2024/07/26

フレッシュな黄緑色の輝き・ブラジリアナイト|逸話や鉱物的魅力も解説

「ブラジリアナイトって、“ブラジルの石”ということ?」「まさか、そんな安直な名づけ方はしないでしょう?」

…実は、その推測は当たっています。ブラジリアナイトはブラジルで発見され、ブラジルの国名を名前に冠した宝石。発見地名はしばしば宝石名になるとはいえ、わかりやすさのお手本のような例です。

さて、そんなブラジリアナイトは、国内ではほとんど知られていないレアストーンです。イエローグリーンの明るい色味は人気のカラーですが、産出量が少なく、日本に入ってくる数も限られるためでしょう。一部のコレクターのみが知る、希少石です。

今回は、そんなブラジリアナイトを宝石、そして鉱物の観点から詳しく紹介します。最後まで読めば、ブラジリアナイトを迎えたい気持ちでいっぱいになるかもしれません。ぜひ、お付き合いくださいね。


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1. 宝石・ルースとしてのブラジリアナイト

まずは宝石・ルースの美しさの観点から、ブラジリアナイトに迫ります。品質の良いブラジリアナイトの条件や、ブラジリアナイトとともに押さえておきたい宝石も紹介します。

■高品質なブラジリアナイトとは

ブラジリアナイトの品質は、他の宝石と同様にカラーと透明度、カット、カラットの4要素で決まります。

カラー

ブラジリアナイトでもっとも多いカラーは、明るい黄色から黄緑色です。フランスのカルトゥジオ会修道院で作られるリキュールにたとえた、「シャルトルーズイエロー」と呼ぶ場合もあります。

無色や緑色の個体もありますが、どの色でも発色が鮮やかで均一なものほど、価値が高いとされます。

透明度

ブラジリアナイトには、天然石ならではのインクルージョンが含まれます。他の鉱物を内包したものもあれば、液体を包み込んだものもあります。また、脆い性質ゆえ、クラックが入るのもやむを得ないでしょう。

もちろん、透明度が高いほど価値が上がります。ただ、そもそもが希少なブラジリアナイト。多少のインクルージョンは石の個性と考え、市場のルースを見てみてはいかがでしょうか。

カット

ブラジリアナイトはとても割れやすく、カッター泣かせの石といわれます。硬度が5.5と決して高くなく、劈開があるのも割れやすい要因。カットの際は、石を固定するために後で除去できる接着剤で固定しますが、それでも機械の振動で粉々に割れることもあるそうです。

だからこそ、ファセットカットされたブラジリアナイトは希少で、コレクターが取り合う人気です。

カラット

ブラジリアナイトの結晶そのものは、大きなサイズで産出することもあります。ただ、前述のとおり、宝石品質たる部分を見極め、切り出すのは至難のわざ。ルースに仕上がったブラジリアナイトは、どうしても小さくなってしまいます。

私たちが市場で見られる宝石品質たるブラジリアナイトは、1~2カラット程度。それ以上のサイズは、めったに流れてきません。

ただ、インクルージョンが多く透明度が低い個体は、比較的大粒のまま流通することがあるようです。

■20世紀に発見された三大宝石

ブラジリアナイトは、「20世紀に発見された三大宝石のひとつ」とされています。では、残る2つの宝石は、何でしょう?

答えはタンザナイト」と「シンハライトです。

圧倒的に有名なのは、タンザナイトですね。ゾイサイト(緑簾石)の変種で、バナジウムを含むものです。日が沈んだあとの西の空を彷彿とさせる、澄んだ青紫色がとても美しい石です。

シンハライトは、緑がかった褐色が個性的な宝石。見る角度によって異なる色が見える「多色性」を持ちます。また、新種と認定されるまでに紆余曲折があった宝石です。

20世紀に発見された三大宝石、ブラジリアナイトとタンザナイト、シンハライトは、いずれも発見地名が宝石名になっているという共通点があります。

ブラジリアナイトはブラジル、タンザナイトはタンザニアが発見地です。シンハライトの発見地は、実はスリランカ。古代インドで使われていたサンスクリット語(梵語)で、スリランカを意味する「Sinhala(シンハラ)」が由来です。

20世紀に発見されたというだけではなく、ストレートな名前の付け方も共通しているとは興味深いですね。

■ブラジリアナイトの魅力

ブラジリアナイトの魅力は、なんといってもカラーでしょう。明るい緑がかった黄色はフレッシュで美しく、エネルギッシュです。

レモンイエローやライムイエローなど、柑橘系の色にたとえられることもあります。

ただ、この色合いのために、ブラジリアナイトはしばしば他の宝石と混同されてきました。

ブラジリアナイトを、紛らわしい他の宝石と区別するポイントは、記事の後半で解説します。

■ブラジリアナイトにまつわる逸話

ブラジリアナイトは、1942年に発見され、1945年に新種鉱物だと発表された、新しい宝石です。ただ、発見から地位を確立するまでには、二転三転の歴史がありました。

発見までのストーリー

最初の発見者は、ミナスジェライスで開墾作業にあたっていた、現地の農家だといいます。農家は開墾作業をしながら、見慣れない石の塊を見つけました。一説には、3キロほどもあったとか。
農家が一攫千金を狙ったかどうかはわかりませんが、彼は執念深くあたりを調べます。そしてやがて、発見した鉱物の鉱床に至ります。

ただ、宝石品質の石、高く売れそうな石がなかったのでしょう。発掘作業は、まもなく中止されたといいます。

数か月後。
ある宝石バイヤーが、農家が持っていた鉱物を入手します。さすが宝石バイヤーといったところか、彼はその石をクリソベリルだと考えて、発見地を農家から教えてもらいます。

ただ、残念ながら、この石はクリソベリルではありませんでした。カットしようとすると砕け散ってしまいます。宝石バイヤーは石の採取を諦め、鉱床はまた静けさを取り戻しました。

事態が変わったのは、1945年のことです。宝石バイヤーから標本を入手していたアメリカの鉱物学者が、この鉱物は新種だと鑑別したのです。この鉱物学者の名前は、フレデリック・ハーベイ・パフ(Frederick Harvey Pough|1906- 2006)。同じくアメリカの化学者だったエドワード・P・ヘンダーソン(Edward P. Henderson|1898 - 1992年)とともに、新種鉱物の発見を発表しました。

クリソベリルかアンブリゴナイトか、はたまた別の鉱物か…と紆余曲折を経た鑑別の結果、まったく新しい鉱物であるとわかったのです。

その後、1948年と1956年に、アメリカでもブラジリアナイトの鉱床が見つかり、現在に至ります。

ブラジリアナイトの命名ストーリー

農家の発見から新種認定まで、山あり谷ありだったブラジリアナイト。実は、名前の決定もとんとん拍子に…というわけにはいきませんでした。

そもそも、最初はこの鉱物に「ブラジライト(Brazilite)」という名前がつく予定だったそう。ところがブラジライトという名前は、すでに別の鉱物が所有していました。そこでやむなく、「ブラジリアナイト」という名前に決まったそうです。

ブラジライトという名前が与えられていた鉱物は、後の「バデライト(Baddeleyite)」です。

ちなみに、ブラジリアナイトは英語で「Brazilianite」と綴ります。Brazilianiteは、かつて銀星石(ウェイベライト・Wavellite)に使われていました。そこで、BrazilianiteをBrasilianiteとしたかったのですが、その時はすでにBrazilianiteが広まっており、そのまま今に至る…とか。

なんとも複雑な事情ですが、なんとしても「ブラジル」の国名を冠したかったという執念が感じ取れるストーリーです。

そんなブラジルは、ブラジリアナイト以外にも多くの高品質な宝石を産出しています。ブラジルにあるパライバ州の名前を冠したパライバトルマリンや、同じくブラジルのサンタマリア鉱山で発見されたサンタマリアアクアマリンなど、ブラジルで見つかった宝石を挙げればきりがありません。

「ブラジル」の国名を冠した名前をつけたかった宝石は、ほかにもあったのではないでしょうか。発見の順番が前後していれば、別の宝石に「ブラジリアナイト」の名がついていたかもしれませんね。

■ブラジリアナイトの産地

ブラジリアナイトが産出するのは、南北アメリカ大陸です。

最大の産地は、ブラジルのミナスジェライス州とパライバ州。ほか、アメリカのニューハンプシャー州やカナダのユーコン準州でも採集されています。

さて、ブラジリアナイトの主成分のひとつであるリン(P)は、偏在性が強い物質です。つまり、「ある場所には豊富にあるが、ない場所にはない」ということ。リンを含む鉱物の多くの産地が限られているのは、リンの偏在性という性質によると考えられます。

ブラジリアナイトが南北アメリカ大陸でのみ採れるのも、おそらくはこのリンの偏在性が理由でしょう。

ちょっとひと息 - リンの重要性と争奪戦の話 -

リンは農業用肥料としてとても重要な物質です。ところが今後、150~550年程度で採掘可能なリンは掘りつくされるといわれており、リン不足が世界的な問題になりつつあります。

過去には、リンを巡るゴールドラッシュともいわれる「グアノラッシュ」という争奪戦がおきたこともありました。グアノとは鳥の糞のこと。リンを豊富に含む鳥の糞は、昔から良質な肥料として活用されていました。

南米のペルーといえば、かつてインカ帝国が栄えた地です。そのペルーでは、堆積した鳥の糞(グアノ)を使って、高地にある痩せた土地でもジャガイモを栽培できていたといいます。このことからグアノの有用性に目をつけたヨーロッパ人が、国を挙げて肥料の原料としてグアノを取り合った、そんな出来事がグアノラッシュです。

ブラジリアナイトが南米で採れることとグアノに関連性があるのか、ないのか…、ブラジリアナイトを眺めながら、古代インカ帝国の時代にまで思いを馳せるのも楽しいひと時となりそうです。

2. 鉱物・原石としてのブラジリアナイト

ここからは、ブラジリアナイトについて鉱物・原石の観点から迫ります。ブラジリアナイトが属するリン酸塩鉱物の特徴もまとめました。

■組成について

ブラジリアナイトの組成情報は、以下のとおりです。

英名(カタカナ) Brazilianite(ブラジリアナイト)
和名 ブラジル石
成分 NaAl3(PO4)2(OH)4
結晶系 単斜晶系
硬度 5.5
屈折率 1.60~1.62
劈開 良好(1方向)
明るい薄黄緑色、淡黄色、帯緑黄色
産地 ブラジル、アメリカ、カナダ

■原石の形状

ブラジリアナイトは、単斜晶系の鉱物です。結晶の多くは角柱状か槍状で見つかります。結晶が成長する方向に向かって、条線ができるのも特徴です。
結晶の長さは、さまざま。産地のブラジルでは、15センチにも伸びたブラジリアナイトが見つかることもあるそうです。

その他、放射状や繊維状、球状で発見されるものもあります。

■鉱物視点からのブラジリアナイト

ブラジリアナイトは、リン酸塩鉱物の一種です。リン酸塩鉱物の仲間は、200種以上。比較的、色鮮やかな鉱物が多いのが特徴です。

ターコイズ(トルコ石)やバリサイト(バリシア石)も、リン酸塩鉱物です。透明度が高く宝石品質の結晶も産出するリン酸塩鉱物には、アパタイトトリプライトラズライトアンブリゴナイトなどがあります。

また、リン酸塩鉱物の多くは硬度が高くありません。ブラジリアナイトの硬度5.5は、リン酸塩鉱物では最高値といえる高さです。硬度2~2.5と脆い仲間もいるほか、砕いて顔料にされるほどの硬度しかもたない鉱物(※)もあります。

(※) 藍鉄鉱(ヴィヴィアナイト)、硬度1.5~2。「色あせない青」として、顔料に利用されました。プルシャンブル―と呼ばれる独特の青色は、教会の壁画にも使われています。

■ブラジリアナイトと似た宝石を区別するポイント

ブラジリアナイトの明るい黄緑色は、過去多くの宝石と混同されてきました。ブラジリアナイトと、似た宝石とを物理的特徴から区別してみましょう。

以下に、ブラジリアナイトおよび混同されやすい宝石の特徴をまとめました。色はどれも似た黄緑色をしているとしましょう。

あなたなら、どのポイントを比べて区別しますか?

硬度 屈折率 比重
ブラジリアナイト 5.5 1.60~1.62 3.0
クリソベリル 8.5 1.74~1.76 3.68~3.80
トパーズ 8 1.61~1.62/1.63~1.64 3.56~3.57/3.50~3.54
アパタイト 5 1.63~1.65 3.1~3.2
イエローベリル 7.5~8 1.57~1.61 2.60~2.90

※トパーズの屈折率・比重は、前の数値がFタイプ、後ろの数値がOHタイプ

ブラジリアナイトとクリソベリルトパーズイエローベリルは、硬度を比べると良さそうです。
ブラジリアナイトとアパタイトアンブリゴナイトなら?屈折率を比較すると区別できるでしょう。

ただ、私たちが物理的特徴を調べるには、石に傷をつけなければならない場合も、よくあります。大切なコレクションです、できれば傷はつけたくないですよね。

かけがえのないコレクションほど、信頼できるルース専門店で探すようにしましょう。鑑別書がついていると、尚安心です。

3. ブラジリアナイトをより楽しむために

希少なブラジリアナイトも、あなたの手元に迎えられる日がくるかもしれません。コレクションに明るいイエローグリーンの石がキラッと加わる日のために、ブラジリアナイトをもっと身近に楽しむヒントをお届けします。

■誕生石・石言葉

ブラジリアナイトは、どの国でも誕生石には指定されていません。

ただ、黄緑色のスフェーン(7月)やペリドット(8月)、トルマリン(10月)の代わりに大切な人に贈っても素敵です。

ブラジリアナイトの石言葉は「リフレッシュ」。気持ちを前向きにし、自分を大切にしながら前に進みたいときにおすすめの石です。エネルギーを取り戻し、自分らしく生きたい人にも向いています。

■ブラジリアナイトの加工について

ブラジリアナイトは、そもそも産出量が多くありません。希少な生産分は原石のまま、あるいはルースになりコレクター向けに販売されます。ジュエリー市場ですら、ほぼみかけられないほど。まさに、コレクター向けの石といえます。

ビーズや、アクセサリー向けのブラジリアナイトも、残念ながら皆無。ブラジリアナイトを手に入れたい場合は、結晶標本やルースを探してみてください。

【豆知識】ブラジリアナイトのお手入れ
ブラジリアナイトは、熱によって色褪せます。140度に達すると色が抜け始め、300で無色になるとか。ケースに入れたブラジリアナイトを、直射日光が当たる場所に放置することはやめましょう。
また、割れやすいという性質を踏まえ、細心の注意を払ってお手入れします。強い振動を与えたり、歯ブラシで強くこすって汚れを落としたりといった行為は、避けてください。


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4. まとめ

ブラジリアナイトは、1945年に新種と認定されたブラジルで見つかった宝石です。クリソベリルやイエローベリルに似た明るい黄緑色がフレッシュな印象。エネルギーに満ちあふれ、持つ人をポジティブな気分にしてくれます。

ただ、希少性では他のレアストーンにひけをとりません。リン酸塩鉱物であること、また脆く加工がしにくい性質などが、希少性に拍車をかけています。

ミネラルショーやルース専門店でブラジリアナイトに出会えたら、それが一期一会かもしれませんね。細部まで丁寧に愛で、コレクションへのお迎えを考えてみてはいかがでしょうか。


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この記事を書いた人

みゆな

TOP STOneRY / 編集部ライター

トップストーン編集部がお届けする「トップストーリー」メディアでは、古くから愛されている誕生石の歴史やエピソード、最新のレアストーンの特徴、宝石の楽しみ方をわかりやすく解説しています。「天然石の魅力をもっと多くの方に知ってもらいたい」という想いで、個性溢れるライターが情報発信しています。