含まれる不純物により、さまざまな色になります。オレンジや黄色、赤色のほか、青や茶色、緑、黒色のウルフェナイトも存在します。
カット
ウルフェナイトはダイヤモンドに匹敵する屈折率を持ちます。ただし、ダイヤモンドのように、ファイアを最大に引き出す複雑なカットは施せません。
それでもできる限り細かく、光を反射させるカットがなされた個体は、評価が桁違いに上がります。
光沢は、ダイヤモンドのような金剛光沢。あるいは琥珀に似た、しっとりとした樹脂光沢を見せる個体もあります。
透明度
ウルフェナイトは、不純物が含まれるゆえに美しく発色します。また肉眼で確認できる不純物が含まれる個体も、多数あります。
もし目に見えるインクルージョンがないウルフェナイトに出会えたら、またとない機会でしょう。
ちなみにウルフェナイトのインクルージョンには、黒色のマンガン結晶や赤いミメタイト(ミメット鉱)、濃緑色~黒色のデスクロザイト(デクロワゾー石)などがあります。
大きさ
ウルフェナイトも他の宝石の例に漏れず、カラットが大きなルースの方が価値があるとされます。
ただウルフェナイトは、大きなカラットにはなりにくい宝石です。薄い板状の結晶で見つかることが多いこと、また比重が大きいことが理由です。
ウルフェナイトは、比重が6.5~7あります。「鉛鉱」とよばれるだけのことはありますね。ちなみに他の宝石の比重を見ると、ダイヤモンドが3.52、サファイアは4.0、クォーツは2.58~2.91です。
宝石のサイズは、1カラット=0.2gで換算されます。比重が大きなウルフェナイトは、同じカラット数のルースでも、他の宝石よりサイズが小さめにならざるを得ません。
もし、出会えたウルフェナイトのルースが「小さいかも?」と感じたら、ぜひ手に取って重さを感じてみてください。カラット数の割に、ずっしりとした金属らしい重みを感じられるはずです。
この重みも、ウルフェナイトの個性の一つです。
ウルフェナイトの一大産地であるアメリカ・アリゾナ州では、稀に5カラット以上のルースが見られるといいます。5カラット以上のウルフェナイト!どれほどずっしりとしているのか、実感してみたいですね。
【豆知識】
「現代宝石学の父」と呼ばれるギュベリン博士(Dr.Gübelin)のコレクションには、2.03カラット〜6.40カラットのウルフェナイトが所蔵されています。
いずれもオレンジ色が鮮やかで、クリアな透明度が素晴らしいルースです。
■ウルフェナイトの魅力

ウルフェナイトの魅力は、鮮やかで強いオレンジ色の輝きです。コレクターに「他の石と見紛うことはない」とまで言わしめる色は、ミネラルショーでもひと際の存在感を放ちます。
ウルフェナイトの色が、どれほど強い印象を与えるかは、ウルフェナイトを形容する言葉を見るとわかりますよ。
原色
ビビッド
はっきりとしたイエローイッシュオレンジ
強い光輝 など
ウルフェナイトは、光を当てると色合いが強く明瞭になるようです。自然光の下では落ち着いた温かみのあるオレンジになる個体もあります。
「オレンジ」と一言ではいいあらわせない、豊かな色相がウルフェナイトの魅力です。
■ウルフェナイトにまつわる逸話
ウルフェナイトは、産地としても有名なアメリカ・アリゾナ州で「州の鉱物」とされています。2017年、州議会で正式に認定されました。
また2019年に開催された第65回年次ツーソンジェムショーのテーマでもありました。
【豆知識】「州の鉱物」とは
広大な土地と豊富な鉱産資源を有するアメリカは、州によって採れる鉱物に特徴があります。
州を代表する鉱物を「州の鉱物」としているところもよく見られます。
一例を見てみましょう。
州名 | 州の鉱物 |
アラバマ州 | ヘマタイト |
コロラド州 | ロードクロサイト |
イリノイ州 | フローライト(蛍石) |
ルイジアナ州・テネシー州 | アゲート(瑪瑙) |
ニューハンプシャー州 | ベリル(緑柱石) |
日本でも「県の石」が制定されていますね。新潟県のひすい輝石岩や宮崎県の鬼の洗濯岩(砂岩泥岩互層)が有名です。
ちなみにアリゾナ州には他にも「州の〇〇」があります。
州の化石:珪化木(アラウカリオキシロン・Araucarioxylon)
州の宝石:ターコイズ
州の金属:銅
ウルフェナイトは、1845年に発見されました。オーストリアの鉱物学者だったヴィルヘルム・カール・リッター・フォン・ハイディンガー(Wilhelm Karl Ritter von Haidinger|1795 - 1871)が、初めて公式の記録を残しています。
名前が決まるまでは、さまざまに呼ばれていたようです。「プラムブム・スパトーサム・フラヴォ・ルブルム」とか、「メリノーズ」、「カリンティアのリードパス」など。ちょっと呼びにくいですね。
ヴィルヘルムがこの鉱物の名前を「ウルフェナイト」と名づけたのは、第一発見者であるフランツ・クサーバー・フォン・ウルフェン(Franz Xaver Freiherr von Wulfen|1728年 - 1805年)に敬意を表してのことです。
ウルフェンは、オーストリアの鉱物学者・植物学者・司祭です。ルフェニア・カリンシアカ、ユキノシタ、ステラリア・バルボーサという植物を発見しました。
主に東アルプスの高地と渓谷の植物を研究しており、スウェーデン王立科学アカデミー(ノーベル物理学賞・化学賞・経済学賞の授与機関でもある)の外国人会員に選出されたことがあります。
ウルフェンは1785年にウルフェナイトを見つけ第一発見者となりましたが、当初はタングステン酸塩鉱物と考えていたそうです。そのため、新種発見の一報が1845年まで遅れることとなりました。
■ウルフェナイトの産地

ウルフェナイトの主要産地は、アメリカのアリゾナ州です。アリゾナ州のレッドクラウド鉱山では赤の、グローヴ鉱山では黄褐色で葉片状結晶(非常に薄い板状の結晶)のウルフェナイトが産出されています。
とくにレッドクラウド鉱山は高品質なウルフェナイト産地として知られており、深紅の美しい結晶が採れることもあります。
比較的厚い結晶が採れるのが、メキシコ・ロスラメントスです。よく成長したオレンジ色の結晶を産出しています。
スロベニアのペカ山では、黄色いウルフェナイトが採れます。ピラミッド型、あるいは双晶を成すものもあります。1997年には、美しいウルフェナイトをモチーフにした切手が、スロベニアで発行されました。
世界的に見て乾燥した地帯での産出が多い点も、ウルフェナイトの特徴といえるでしょう。アフリカ南部やイラン、オーストラリア、中国の砂漠などでもウルフェナイトが採れています。
2. 鉱物・原石としてのウルフェナイト

ここからはウルフェナイトを、鉱物や原石、また化学的な面から深めてみましょう。
■組成について
ウルフェナイトの組成情報は、以下のとおりです。
英名(カタカナ) | Wulfenite(ウルフェナイト) |
和名 |
モリブデン鉛鉱(もりぶでんえんこう) 水鉛鉛鉱(すいえんえんこう) 黄鉛鉱(おうえんこう) |
成分 | PbMoO4 |
結晶系 | 正方晶系 |
硬度 | 2.5~3 |
屈折率 | 2.28~2.41 |
劈開 | 明瞭(1方向) |
色 | オレンジ、イエロー、レッド、ブラウン、グレー、褐色、灰白色、ブラック、ブルー |
産地 | アメリカ、メキシコ、スロベニア、ナミビア、ザンビア、中国 など |
モリブデンとは

ウルフェナイトの和名は「モリブデン鉛鉱」、名前のとおりモリブデン(Mo)と鉛(Pb)からできた酸化物です。
モリブデンはクロム(Cr)属の金属ですが、それ自体の色は銀白色をしています。レアメタルの一種で、単体では存在せず、化合物の一部としてあらわれます。
融点はなんと、金属中5番目に高い2620℃。単体では加工が難しい金属です。
ただし硬く優れた強度を持ち、変形しにくいため、高層ビルや高速道路の整備に欠かせない素材でもあります。国家備蓄に指定されている原料でもあります。
ウルフェナイトは、産出量こそ多くないものの、モリブデンの重要な資源です。第二次世界大戦が終わるまで、ウルフェナイトはモリブデンの供給源として乱獲されました。ツーソンに近いタイガー鉱山では、630万ポンド(約285万キログラム)もの酸化モリブデンが生産されたといいます。
使われたウルフェナイトは、少なくとも8,500トン。戦場に消えたウルフェナイトの中にも、きっと美しい標本になれるものがたくさんあったのではないでしょうか。
ちょっともったいない気もしますね。
戦後はもっと効率的なモリブデンの精錬法が見つかり、ウルフェナイトの鉱山はコレクターのために残ることになります。
モリブデンは生き物にも欠かせないミネラル
モリブデンは「いかにも金属!」というイメージを覚えたでしょうか。
ところが、実はモリブデンは地球のライフサイクルにも重要な役割を果たしています。植物の生育に欠かせない窒素・硫黄のサイクルに、大きくかかわっているのです。
さらに、私たち人間が生きるためにも必要なミネラルでもあります。モリブデンは「血のミネラル」とも呼ばれ、鉄分の働きを高め造血を促進します。また代謝や有害物質の分解酵素の成分としても働きます。
モリブデンは穀類や豆類、種実類に豊富に含まれています。体調がよくないな、と感じたら、意識的にモリブデンを摂取してみても良いかもしれませんね。
■原石の形状

ウルフェナイトの結晶は、その大半が薄い板状や柱状です。一部、塊状・粒状で産出するものもあります。
ウルフェナイトは二次鉱物で、もともとあった鉛亜鉛鉱床の酸化が進んだ部分で見つかります。低温の熱水脈で生成するものもあります。
やはり鉱床の酸化帯で見られるセルサイト(Cerussite・白鉛鉱)や酸化作用によってできるライモナイト(limonite・褐鉄鉱)、また方鉛鉱や緑鉛鉱とともに見つかることもあります。
■鉱物視点からみるウルフェナイト
鮮やかなオレンジ色が印象的なウルフェナイト。実は、本来は無色の石です。オレンジ色の輝きは、微量に含まれるクロム(Cr)によります。
「あれ?宝石がクロムを含むと、緑色になるのでは?」と疑問を抱いた方は、鋭い!かなりの鉱物通ですね。
たしかに、クロムを含む宝石は鮮やかな緑色を呈するものが多くあります。
クロムダイオプサイトをはじめ、クロムトルマリン、クロムスフェーン、そして何よりエメラルド(緑柱石)もそうですね。
ただし。
赤色のルビー(コランダム)の発色要因も、実はクロムです。不思議ではありませんか?なぜ、同じクロムでも、あらわれる色が異なるのでしょうか。
宝石の色が決まる要因は、いくつかあります。
そのうち、前述したルビーやエメラルド、サファイアなどは、含有する微量元素の影響で発色します。
本来、その鉱物の主要元素が入るべき位置にクロムや鉄(Fe)などの微量元素が入り込み、光の吸収に変化が起きて別の色に見えるという現象です。これを「同形置換」と呼びます。
さてクロムなどの遷移元素(元素周期表の3族〜11族、左右の典型元素のあいだにある元素)は、「どの鉱物に含まれるか」によって違った発色を見せるという特徴があります。
クロムがベリル(緑柱石)に含まれると緑色になり、エメラルドになりますね。ところがクロムがコランダムに含まれると赤くなり、ルビーになります。これはクロムが遷移元素だから起きる現象です。
ちなみにクロムは地球上では、通常3価のイオンで存在します。同形置換するときは、同じ3価イオン、かつ大きさも近いアルミニウムと置き換わることが多いようです。
3. ウルフェナイトをより楽しむために
ここからは美しいウルフェナイトを、もっと気軽に楽しむヒントを紹介します。
■ウルフェナイトの石言葉など
ウルフェナイトは、射手座の守護石とされています。
また決まった石言葉はありません。ただ「永遠の愛」「癒し」の象徴とする場合もあるようです。
鮮やかなオレンジ色が喜びや知的好奇心といった、ポジティブなエネルギーをもたらしてくれるでしょう。
■ウルフェナイトの加工について

ウルフェナイトは硬度の低さ(モース硬度2.5〜3)と明瞭な劈開により、加工がとても難しい石です。
ファセットカットが施されたルース、あるいはアクセサリーやビーズになることもほとんどありません。
多くは結晶や標本のまま流通しています。母岩がついたままのものもあります。
母岩にちょこんと乗ったオレンジ色の結晶は、色の鮮やかさが際立ち、強い存在感を放ちます。
お手入れの際も、細心の注意を払うようにしましょう。
汚れは柔らかい布で優しくぬぐい、他の宝石や堅いものに当たらないよう保管します。
強い流水で流すと、破損する恐れがあります。塩酸に溶けやすい性質があるため、念のため洗剤や添加物などと触れさせないように気をつけましょう。
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4. まとめ
ウルフェナイトは、ルースカットが難しい石です。未加工の結晶状で流通している個体のほうが多いかもしれません。
鮮やかで美しいウルフェナイトの色彩は、ファセットカットがなくてもコレクションの中で輝くでしょう。もしお気に入りの色や形状の結晶を見かけたら、じっくりチェックしてみてください。
そしてルースに成形された個体に出会えたら、千載一遇のチャンス!計り知れない価値を持つウルフェナイトのルースを堪能してくださいね。
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この記事を書いた人

みゆな
TOP STOneRY / 編集部ライター
トップストーン編集部がお届けする「トップストーリー」メディアでは、古くから愛されている誕生石の歴史やエピソード、最新のレアストーンの特徴、宝石の楽しみ方をわかりやすく解説しています。「天然石の魅力をもっと多くの方に知ってもらいたい」という想いで、個性溢れるライターが情報発信しています。