2025/8/28

冷静と情熱を宿す色彩 | ルビーとサファイアが織りなすウィンザーサファイアの神秘

ルビーサファイアはコランダムという同じ鉱石です。
そのことを知った時、同じ鉱石ならルビーとサファイアが一つの石になっててもいいじゃないか、と思ったりしたことはありませんか?

その夢を叶える贅沢なバイカラー、それがウィンザーサファイアです。


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1.宝石・ルースとしてのウィンザーサファイア

サファイアは産地によって特徴があり、カシミールサファイアモンタナサファイアなど、産地名を冠につけて呼ばれるサファイアも多くあります。
ウィンザーサファイアも同じように地名を冠したサファイア。まずはその特徴について解説します。

■ウィンザーサファイアとは

世界各地で産出する鉱物であるサファイアは、有名な産地が数多くあります。

アフリカ方面では特にモザンビークやマダガスカルが有名です。一方で、タンザニアはあまり知られていません。
タンザニアといえばメレラニのタンザナイト、コランダムに限ればモロゴロからマヘンゲにはコランダムの鉱床が広がる地域帯があるとはいえ、他の産地に比べると認知度は高くありません。
更に"タンザニアのウィンザー"と言われてサファイアがピンとくる人はかなりの通でしょう。

このウィンザーは、特に高品質のルビーが産出される場所として、一時代を築きました。
貴石品質のルビーは、他の産地にない透明度と高い彩度を誇り、その眩しいクリムゾンレッドには合成を疑われたほど。このウィンザールビーはとりわけヨーロッパをメインに人気を博していました。

美しいのはルビーだけではなく、ピンク、パープル、オレンジなど多彩なカラーサファイアもウィンザーから産出しています。稀ですが、希少なパパラチャサファイアの産出もあります。

このウィンザーのコランダムの面白い特徴は、顕著なカラーゾーニングにあります。
とりわけブルーサファイアが、鮮やかなルビーやピンクサファイアと相混じって青く煌めくのは、ウィンザーでしか見られない神秘的な結晶です。

ピンクサファイアに焼き付くカワイイメタルなブラック、燃えるようなルビーに夜明けのブルーのゾーニングは、美しいバイカラーサファイアとしてカットされます。

ここではウィンザールビーやサファイアの美しさに触れながら、主にバイカラーのウィンザーサファイアについてご紹介します。

■最高品質のウィンザーサファイアとは

    どの宝石にも言えることですが、発色が良く、クラリティ(透明度)が高く、カットが美しい大粒の石が、最高品質といえます。

    ウィンザーのコランダムには、合成と見紛うような鮮やかな色と高い透明度を誇る石があります。
    それがバイカラーとなり、透き通る鮮やかなレッドと深いブルーを併せ持つ──まるで、決して重ならない時間の空を一度に閉じ込めたかのような贅沢な貴石。
    見る人の目を奪わずにはいられません。

    モンタナサファイアなど、バイカラーのサファイアは他にもありますが、ルビーとブルーサファイアのバイカラーは他に類を見ません

    バイカラーはルビーとブルーサファイアにとどまらず、ピンクとブラック、オレンジとブルー、さらにはレッド・ブルー・オレンジが交わるパーティカラーのウィンザーサファイアも存在します。
    バイカラーの魅力は、その二つと同じものがない色合い
    やはり、発色が良く鮮やかなものを選びたいですね。

    では、ブラックを含んだバイカラーはいまいちでしょうか?
    いいえ、決してそんなことはありません。
    角度によっては、青みを帯びた深い夜空の色になり、星が瞬くようにも見えます。
    発色の良いピンクサファイアとブラックの組み合わせは、ロックな可愛さがあり、一味違う魅力を演出します。
    価値の評価は分かれると思いますが、最終的には個々の好みが大切ではないでしょうか。

    バイカラーといえば、ウォーターメロントルマリンのように、パキッと色が分かれるイメージがありますよね。
    ウィンザーサファイアにも、境界が明瞭な石があります。

    その一方で、境界が曖昧なタイプもあります。
    ルビーの赤にサファイアの青がそっと差し込むようなもの、淡い色が重なって生まれる縞模様のもの、あるいはサファイアの中心に炎が灯ったかのように見えるもの──。
    こうした複雑で多彩な表情を見せるバイカラーも、ウィンザーサファイアの大きな魅力です。

    高品質のウィンザーサファイアには、茶褐色の充填物で満たされた管状インクルージョンがしばしば見られます。
    結晶の成長過程で生まれるインクルージョンは疎まれがちですが、天然の証であり、産地鑑別に有用な要素です。
    流星のように棚引く細い管状インクルージョンは、デマントイドガーネットのホーステールのように誇ってもいいのではないでしょうか。

    しかし現実として、肉眼で分かるインクルージョンは透明度や発色を損なう欠点とされます。
    特に、ウィンザーサファイアの持ち味である高い透明度を邪魔してしまうものは避けたいところです。

    コランダム特有のシルクインクルージョンや、他の鉱物を取り込むケースもあります。
    また、ウィンザーサファイアには湾曲した針状インクルージョンが特徴的に見られます。
    肉眼では見えませんが、湾曲し、時に半月型となる針状インクルージョンは、この宝石特有の特徴です。

    ウィンザーサファイアのインクルージョンが描く内部世界も魅力ですが、高品質という観点では、透明度や彩度を阻害しない石を選びたいですね。
    さらに、クラック(内部割れ)を含む石もありますが、耐久性の点からいっても避けたいところでしょう。

    高品質な宝石はえてして小粒ですが、ウィンザーサファイアには大粒の石も少なくありません
    通常は1ct前後ですが、時に10ctを超える最高品質のルビーも産出されたといいます。

    ただし、10ct級の高品質ルビーやサファイアは極めて稀です。
    バイカラーの場合は、サイズよりもカラーを重視してカットされるため、大きなバイカラーを見つけるのは難しいでしょう。

    ウィンザーサファイアは、伝統的なファセットカットに施されることが多く、特にバイカラーの魅力を引き出すステップカットがよく見られます。
    原石の中から最も美しい色を引き出す──カット職人の腕の見せどころです。

    ■ウィンザーサファイアの名前の由来とその歴史

    ウィンザーサファイアという名前は、文字通り産地の名に由来します。

    ウィンザーでは、宝石質ではないコランダムも多く見られましたが、高品質なルビーは鮮やかなクリムゾンレッドを呈します。折しも、タイ産ルビーが枯渇し、ミャンマーの高品質ルビーの産出も減少していた時期。そんな中に突如現れたウィンザールビーは、コランダム市場を一気に沸かせました。

    もともとウィンザー周辺は、トウモロコシ農家が点在するのどかな地域でした。しかし、その農家の内の誰かが、定期的にルビーやカラーサファイアをバイヤーに販売していたといいます。
    個人採掘では量は限られますが、副業としては破格の利益。一家が代々守り抜いてきた真紅と群青の秘密は、やがて白日の下にさらされることとなります。

    一説によると、この一家がルビーやサファイアを売り始めたのは1950年代から。そのため、ウィンザーサファイアの秘密は半世紀以上にわたり守られていたことになります。

    2007年、ウィンザーは世界が注目するルビーの新産地となり、のどかな土地には600人もの鉱夫やバイヤーが押し寄せ、宝石の町へと変貌しました。翌2008年には、その人数は一気に10倍に膨れ上がり、一次鉱床の上部に広がっていた二次鉱床は瞬く間に掘り尽くされます。

    2018年頃までは日本でも流通が見られましたが、近年はその数が減少傾向にあります。閉山の報告はありませんが、このまま産出が減り続ければ、ウィンザーサファイアはやがて“幻のサファイア”となるかもしれません。

    ■ウィンザーサファイアの産地解説

    ウィンザーサファイアが採掘されるウィンザーは、タンザニア中部に位置します。コランダムの産地として知られるマヘンゲの北、モロゴロの西、ちょうど二つの地域の中間あたりです。
    先に発見されたモロゴロやマヘンゲのコランダムは、多くが半貴石質、あるいは加熱処理を必要とするものでした。そんな中で登場した、非加熱で眩い輝きを放つウィンザーサファイア──注目を集めたのも当然でしょう。

    ウィンザーはタンザニアの首都ドドマから約120km。舗装道路と未舗装の道路を進み、運が良ければ5時間、雨季や状況が悪ければ数日かかることもあります。
    鉱床は一次鉱床が風化して流出し、漂砂鉱床として広がっていました。採掘は手作業で行われ、シャベルやつるはしを使い、運搬には手押し車や自転車を利用するという、きわめて地道なものです。
    2008年頃には、掘りやすい二次鉱床は採掘し尽くされたといわれています

    その後は初生鉱床の採掘に移行し、現在は機械化も進んでいるようです。ただし、大規模な機械による掘削とは異なり、結晶は今なお人の手によって掘り出されています。

    2.鉱物・原石としてのウィンザーサファイア

    Wikimedia Commonsより
    Rob Lavinsky, iRocks.com – CC-BY-SA-3.0, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=10474216による

    魅力的なバイカラーをたたえるウィンザーサファイア。その色彩の秘密を、鉱物としての視点から解説します。

    ■鉱物としての特徴と組成

    コランダムの色は、結晶中に含まれる微量元素によって変化します。クロムを多く含めば赤くなりルビーに、鉄とチタンを含むとブルーサファイアになります。ウィンザーサファイアも、基本的な組成は一般的なコランダムと変わりません。

    元々、ウィンザーは高品質のルビーで有名でした。この地域のルビーは、他の産地に比べ鉄分が多く含まれるのが特徴です。鉄が多いと赤色は暗く重い印象になりますが、チタンの含有量が少ないため、最高品質のウィンザールビーは明るいクリムゾンレッドを呈します。
    ウィンザーサファイアを生み出した地層も、チタン濃度が低かった可能性があります。鉄分が豊富であるにも関わらず、ブルーサファイアの産出は多くはなく、ルビーやファンシーサファイアが主です。結晶が成長する過程で、鉄分豊富なルビーに微量のチタンが混ざることで、時間の異なる色を閉じ込めたバイカラーの結晶が誕生します。

    この結晶生成の過程を見ると、実は「バイカラールビー」と表現した方がしっくりくるのでは?と思うかも知れません。とはいえ、ご存知の通り、コランダムは赤がルビーでそれ以外の色はサファイアと分類されるため、宝石学的には「バイカラールビー」という表現は矛盾してしまいます。一部のカラーが最高のピジョンブラッドであったとしても、鑑別書上はサファイアとされます。

    もちろん、ウィンザーサファイアのバイカラーはルビーとブルーだけではありません。ピンクとパープル、パープルとブルー、ブルーとブラックなど、さまざまな組み合わせがあります。いずれも、光と共に表情を変える二つとない結晶であり、夜空や朝焼けを思わせる神秘的な美しさで人々を魅了します。

    英名 Winza Sapphire/ウィンザーサファイア
    和名 -
    成分 Al2O3
    結晶系 六方晶系
    モース硬度 9
    屈折率 1.76~1.78
    劈開 なし
    レッド、ブルー、ピンク、パープル、ブラックなど
    主な産地 タンザニア(ウィンザー)

    ■原石の形状

    ウインザーサファイア原石

    Wikimedia Commonsより
    Rob Lavinsky, iRocks.com – CC-BY-SA-3.0, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=10474210による

    サファイアは六角錐あるいは三角錐の形で結晶しますが、成長中のさまざまな要因により形は変化します。 ウィンザーサファイアの原石は、平たい角のような双錐形、菱面体、角柱、あるいはそれが割れて板状になったものとして産出されます。菱面体は、サファイアらしい六方晶系に典型的な形です。

    色が均一で高品質なルビーは、菱面体や角柱に多く見られます。一方で、みごとなグラデーションを持つパーティカラーのウィンザーサファイアは、双錐形の結晶に多く現れます。特に立派な結晶は、ろうそくの炎のような形をしており、その炎の色は変幻自在。ピンクからブルーへと立ち上るグラデーションは、見る角度や光の加減で微妙に表情を変え、幻想的な佇まいをみせます。

    通常、未研磨の原石はあまり光を反射せず、宝石の透明感やテリは感じにくいものです。ウィンザーサファイアも例外ではありません。しかし、原石によっては光をよく反射する面を持つものがあります。丸みを帯びた立方体や双錐形、菱面体など、形が整った結晶は、原石のままでもテリを感じさせます。バイカラーやパーティカラーの魅力も相まって、ウィンザーサファイアの原石は見応えがあり、ナチュラルアクセサリーやインテリアとしてそのまま手元に置きたくなる存在です。

    ■鉱物としての魅力

    ウィンザーサファイア原石

    Wikimedia Commonsより
    Rob Lavinsky, iRocks.com – CC-BY-SA-3.0, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=10474212による

    サファイアは大理石、玄武岩、その他の変成岩や火成岩を母岩として結晶します。
    ウィンザーはモロゴロとマヘンゲの間に位置しますが、地層は異なり、「ウサガラン帯」と呼ばれるおよそ25億年前の地層で形成されています。およそ6億年前の地殻変動によって熱や圧力が加わり、コランダムが結晶したと考えられています。

    ウィンザーサファイアの母岩は角閃石です。同じ母岩にはグロッシュラーガーネットスピネルカイヤナイトなども結晶します。これらの鉱物は、インクルージョンとしてウィンザーサファイアの内部に取り込まれることがあります。

    最も多くインクルージョンとなるのは角閃石の一部ですが、サファイアの中で無色透明の鉱物として結晶することが多いです。稀に有色の角閃石やオレンジ色のガーネットがインクルージョンとして入り込むこともあります。この宝石の内部世界は、地質学的に重要であるだけでなく、小さな結晶の中に壮大な景観を作り出しており、顕微鏡で覗くと宇宙の広がりのような印象を受けます。

    3. ウィンザ―サファイアをより楽しむために

    ウィンザ―サファイアのその他の楽しみ方として、誕生石や石言葉、加工品の使用例などをご紹介します。

    ■誕生石・石言葉

    サファイアは9月の誕生石であり、ルビーは7月の誕生石です。サファイアの名前がついているものの、ルビーの色を持つウィンザーサファイアは、7月と9月の両方の誕生石として捉えることもできます。

    サファイアの石言葉は「慈愛」「誠実」、ルビーの石言葉は「情熱」「良縁」「勝利」と言われています。ウィンザーサファイアには固有の石言葉はありませんが、ルビーとサファイアを兼ね備えた特異な宝石として、特別な力を持っていると感じられます。

    ちなみに、結婚40周年はルビー婚45周年はサファイア婚と呼ばれ、それぞれの石を贈ることがあります。ウィンザーサファイアを贈ることで、これまでの40周年のお祝いと45周年に向けて、互いに誠実に慈愛を持ち、良縁を繋いでいくことを願う、というのも素敵なアイデアでしょう。


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      4. まとめ

      カラーサファイア同士のバイカラーだけでなく、ルビーとブルーサファイア、両方の特徴を持つウィンザーサファイア。日に移ろう空の流れを閉じ込めたような結晶は、同じ日が一日としてないように、それぞれが美しい表情を見せます。ぜひ、自分だけの特別な一石を探してみてください。


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      この記事を書いた人

      佐伯

      TOP STOneRY / 編集部ライター

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