2024/11/08

 

2024/12/11

青の神秘、ラズライト(天藍石):美しさの秘密から鉱物学的解説まで

「ラズライト」という名前、どこかで聞いたことがあるかもしれませんね。ただ、もしかすると、聞いたことがあるラズライトは、今回紹介するラズライトではないかもしれません。では一体、そのラズライトとは、何なのか…、なんだかミステリアスな展開になってきました。

今回紹介する石は、レアストーン「ラズライト」です。和名は天藍石、名前のとおり空(天)の青さをギュッと詰め込んだような、鮮やかなブルーが印象的な石です。

では、もう1つのラズライトとは?実は2つある「ラズライト」の解説から、さっそく始めていきましょう。


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1. 「ラズライト」と紛らわしい宝石を区別しよう

ラズライト(天藍石)を語る前に、まず正確に押さえておかなければならないことがあります。それは、名前が紛らわしい他の宝石との区別です。

<ラズライト(天藍石)と紛らわしい宝石>

ラズライト(青金石)

アズライト(藍銅鉱)

セレスタイト(天青石)

それぞれの特徴を押さえ、ラズライト(天藍石)と区別していきましょう。

■ラズライト(青金石)

カタカナ表記にすると、まったく同じになる石が青金石のラズライトです。ラズライト(天藍石)とは、英名のスペルが1文字だけ違います。

ラズライト(天藍石) Lazulite
ラズライト(青金石) Lazurite

「〇〇ライト」のラにあたる部分のスペルが、天藍石のほうは「L」・青金石は「R」です。非常に紛らわしいため、ラズライト(天藍石)を英語の発音に準じて「ラズーライト」と表記したり、あえて和名で書き分けたりもします。


ラピスラズリの画像

ラズライト(青金石)は、ラピスラズリの主成分です。ラピスラズリはケイ酸塩鉱物の仲間で、濃紺の地色にパイライトの金色やカルサイトの白色が斑模様に入ります。

顔料としても優秀で、発色が良いと昔から愛されてきました。ラピスラズリを砕いて作った鮮やかなブルーは「ウルトラマリン」と呼ばれています。

有名なフェルメールの「真珠の耳飾りの少女」(1665年ごろ)にも、ウルトラマリンが使われています。

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ラピスラズリについてはこちらの記事で詳しく解説しています。


■アズライト(藍銅鉱)

ラズライトから「L」をとったような発音の宝石が、アズライト(藍銅鉱)です。炭酸塩鉱物の仲間で、一様に鮮やかなブルーが目を引きます。
銅の代表的な二次鉱物で、やはり銅の二次鉱物であるマラカイト(孔雀石)と共生することから、「ブルー・マラカイト」とも呼ばれます。

パキスタンではアズライト(藍銅鉱)を含む花崗岩が採れ、「K2ブルー」と呼ばれるレアストーンとして蒐集家から高い人気を誇ります。

■セレスタイト(天青石)

一般のラズライト(天藍石)に関する記事では、紛らわしい宝石として「ラズライト(青金石)」「アズライト(藍銅鉱)」だけが紹介されています。
しかし、そこはTOP STONE が監修する"TOP STOneRY"、さらに踏み込んで、紛らわしい名前の宝石をもう1つ紹介しましょう。

ラズライトの和名「天藍石」と紛らわしい「天青石」の和名を持つ石、セレスタイトです。

セレスタイトは硫酸ストロンチウムを主成分とする鉱物で、爽やかな青灰色が特徴的。発見された結晶が目にも鮮やかな水色だったため、「大空の色(セレスチアル・Celestial)」にちなんで、セレスタイトと名付けられました

硬度が3〜3.5と非常に脆く、完全な劈開を持っているため、結晶は人の手で簡単に割れてしまいます。ファセットカットが難しい石としても知られており、美しくカットされたルースは、この上ない価値を持ちます。

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セレスタイトについてはこちらの記事で詳しく解説しています。

2. 宝石・ルースとしてのラズライト(天藍石)

ここからは、ラズライト(天藍石)を宝石・ルースの観点から深めていきましょう。高品質とされるラズライトの条件や魅力、逸話などを解説します。

■トップクオリティのラズライト(天藍石)とは

ラズライト(天藍石)は流通量が多い宝石ではないため、品質の基準がまだ確立途中です。販売業者の主観で値がつくこともあるようです。

ただ、通常の宝石と同様に、高品質とされる条件は存在します。

カラー:濃青色~青紫色のほうが価値が高い

透明度:透明度が高い個体のほうが、価値が高い

カラット:大きいほうが価値が高い

ラズライト(天藍石)のカラーは、海のような純粋な青色から、緑色や灰色がかかったブルーまでさまざまです。このうち、宝石として価値が高いとされるのは、濃く鮮やかなブルー。緑・灰色の色合いは、少ないほうが望ましいとされます。

また、ラズライトは石英脈や花崗岩ペグマタイトといった、不純物の多い環境で生成します。インクルージョンが入るのは、いたしかたないと見る向きもあります。
ラズライトのインクルージョンには気泡や液体、またフェザー状に他の鉱物が混じることもあります。
インクルージョンをラズライトの個性として愛でるのも、1つの楽しみ方ではないでしょうか。

■ラズライト(天藍石)の特徴

    ラズライト(天藍石)は、特有の多色性を持っています。

    多色性とは、宝石を見る角度によって異なる色が見える光学現象です。ラズライトは角度を変えると、濃紺色やエメラルドグリーン、鮮やかなブルーなどに色を変化させます。

    ちなみに、ラズライトの青色はマグネシウムと鉄に由来します。マグネシウムの鉄のバランスによって、濃紺から淡青色まで地色を変えるといいます。鉄が豊富なほど、色が濃くなるそうです。

    次のミネラルショーでは、ぜひラズライト(天藍石)の青色に注目してみてください。同じラズライトでも、別の宝石かと思うほどに色合いが異なるルースや、豊かな青の多色性に魅入られること間違いなしです。

    ■ラズライトインクォーツ

      石英脈で生成する過程で、ラズライト(天藍石)の微細な結晶が石英(クォーツ)に取り込まれる場合があります。

      ラズライトを取り込んだクォーツは、無色透明、あるいは白色の地色にブルーの斑模様が生まれます。宇宙空間にただよう星々を思わせる、奥行きある美しさが個性的。

      インクォーツ好きのコレクターはもちろん、青い宝石が好きな人、他とはちょっと違う個性的なコレクションにしたい人などに、おすすめしたい宝石です。

      ■ラズライト(天藍石)にまつわる逸話

      ラズライト(天藍石)は1795年、オーストリアで発見されました。シュタイアーマルク州にあるフライスニッツグラーベン(Freßnitzgraben)が発見地です。

      実は、ラズライトは新鉱物と認定される以前から、人々に知られてはいました。ただ、青金石のラズライトと混同されていたようです。ドイツ人科学者マーチン・ハインリッヒ・クラップロート(Martin Heinrich Klaproth|1743年 – 1817年)がラズライト(天藍石)の標本を分析し、新しい鉱物だと気づいたとか。
      ちなみにマーチンは、ウランとジルコニウム、セリウムの発見者でもあります。

      青い新鉱物・ラズライト(天藍石)を発見したマーチンは、中世ラテン語で「青色」を意味する「ラズリウス(Lazulius)」にインスピレーションを得て、ラズライトの名前を付けました
      ちなみに、青金石のラズライトも、同じラズリウス由来です。

      現在、ラズライト(天藍石)は美しい結晶を産地するカナダ・ユーコン準州の「州の公式な宝石」に指定されています(1976年〜)。

      ■ラズライト(天藍石)の主な産地

      美しい結晶標本は、以下から産出します。

      ・スウェーデン

      ・オーストリア

      ・スイス

      ・カナダ(ユーコン準州・マウントフィットン)

      ・アメリカ(カリフォルニア州・ホワイトマウンテン)

      州の公式な宝石にラズライトを指定しているカナダ・ユーコン準州は、時に「世界最良のラズライト産地」ともいわれます。ユーコン産のラズライトは結晶面の照りが素晴らしく、錐状に成長した濃紺の結晶が、得も言われぬ存在感を醸しだします

      また、大きなラズライト結晶は、スウェーデンで採れるようです。小さな結晶が多いラズライトながら、過去には30cmほどの大きさの結晶が採れた記録もあるそうです。

      宝石品質のラズライト産地なら、ブラジルでしょう。青みの美しさでは、シベリア産に軍配が上がります。

      実は、日本でも2か所からだけ見つかっています。茨城県日立鉱山から1937年に発見され、後に栃木県の那須鉱山から1982年に採取されました。

      また、岐阜県苗木の花崗岩ペグマタイトからは、マグネシウムより鉄分の多いスコルザライト(Scorzalite・鉄天藍石)も見つかっています。

      ラズライト(天藍石)の成分による違いは、次の章で詳しく解説します。

      3. 鉱物・原石としてのラズライト(天藍石)

      Wikipedia掲載画像:Rob Lavinsky, iRocks.com – CC-BY-SA-3.0, CC 表示-継承 3.0,
      https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=10419062による

      ここからは、鉱物や原石の観点からラズライト(天藍石)に迫ります。含有する成分のバランスによって変わる色の面白さ、鉱物学的な特徴も解説します。

      ■組成について

      ラズライト(天藍石)の組成情報は、以下のとおりです。

      英名(カタカナ) Lazulite(ラズライト/ラズーライト)
      和名 天藍石(てんらんせき)
      成分 (Mg,Fe2+)Al2[OH|PO4]2
      結晶系 単斜晶系
      硬度 5~6
      屈折率 1.60~1.64、1.64~1.67
      劈開 不明瞭
      青色、淡青色、濃青色、紺碧色、空色、青白色、青緑色、稀に白色
      産地 アメリカ、インド、カナダ、ブラジル、ボリビア、アンゴラ、マダガスカル、スウェーデン、オーストリア、スイス

      ラズライト(天藍石)は、成分にリン(P)を含むリン酸塩鉱物の一種です。リン酸塩鉱物といえば、漫画やアニメで大人気となった「宝石の国」の主人公・フォスフォフィライトが属する鉱物グループ。全部で200種類以上あるともいわれる、大所帯です。

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      リン酸塩鉱物についてはこちらの記事でまとめて詳しく解説しています。ラズライト(天藍石)も登場、ぜひチェックしてみてください。

      ■原石の形状

      ラズライトの結晶

      【画像:Wikipedia掲載】
      By Rob Lavinsky, iRocks.com – CC-BY-SA-3.0, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=10447414

      ラズライト(天藍石)の結晶は、錐面がよく発達した状態で見つかります。しばしば、両方の先端が錐状になった両錐状の結晶に成長するものもあります。その他、塊状や粒状もよく見られる産状です。

      アルミナ(酸化アルミニウム)に富んだ変成岩や石英脈、花崗岩ペグマタイトで見つかります。

      母岩からぴょこんと飛び出た青い錐状結晶は、かわいらしさとクールさの同居が魅力。研磨される前の結晶でも、よく見ると多色性が確認できる個体もあります。 錐面が反射する光が多彩な標本もあり、ぜひ、手元に置いてじっくり眺めて欲しい石です。

      ラズライトが生成するためには高温高圧の環境と、リン(P)・アルミニウム(Al)・マグネシウム(Mg)・鉄(Fe)など、多くの元素が必要です。地質環境の条件を満たした場所でなければ形成されないため、産出量は多くなく、希少性の高い鉱物です。

      ■鉱物視点からみるラズライト(天藍石)

      ラズライト(天藍石)の成分式は、(Mg,Fe²⁺)Al₂[OH|PO₄]₂と表します。成分中の元素はさまざまに置き換わり、別の種類の鉱物になります。

      成分式の基本形を●²⁺▲³⁺₂[OH|PO₄]₂ と置き、主要な4種類の仲間を見てみましょう。

      成分式 英名 和名
      Cu2+Fe3+2[OH|PO4]2 ヘンチェライト ヘンチェル石
      Fe2+Fe3+2[OH|PO4]2 バルボサライト バルボサ石
      MgAl2[OH|PO4]2 ラズライト 天藍石
      Fe2+Al2[OH|PO4]2 スコルザライト 鉄天藍石

      おや、表中のラズライトは「MgAl₂[OH|PO₄]₂ 」ですが、上記では「(Mg,Fe²⁺)Al₂[OH|PO₄]₂」と表されていますね。
      ラズライトはマグネシウムと鉄の、どちらを含むのでしょうか。

      実は、ラズライトはマグネシウムも鉄も、両方含みます。そして、マグネシウムのほうが多いものを「ラズライト」といいます。
      マグネシウムと鉄の比率は連続的に変化します。ある一点で、鉄のほうがマグネシウムより多くなると、スコルザライト(鉄天藍石)になるというわけです。

      ちなみに、鉄が豊富なほど色は濃くなり、マグネシウムに富むほど淡い色合いになります。

      同じようにラズライトがカルシウムを含むとヘンチェライトになり、鉄だけを含むとバルボサライトと呼ばれます。

      4. ラズライト(天藍石)をより楽しむために

      ラズライト(天藍石)は希少な鉱物です。ただ、爽やかな青色は、ぜひともコレクションに加えたい色合い。ケース内の印象がパッと明るくなり、目を引くこと間違いありません。

      そんな標本コレクションの楽しみ方も含めて、ここからはラズライト(天藍石)をもっと身近に、もっと気軽に楽しむヒントを紹介します。

      ■誕生石・石言葉

      ラズライト(天藍石)は希少性ゆえに、誕生石には指定されていません。

      石言葉には、次のようなものがあります。

      ・直感力

      ・洞察力

      ・瞑想

      ・静寂

      「天使の石・天国の石」とも呼ばれ、ヒーリング効果が高いとしてパワーストーン愛好家からも人気が高い石です。

      ■ビーズなどの加工について

      透明度が高く、宝石品質のラズライト(天藍石)はとても希少です。小さな結晶も、標本として、あるいはルースになってコレクターの手元に渡ります。

      一方、白い斑模様のあるラズライトは、ビーズに加工されてかわいらしい姿で流通するものもあります。
      コロンとしたブルーグレーのビーズは、ナチュラルな美しさ。水星や天王星、海王星を思わせる、惑星のような神秘性も魅力です。

      ラズライトインクォーツ

      ラズライトを内包したラズライトインクォーツも、ビーズ市場で見かけます。淡いブルーと白色の地色のやわらかなコントラストが、なんともはかなげ。コレクションにも、アクセサリーにも最適な石ではないでしょうか。

      青金石のラズライト

      青金石のラズライトもビーズになり、流通しています。こちらも自然な雰囲気の、ブルーグレーの石。購入の際は、どちらのラズライトか気を付けてくださいね。


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      5. まとめ

      ラズライト(天藍石)はリン酸塩鉱物の一種で、濃紺から淡青色を呈する宝石です。産出量がごく限られており、希少石として扱われます。

      その特徴は、海や空を思わせる美しい青色。英名も和名も青に由来するほど、人を見入らせる魅力を持った石です。

      一般のジュエリーショップや天然石店では、なかなかお目にかかれないでしょう。天然石・ルース専門店や、各地で開催されるミネラルショーでチェックしてみてください。ルースも結晶標本もそれぞれに魅力があり、きっと迎えたくなるはずです。


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      みゆな

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