三つの願いを叶える石・トリプライト|オレンジカラーの希少宝石を徹底解説

トリプライトは、宝石業界にいてもなかなかお目にかかれないといわれるレアストーンです。筆者の手元にある宝石図鑑6冊と鉱物・博物図鑑4冊のうち、トリプライトを紹介していたのは3冊のみ。そのうち宝石として紹介していたのは1冊で、残る2冊は鉱物標本としての扱いでした。
国内でも、まだ一部の熱烈なコレクターにしか知られていないかもしれない希少な宝石「トリプライト」。スパッと3方向に割れる劈開から、「三つの願いを叶える石」とも呼ばれています。どこかランプの精の寓話を思わせますね。
今回は、そんな知られざるトリプライトを宝石・ルースの面から、そして鉱物・原石の面から詳しく解説します。知れば知るほどコレクションに加えたくなるトリプライト。その奥深い魅力を一緒に見ていきましょう。
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1.宝石・ルースとしてのトリプライト

まずは、宝石・ルースの観点からトリプライトを解説します。鮮やかなオレンジ色の魅力や希少な標本も紹介します。
■高品質なトリプライトとは

トリプライトは、宝石品質の個体がほとんど見つからない、大変希少な石です。
(宝石品質の個体が見つからない理由は、次章の「鉱物・原石としてのトリプライト」で解説します。)
ごく稀に見つかる宝石品質のものも、3方向の劈開と脆さのため、ルースに仕立てられるのはごく一部に限られます。ファセットカットが施され、ルース市場に登場したトリプライトは、それだけで価値を持つ存在です。
そんな希少なトリプライトの評価をさらに高める要素は、次の4つです。
カラー
カット
透明度
カラット
カラー
トリプライトは、含まれる不純物の種類や量によってカラーが変化します。一般的に見られる色合いは、茶色や赤褐色です。
一方で、高く評価されるのはオレンジピンクや鮮やかなオレンジ、あるいはブロンズを帯びたオレンジ色の個体です。彩度が高く、発色が鮮明なものほど価値が高まります。
カット
トリプライトは3方向に劈開があり、硬度も5~5.5と高くありません。また不純物を含む個体が多く、ファセットカットに耐えられる個体は多くないのが実情です。
トリプライトのカットには、尋常ならざる集中力と技量が要求されることでしょう。
そんな熟練カッターの手を経たトリプライトは、まばゆく光を反射し、たとえようのない美しさです。見事なファセットカットが施されたトリプライトは、一段と価値が高まります。
透明度
トリプライトは、不純物が混じりやすい環境で生成します。そもそも透明な個体に成長するのが難しいため、透明度の高いトリプライトは高く評価されます。
カラット
他の宝石と同様、トリプライトもカラットが大きいほど価値があります。結晶は塊状であることが多く、宝石品質の部分だけを切り出すと、サイズはかなり小さくなってしまいます。
ルース市場にある大半のトリプライトは0.5カラット以下であり、大きなルースは非常に稀です。1カラットを超える個体があれば、非常に高い価値を持つでしょう。
世界的に有名なアメリカのスミソニアン博物館には、唯一無二・最高品質といえるグレードのトリプライトが所蔵されています。
2.6カラットの目が冴えるような鮮やかなオレンジ色が印象的な、ファセットカットが施されたルースです。
大きさも色も、カットの美しさも申し分ありません。高品質なトリプライトは、博物館級の希少性を持つとわかる事例です。
■インクルージョンにもなるトリプライト
トリプライトはそれ自体がルースとなるほか、他の鉱物のインクルージョンになる場合もあります。GIAのレポートから、3つの例を紹介します。
ベリル(緑柱石)に内包されたトリプライト
ベリルは、緑色や黄緑色、黄色、ピンク色、赤色、青色など、さまざまな色を見せる石です。このうち、カラーレス(無色)のベリルがトリプライトを内包した標本が発見されています。
内包されたトリプライトは、茶色がかったオレンジ色をしています。このベリルはパキスタン産とのこと。トリプライトもパキスタンが産地ですから、この組み合わせに不思議はありません。
ただ、トリプライトは珍しい鉱物です。この標本のオーナーは、レアストーンを内包したベリルだと分かって、とても喜んでいたそうです。
トパーズ(黄玉)に内包されたトリプライト
次に紹介するのは、トパーズに内包されたトリプライトです。なんと20.58カラットものカラーレストパーズが、トリプライトを内包しています。そしてこの標本は、GIAが初めて「トパーズに内包されたトリプライト」を認めた、記念すべき例です。
この標本が見つかった場所も、パキスタンです。当初、この内包物はトリプライトか、あるいはヴェイリネナイト(Väyrynenite)かといわれていました。
ヴェイリネナイトはピンク色をしたマンガンを含む単斜晶系のリン酸塩鉱物です。しばしば、トリプライトと共に見つかります。
この内包物は、レーザーラマン分析という手法で解析にかけられました。ただ、トリプライトとヴェイリネナイトは非常に似た解析結果を示すため、分析は至難でした。
最終的には、トリプライトは微量の鉄を含むが、ヴェイリネナイトは鉄を含まない点が決め手となり、このトパーズの内包物がトリプライトだと識別できたそうです。
クォーツ(石英)に内包されたトリプライト
最後は、コレクターならきっと欲しくなる美しさの逸品です。カラーレスで透明度の高いクォーツが、ピンクを帯びたオレンジ色のトリプライトを内包しています
クォーツはインクルージョンの種類が豊富な石として知られていますが、レアストーンを内包していると聞けば、ちょっと気になりませんか?
この標本の大きさは、なんと30.80カラット。中国・湖南省で見つかったものです。これも、GIAが知る限りで初めて見つかった、クォーツに内包されたトリプライトだったそうですよ。
■トリプライトの魅力
トリプライトの最大の魅力は、その希少性にあります。宝石品質の結晶を産出する鉱床は世界的にも限られており、国内で流通しているルースの数もごくわずかです。
品質の良い、美しい個体となると、宝石関係者でも滅多にお目にかかれません。
オレンジを基調とした鮮やかな色合いも印象的です。ビビッドなオレンジは強い存在感を放ち、サーモンピンクのルースは上品な愛らしさを湛えています。
オレンジサファイアやパパラチアサファイア、スペサルティンガ―ネットなどのオレンジカラーの宝石とともに、コレクションに加えたくなる色彩です。
リチオフィライト(Lithiophilite・リチオフィル石)は、濃いオレンジ色をしたリン酸塩鉱物です。
トリフィライト(Triphylite・トリフィル石)に含まれる鉄分が、マンガンに置きかわるとリチオフィライトになります。
トリプライトにトリフィライト、リチオフィライト……まるで「誤植?」と言いたくなるほど名前も似ていますが、それぞれ別の鉱物種です。
■トリプライトにまつわる逸話
トリプライトは1813年にフランスで発見されました。場所はオートヴィエンヌ県シャントルーブ(Chanteloube, Haute-Vienne)です。
3方向に劈開を持つ性質から、ギリシャ語の「triplos(トリプル)」に由来して名前がつきました。
トリプライトは日本でも確認されています。1977年に茨城県雪入(ゆきいり)で発見され、その後福岡県長垂(ながたれ)や群馬県津久原鉱山でも見つかりました。群馬県での発見は2022年と、比較的最近のことです。
ルース市場に登場したのは2000年代に入ってからです。GIAの「Gems & Gemology」誌2004年冬号には、北パキスタンのシガール渓谷(Shigar Valley)で発見された、7.16カラットの鮮やかなオレンジ色トリプライトが紹介され、注目を集めました。シガール渓谷は、最寄り都市アルクーリ(Alchuri)から5〜6時間歩いてようやく到達できる山深い場所です。このトリプライトと同時に、ヴェイリネナイト(Väyrynenite)の透明な結晶も見つかっています。
■トリプライトの産地

トリプライトは、イギリス(コーンウォール)やロシア(ウラル山地)、フランスやドイツ、フィンランド、ナミビア、アメリカ、そして日本など、さまざまな場所で見つかっています。
ただ、残念なことに、発見されるトリプライトの大半は標本向き。宝石品質のトリプライトはほとんど見つかりません。日本で見つかったトリプライトも、黒色~黒褐色の塊状で、まるで二酸化マンガンのように見えたそうです。
透明度が高く宝石品質を満たすトリプライトは、パキスタンや中国から発見されています。
2. 鉱物・原石としてのトリプライト

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出典:英語版Wikipedia
By Rob Lavinsky, iRocks.com – CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=10419335
ここからは、トリプライトを鉱物・原石の観点から見ていきます。トリプライトが希少な理由や、トリプライトができる環境についても解説します。
■組成について
トリプライトの組成情報は、以下のとおりです。
英名 | Triplite(トリプライト) |
和名 | トリプル石 |
成分 | (Mn2+,Fe2+,Mg)2(PO4)(F,OH) |
結晶系 | 単斜晶系 |
硬度 | 5~5.5 |
屈折率 | 1.64~1.70 |
劈開 | 良好(3方向) |
色 | 赤色、オレンジ色、サーモンピンク色、赤褐色 など |
産地 | ブラジル、パキスタン、アルゼンチン、アメリカ、フランス、ドイツ、フィンランド、ロシア、イギリス、ナミビア、スウェーデン、チェコ、アルゼンチン、アフガニスタン など |
トリプライトの成分は、(Mn²+,Fe²+,Mg)₂(PO₄)(F,OH)とあらわされます。リン酸塩とフッ素(F)もしくは水酸基(OH)が組み合わさったところに、2価のマンガン(Mn)が結合した形が一般的です。
マンガンの一部が鉄(Fe)やマグネシウム(Mg)に置換されることもあり、成分によって色合いに変化が起こります。マンガンの含有率が高いほどオレンジ色が強くなり、赤褐色~サーモンピンクになるといわれます。
■原石の形状

トリプライトの結晶形は、単斜晶系です。ただし、きれいな結晶に成長する個体は滅多に見られません。大半は塊状で、他の鉱物との集合体になるケースも多く、宝石品質の部分を切り出すのは大変難しいといわれます。
トリプライトが生まれる環境は、花崗岩ペグマタイトです。
多様な成分を含むペグマタイトで生成することは、生成環境に不純物が多いことを意味します。トリプライトがオレンジを中心とした豊かな色相を示すのも、前述のように不純物の影響でした。
不純物は魅力的な色合いを生み出す一方で、宝石としての価値を下げる要因にもなります。トリプライトは、生成環境からして透明になりにくい宝石なのです。
目に見えるインクルージョンのない、透明度の高いトリプライトは、その希少性ゆえに価値が高いことが、この点からも理解できます。
ペグマタイトは、地中のマグマが冷え固まって花崗岩になった後、残った成分が岩石化したものです。
主要な構成鉱物は石英や長石ですが、多種多様な成分も含み、多くの宝石の原石ともなります。
■鉱物観点からみるトリプライト

トリプライトは、リン酸塩鉱物の一種です。リン酸塩鉱物とは、金属元素とリン酸基(PO₄)が結びついた鉱物で、200種以上の鉱物種が属します。ターコイズ(トルコ石)やアパタイト(燐灰石)、ラズライト(天藍石)、ブラジリアナイト(ブラジル石)なども、リン酸塩鉱物の仲間です。
リン酸塩鉱物グループには200種以上が含まれますが、そのほとんどが希少である点も興味深いポイントです。なぜ希少なのでしょうか。
まず、自然界においてリンは偏在性の強い元素です。偏在性とは、元素が存在する場所に偏りがある性質のことを指します。つまり、「ある場所にはあるが、ない場所には存在しない」ということです。リン鉱床は陸地では中国の雲南省・貴州省・四川省・湖南省・湖北省に集中し、海洋ではメキシコやコンゴ、南米付近の海底に偏在しています。
リン酸塩鉱物が希少になる理由はここからもわかります。鉱物が生成する際、近くにリンが存在しなければリン酸塩鉱物は形成されません。しかし、必ずしも鉱物ができる場所にリンがあるとは限らないのです。
トリプライトはペグマタイトで生成します。つまり、トリプライトが生まれるためには、地球に偏在するリンがマグマに溶け込み、他の鉱物にならずペグマタイトに残され、結晶化する必要があります。この点からも、トリプライトが希少鉱物といわれる理由が垣間見えます。
3. トリプライトをより楽しむために

最後に、ルースや原石とは少し違った角度からトリプライトを楽しむ方法を紹介します。
■誕生石・石言葉
トリプライトは広く知られた石ではないため、誕生石には指定されていません。
石言葉は「魅了」「高潔」「愛情」。人間関係を円滑にしたいときや恋愛を成就させたいとき、自分の魅力を高めたいときに寄り添う石です。
また、3方向に劈開がある性質から「三つの願いを叶える石」とも呼ばれます。劈開がスパッと割れる様子が、道を切り開く象徴と見なされたのでしょう。
入学や就職・転職、新しい環境に向かう際に、心に浮かぶ不安を和らげてくれるかもしれません。
■ビーズなどの加工品

トリプライトは透明度の高い個体が稀であると前述しました。つまり、不透明な個体も存在します。
透明度が低いトリプライトは、ビーズに加工されることもあります。ビーズになることで、不純物もまた独特の魅力として楽しめます。地球から切り出された自然の姿は、素材としての力強さを感じさせます。
なお、トリプライトに含まれるリンやマンガンは、生物にとって欠かせない成分です。リンは骨や歯を丈夫にし、細胞やDNAの構成に関わります。マンガンは体内の酵素の働きを助け、代謝をサポートします。こうした成分を含む石として、ビーズを身につけることでも自然の存在感を感じられるでしょう。
トリプライトは3方向の劈開を持つ脆い石です。そのため、ルースやビーズとして身につける際は、硬いものとぶつけないよう注意が必要です。
劈開とは、結晶が特定の方向に割れやすい性質。トリプライトの場合、ちょっとした衝撃で割れやすく、特に角や縁部分は注意が必要です。指輪やブレスレットに使う場合は、デスク作業や家事など日常の衝撃にも気を配ると安心です。
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4. まとめ
トリプライトは、オレンジ色やサーモンピンクが美しい希少な宝石です。含有するマンガンの量が多いほど、オレンジ色は鮮やかになります。
世界各地で産出はされますが、宝石品質の個体はパキスタンや中国など限られた鉱床でしか見つかりません。塊状の結晶は大きく成長しにくく、さらに劈開や脆さもあるため、高品質なルースは非常に稀です。
一般の天然石ショップではなかなか出会えないトリプライトも、宝石・ルース専門店や大規模なミネラルショーでは手に入ることがあります。色相豊かな個体を手にすることは、宝石コレクションにおいて特別な体験となるでしょう。
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この記事を書いた人

みゆな
TOP STOneRY / 編集部ライター
トップストーン編集部がお届けする「トップストーリー」メディアでは、古くから愛されている誕生石の歴史やエピソード、最新のレアストーンの特徴、宝石の楽しみ方をわかりやすく解説しています。「天然石の魅力をもっと多くの方に知ってもらいたい」という想いで、個性溢れるライターが情報発信しています。