合成石でも希少「ジンカイト」|炎のような色彩を持つ亜鉛鉱物の魅力や鉱物学的背景

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0.天然ジンカイトと合成ジンカイト

ジンカイトを語る上で、まず押さえなければならないのが、ジンカイトには「天然」「合成」の2種類がある、ということです。天然ジンカイトと合成ジンカイトについて、詳しく見ていきましょう。
■天然と合成の評価
一般的に、宝石市場では、天然のもののほうが評価されます。合成宝石も、その存在を認められてはいるものの、評価・人気とも天然には及びません。
ところが、ジンカイトだけは例外。ジンカイトは合成宝石の方が流通量が多く、しかも知名度・人気とも高い、珍しい宝石です。
■合成ジンカイトとは?
ジンカイト(ZnO)の主成分・亜鉛(Zn)は、自然界に単体ではまず存在しません。大抵は他物質と結合し、別の鉱物となっています。ジンカイトが希少なのは、これが理由です。
(→詳しくは後述の鉱物・原石の章で解説します)
合成のジンカイトは、亜鉛を精錬する過程で生まれました。精錬に使われた工場の煙突の内部に昇華鉱物として付着した、という説が有力です。その後、自然界では難しい酸化亜鉛の大量生産が可能になり、合成ジンカイトが市場に出回るようになりました。
ただ、人工的に生成できるとはいっても、合成ジンカイトも希少であることに変わりはありません。亜鉛の精錬方法が変わり、合成ジンカイトが採れる煙突を備えた工場が、ほぼなくなったことも要因です。
合成ジンカイトは、1980年代初頭から2000年代まで、市場に供給されていましたが、現在はストップしています。いま流通しているものは、既存のストックからのものばかりです。
1.宝石・ルースとしてのジンカイト

ジンカイトの美しさや特徴、魅力、産地や逸話などを見ていきましょう。
■高品質なジンカイトとは

ジンカイトの価値は、天然・合成とも色・カット・透明度・カラット重量の4つのポイントで評価されます。
カラー
純粋なジンカイトのカラーは、無色透明です。ただ、不純物が含まれるため、通常は赤色〜オレンジ色、黄色系のカラーを呈します。深い赤色や緑色のジンカイトもあります。

天然ジンカイトのほうが、深く濃い色を見せます。天然ジンカイトの赤系の発色要因は、微量に含まれる不純物のマンガン(Mn)です。ごくまれに、ニッケル(Ni)が含まれると、緑色になります。
合成ジンカイトは、総じて明るい色味をしています。ただ、合成ジンカイトの発色要因は、実はわかっていないそう。GIAは、合成ジンカイトのカラーは不純物に由来するのではなく、内部構造によるのではないか、と考えているそうです。
カット
ジンカイトは硬度が4.0〜4.5と低く、さらに完全な劈開を持っています。原石は小さな粒状、または塊状が一般的なため、カットは至難。通常はカボション、または原石標本のまま流通します。
ファセットカットされたジンカイトは、めったに出回らないため、運よく出会えたら、お迎えを検討するべきです。
透明度
ジンカイトは脆さゆえに、クラックが入りやすいという特徴を持っています。また、内包物も多く、大半は不透明または半透明です。
合成ジンカイトも、製造工程で二酸化炭素やメタン、煤(すす)などが混入しやすく、こちらも透明度を下げる要因となっています。
透明度の高いジンカイトは、それだけで非常に価値があります。
カラット
ジンカイトの原石は、ほとんどが小ぶりです。直径10センチもあれば「巨大」と称されるほど。塊状の結晶では大きなものも見つかりますが、ファセットカットには不向きです。
ジンカイトのルースサイズは、1カラット未満が一般的です。
■ジンカイトの輝き
項目 | ジンカイト | スファレライト | ダイヤモンド |
---|---|---|---|
分散 | 0.127 | 0.156 | 0.04 |
屈折率 | 2.01~2.03 | 2.37~2.43 | 2.42 |
分散が高いほど、その宝石は虹色に輝きます(ファイア)。また、屈折率が高いほど、内部に取り込んだ光をよく反射し、強い輝きをあらわします。
ジンカイトは分散・屈折率ともに、とても素晴らしいものを持っています。ただ、残念なのは脆くクラックが入りやすいため、ファセットカットに向かないという性質です。もし、十分な堅牢さを持っていたら、希少性とあいまって、世界有数のレアストーンの名を欲しいままにしていたかもしれませんね。
■ジンカイトの蛍光性
「ジンカイト=蛍光鉱物」というイメージを持つ人もいるようです。この説は、ある点では正しく、別の点では間違っています。
まず、天然のジンカイトは、蛍光しません。ただし、天然ジンカイトの産地・フランクリン鉱山(次章で解説)からは、大量の蛍光鉱物が発見されています。ジンカイトと共生した鉱物が蛍光することも多く、また「フランクリン鉱山=蛍光鉱物」とのイメージも影響し、「ジンカイトは蛍光する」という言説につながった可能性があります。
一方で、蛍光するジンカイトも実在するのが、話をややこしくしています。天然ジンカイトは蛍光しないとなると、蛍光するジンカイトは?そうです、合成ジンカイトです。
合成ジンカイトは多く黄色や緑色に蛍光します。
■ジンカイトの名前の由来
ジンカイト(Zincite)のzincは、「亜鉛」の意味です。亜鉛を豊富に含む鉱物だということから、その名前がつけられました。ジンカイトの名前をつけたのは、オーストリアの鉱物学者であるヴィルヘルム・ハイディンガー(Wilhelm Karl von Haidinger|1795年 - 1871年)です。ちなみに、ハイディンガーは、モース硬度を考案したかのモース博士の助手をしていた人物です。
ジンカイトという名前が定着するまでには、「スパルタライト」「ジンクルビー」など、別の名前で呼ばれていた歴史もあるそうです。
■ジンカイトの産地

天然のジンカイト産地は、ごくごく限られています。
いま、市場に供給されている天然ジンカイトは、ほとんどがナミビアのツメブ鉱山(Tsumeb Mine)産です。ツメブはダイヤモンドやフォスゲナイトで、その名を知られる鉱山ですね。
かつては、アメリカが一大産地でした。ニュージャージー州のフランクリン鉱山(Franklin Mine)とスターリングヒル鉱山(Sterling Hill Mine)では、亜鉛鉱石としてジンカイトが大量に採掘されていた歴史があります。残念ながら、この地域はすでに閉山済み。いま、市場にあるアメリカ産のジンカイトは、まだ鉱山が稼働していたときに採取されたものです。
フランクリンナイトでも有名なフランクリン鉱山は、世界でも類まれな、多種多様な鉱物が見つかる場所として、コレクターのあいだでは有名です。 フランクリン鉱山で発見された鉱物種は、実に360種類!そのうちの35種は、フランクリン鉱山でしか見つかりません。 また、蛍光する鉱物も100種ほどが報告されており、蛍光鉱物の首都と呼ばれています。同一の母岩にさまざまな蛍光鉱物が共生する「ファイブプラス」は、フランクリン鉱山ならではの鉱物。コレクターが血眼になって探す、逸品です。
フランクリン鉱山で見つかるファイブスターは、以下のような鉱物が共生しています。
※(かっこ)内は蛍光したときのカラーです。
- カルサイト(赤色)
- ウィレマイト(黄緑色)
- エスパーアイト(黄色)
- ハーディストナイト(青紫色)
- フルオロアパタイト(山吹色)
- スファレライト(橙色、スミレ色)
- マンガンアキシナイト(紅色)
- バライト(乳白色)など
ファイブスターの「ファイブ」は、豊富さをあらわす象徴的な言葉です。かならずしも「5種類」の鉱物が共生しているわけではありません。それほど、多様な蛍光鉱物が共生しているさまを示します。
また、アメリカ・ワシントン州にあるセント・ヘレンズ火山が1980年に噴火した際、その噴出物の中に、ジンカイトがあったともいわれています。
合成ジンカイトは、最初ポーランドで生まれました。現在はポーランドのほか、ロシア産も流通しています。
2. 鉱物・原石としてのジンカイト

Wikipedia掲載画像:cobalt123 (CC BY-SA 2.0、一部編集あり) / Wikimedia Commons より
次に、ジンカイトについて鉱物や原石の観点から迫りましょう。合成ジンカイトの生成方法も紹介します。
■組成について
ジンカイトの組成情報は、以下のとおりです。
英名 | Zincite(ジンカイト、ジンサイト) |
和名 | 紅亜鉛鉱(こうあえんこう) |
成分 | (Zn,Mn)O 酸化亜鉛、不純物としてマンガンを含む |
結晶系 | 六方晶系 |
硬度 | 4~4.5 |
屈折率 | 2.01~2.03 |
劈開 | 1方向に完全 |
色 | 暗赤色、褐赤色、橙色、黄色 |
産地 | アメリカ、ポーランド、ナミビア、スペイン、オーストラリア、スウェーデン など |
■原石の形状
ジンカイトの自形結晶は、六角錐状の異極結晶の形状をしています。ただ、コレクターにとっては残念なことに、自形結晶を成すジンカイトはほぼ見られません。ジンカイトは、その大半が塊状や粒状で見つかります。もし、美しい自形結晶のジンカイトがあれば、亜鉛を精錬する過程で生まれた合成品と考えられます。
ジンカイトは、岩石中の一次鉱物もしくは、二次鉱物として見つかります。一次鉱物とは、岩石の生成と同時に誕生した結晶で、二次鉱物は岩石の風化や変質で生まれる結晶です。
一次生成するジンカイトは、亜鉛鉱床や石灰岩で見つかります。カルサイト(方解石)やフランクリナイト(フランクリン鉄鉱)を伴うことが多いそう。酸化が進んだ場所では、二次鉱物として発見されることもあります。
■鉱物観点からみるジンカイト
■ジンカイトの合成方法
合成ジンカイトは、偶然の産物として発見されました。ポーランドで、亜鉛を精錬する工場の煙突を掃除したら、昇華鉱物として内部に付着したジンカイトが見つかった、という説が有力です。
煙突火災でつくられたという説もありますが、いずれにせよ「煙突」で見つかったことは確かなようです。
その後、技術の発展とともに人為的に合成されるようになりました。合成手法は、おもに2つあります。
固体を昇華させ、配置しておいた種結晶をもとに、基板に生成させる方法。高温によって成分を蒸発させて、結晶をつくりだす。
高温高圧になる容器に水と物質を入れて密封し、加熱して結晶を成長させる方法。水中で有機物が溶解され、イオン分子が拡散して純粋な物質を取り出す。
3. ジンカイトをより楽しむために

主要鉱山が閉山し、ジンカイトは希少性を増すばかりです。手元に迎えたいと願うなら、早めに行動したほうが良いかもしれません。
迷っている人のために、ここからはジンカイトをさらに楽しむヒントを、さまざまな観点からお届けします。
■ジンカイトの石言葉
ジンカイトの石言葉は「創造」「復活」です。生命力にあふれた石とされ、前向きな気持ちを持ちたいときに最適。感情のバランスをとりながら、希望を現実化したいときに、そばに置いてみてください。
■ビーズなどの加工品
小さなジンカイト結晶を含む天然鉱石を、ビーズ状に研磨した商品も人気です。ジンカイトの赤色と、共生する白いカルサイトや黒いフランクリナイトのコントラストが美しく、自然で力強い佇まいが、持つ人にエネルギーを与えてくれるでしょう。
ただ、天然・合成を問わず、ジンカイトそのものが希少です。国内では、ごくごく少量のルースのほかは、原石標本のまま流通していることが多いようです。
■人の体にも欠かせない「亜鉛」

ジンカイトの主成分である亜鉛は、私たちの体にも欠かせない栄養素です。亜鉛は体内で生成できない必須微量ミネラルであり、酵素のはたらきやホルモン・DNA・タンパク質の合成、免疫反応などに深く関わっています。
亜鉛が不足すると、以下のような異常をきたします。
・貧血
・味覚障害
・皮膚炎
・免疫機能の低下
亜鉛を豊富に含む食品は、牡蠣やレバー、牛赤身肉。苦手な人は、油揚げや卵、小麦胚芽、カシューナッツ等の摂取がおすすめです。アルコールは、せっかく摂取した亜鉛を排出させてしまうとか。健康のためにも、飲酒はほどほどに抑えましょう。
■さまざまな用途で使われる亜鉛鉱石

亜鉛鉱石の興味深い用途を、2つ紹介します。
まずは、日焼け止めです。アメリカ食品医薬品局(Food and Drug Administration)は17種類の日焼け止め成分を承認していますが、その中でも亜鉛鉱石は特別です。なんと、有害なUVA・UVBを含む、すべての紫外線を遮断するとか!しかも、敏感肌の人でも使える、人体に無害な成分だそうです。
テカリ防止や化粧崩れ防止の効果も期待できるため、化粧品にも広く使われています。
もう1つの用途は、鉱石ラジオです。鉱石ラジオとは、電源や電波を増幅させる回路(真空管等)を使わず、鉱石と金属との接触で電波を受信する、とても不思議なラジオです。ジンカイトは電波の検出性に優れており、鉱石ラジオに欠かせない鉱物とされています。
鉱物ラジオは、アンテナとアース、バリコン、イヤフォン、コイルなどがあれば、簡単に作れます。ぜひ、挑戦してみてください。
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4. まとめ
ジンカイトは、亜鉛を主成分とするレアストーンです。まばゆいファイアやこっくりとしたカラーで人気があります。
天然のジンカイトは主要鉱山が閉山し、供給量が減少。合成ジンカイトも市民権を得ていますが、決して大量に生産されているわけではありません。
これからもレアストーンの名を欲しいままにするであろう、ジンカイト。ファセットカットされたルースはとくに希少で、極上のコレクションとなること間違いありません。
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この記事を書いた人

みゆな
TOP STOneRY / 編集部ライター
トップストーン編集部がお届けする「トップストーリー」メディアでは、古くから愛されている誕生石の歴史やエピソード、最新のレアストーンの特徴、宝石の楽しみ方をわかりやすく解説しています。「天然石の魅力をもっと多くの方に知ってもらいたい」という想いで、個性溢れるライターが情報発信しています。