2024/10/18

隕石がもたらした奇跡「リビアングラス」 古代ファラオも魅了した希少な石を解き明かす

リビアングラスは、1934年に報告された比較的新しい宝石です。

隕石の衝突によって生成したと考えられる天然ガラスです。生成以来、何千万年も砂漠で眠り続けた歴史に、思わず思いを馳せたくなります。
アフリカ大陸にあるリビア砂漠一帯でしか採れず、絶対量が限られている希少性でも人気があります。

今回はリビアングラスについて、詳しく解説します。古代と宇宙にまで視野を広げ、地球が歩んできた時間を読み解いていきましょう。


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1. 宝石・ルースとしてのリビアングラス

はじめに、リビアングラスに「宝石・ルース」の観点から迫ります。美しさや価値基準、知られざる逸話も紹介します。

■トップクオリティのリビアングラスとは

リビアングラスの価値は、次の3つの観点で決まります。

  • 発色の美しさ

  • 透明度の高さ

  • インクルージョンの少なさ

リビアングラスはレモンイエローに近い淡黄色やオレンジ色、ライムグリーンを呈し、発色が美しい個体ほど評価が高まります。

また生成過程の特徴上、リビアングラスは気泡やクリストバライトなどのインクルージョンを含む個体が一般的です。

<用語解説>クリストバライトとは
クリストバライトとは、クォーツ(水晶・石英)と同質異像の関係にある、二酸化ケイ素を主成分とする鉱物です。
同質異像は、化学組成は同じで結晶の形が違う物質です。
水晶や石英よりもずっと高温の状況下で形成され、リビアングラスに含まれると白い粒状のインクルージョンとしてあらわれます。

インクルージョンが多すぎると透明度が下がり、宝石としての価値も下がります。高品質なリビアングラスとして評価される個体は、インクルージョンが極めて少なく、透明度が高いものです。

ただ、インクルージョンはリビアングラスの個性であり、魅力でもあります。リビアングラスが生成された瞬間の空気や物質が、内部に閉じ込められているのです。

まさにロマンあふれる宝石ではないでしょうか。

リビアングラスの気泡は「シュワシュワ」と表現したくなるみずみずしさを持っています。コレクターの中には、レモンスカッシュのようなシュワシュワ感あるリビアングラスを好む人もいます。

【豆知識】
「リビアングラス」という名前は、正式な宝石名ではありません。鑑別書に記される宝石名は「インパクトガラス(衝撃融解ガラス)」です。
そして「別名:リビア・ガラス」と添えられます。

ただ一般的にはリビアングラスという通称が浸透しているため、本記事でもリビアングラスとして解説します。

■リビアングラスの希少性

    リビアングラスの希少性は「おそらく今後二度と、同じ宝石が生み出されることはない」という表現で語り尽くせるのではないでしょうか。

    これはリビアングラスをはじめとするインパクトガラスや、モルダバイトに代表されるテクタイトすべてにいえることです。

    【豆知識】インパクトガラスとテクタイトの違い
    インパクトガラスもテクタイトも、隕石が地表に衝突した衝撃で生まれた天然ガラスである点は同じです。

    ただし生成過程が微妙に異なります。

    インパクトガラスは、隕石衝突時の熱波が地表のガラス成分を溶かし、そのまま地表で冷え固まってできます。
    一方、テクタイトは隕石衝突の衝撃で地表のガラス成分が遠くまで飛散し、落下しながら冷え固まったものです。
    テクタイトの表面に飛翔痕があるのは、そのためです。

    インパクトガラスは隕石が衝突した箇所周辺で発見されますが、テクタイトは隕石が衝突してできた痕跡(クレータ)から数百キロ離れた地点で見つかることもあります。
    隕石の衝撃のすさまじさがわかりますね。

    ちなみにテクタイトのうち、チェコのモルダウ川周辺で見つかる美しいグリーンの個体を、特別に「モルダバイト」と呼びます。

    インパクトガラスもテクタイトも他の鉱物と異なり、地球上で自然に生成されることはありません。地球に衝突した隕石の熱が地球上のガラス質成分を溶かし、後に冷え固まることでしか生まれないためです。

    現在の総量以上のインパクトガラスを手にするには、条件が揃った隕石の衝突をもう一度起こすしかありません。そんな機会が起きる可能性は、天文学的な確率でしょう。

    いまある量がすべて。
    どの鉱山を掘っても新しい鉱脈を見つけることは、絶対にできない。

    リビアングラスの希少性は、そこにあります。

    【豆知識】
    リビアングラスは、エジプト政府が輸出規制をかけています。さらに産地であるリビア周辺は、長年紛争地域となっており政情不安を極めています。

    採取が難しい上に輸出も規制されたため、リビアングラスの価格はすさまじい勢いで高騰しているといわれます。

    「もしお手頃価格のリビアングラスに出会えたら、ぜひお迎えを」とお伝えしたいところですが、価格高騰のあおりを受けて模造品がつくられているのが現状です。
    リビアングラスの模造品については、後ほど詳しく解説します。

    ■リビアングラスの魅力

    リビアングラスの魅力は、何といっても「宇宙由来である」という壮大なロマンにあります。

    いまからおよそ2850万年前に、宇宙から巨大な隕石がリビア砂漠に衝突し、その衝撃と熱波が砂漠のシリカを溶かしてリビアングラスが生まれました。

    その隕石が衝突していた場所がリビア砂漠でなかったら?もしかしたら、リビアングラスはこの世に誕生していなかったかもしれません。

    「2850万年前」と言葉にすればたった7文字ですが、地球がどのような時代だったかご存知ですか?

    アフリカ・ケニアで見つかった最古の類人猿と思われる化石が、およそ2500万年前のもの。アルプス・ヒマラヤ造山帯で山脈の形成が始まったのも、ほぼ同時期です。

    つまり、リビア砂漠に隕石が衝突したのは、ヒマラヤ山脈ができ始めるより以前だということ。

    リビアングラスは、気の遠くなるほどの時を、リビア砂漠に埋もれて過ごしてきたのです。なんという歴史のロマンでしょう。

    ちなみにリビア砂漠はいまでこそ砂漠ですが、かつては緑豊かなサバンナ地帯でした。ヒトが定住し、火打ち石や黒曜石を使った痕跡も見つかっています。

    リビア西部、アルジェリアとの国境に近い位置にある世界遺産タドラット・アカクスのロック=アート遺跡群(Rock-Art Sites of Tadrart Acacus)には、サバンナ固有種の大型動物や家畜、宗教的儀式の場面など、先史時代の豊かな生活の様子が描かれた壁画が保存されています。

    ■リビアングラスにまつわる逸話

    リビア砂漠やエジプト周辺では、古くからガラスが利用されていました。砂漠で美しいリビアングラスを見つけた人々が、装飾品にしようと考えたのも自然の流れでしょう。

    かの有名なエジプトのツタンカーメン王のスカラベにも、リビアングラスが使われています。

    スカラベとはフンコロガシに似たタマオシコガネ属の甲虫です。古代エジプトでは印象や装身具のモチーフに使われていました。

    ツタンカーメン王のスカラベは、胸飾りのもっとも目立つセンターピースとして配置されており、これが美しいレモンイエローのリビアングラスでできています。

    ■リビアングラスの産地

    リビアングラスは英名「Libyan desert glass」からもわかるとおり、リビア砂漠でのみ採取できます。

    リビア砂漠はエジプト・ナイル川河谷からリビア東部におよぶ広大な砂漠で地帯で、面積は約170万平方キロメートル、広義にはサハラ砂漠に含まれます。

    およそ2850万年前、リビア砂漠に大きな隕石が衝突しました。この衝撃と熱波で地上にあった大量のシリカが熱されて溶かされ、冷え固まったのがリビアングラスではないかと専門家は考えています。

    この時隕石が衝突したクレータは「ケビラ・クレータ」と呼ばれます。「ケビラ」はアラビア語で「大きい」という意味です。
    名前の通り外輪山の直径が約31kmもある、巨大なクレータです。

    それまでサハラ砂漠で見つかっていた最大のクレータ(直径約18キロメートル)の2倍近くのサイズを誇ります。

    ケビラ・クレータ規模のクレータを生み出した隕石(天体・彗星)は、その直径だけで約1.2キロメートル必要です。爆発のエネルギーは10万メガトン以上、核爆発レベルに相当するそうです。

    クレータのイメージ画像

    【豆知識】
    ちなみに「クレータ」という言葉から連想する、有名なバリンジャー・クレータ(アメリカ・アリゾナ州)は、直径約1.2キロメートルです。

    ケビラ・クレータは、バリンジャー・クレータの約25倍以上に達する大きさです。

    隕石の衝突がいかに大きな衝撃だったか、想像にあまりあるのではないでしょうか。

    ケビラ・クレータは、2006~2007年に発見されました。それまでに撮影されたリビア砂漠の衛星画像を見ても、この大きさの割に誰も気づかなかったそうです。

    大発見をしたのは、ボストン大学の研究者たちでした。もともとリビアングラスと産地について研究していた彼らは「リビア砂漠に未発見の衝突クレータがあるはずだ」と仮説を立て、衛星画像をくまなく探します。

    その努力が、ケビラ・クレータの発見につながりました。

    リビアングラスはリビア砂漠の広範囲、約5500平方キロメートルの範囲で採取できます。数十キロ単位で点在し、地表から10メートルほど下の砂利層に埋まっていることが多く、比較的大きめの原石も見つかっています。

    【豆知識】
    これまでに見つかった最大の原石は、26キログラムもあるそうです。パリの自然史博物館(メゾン・デ・ミュゼ・デュ・モンド/MMM、Maison des Musées du Monde)が所蔵しています。

    2. 鉱物・原石としてのリビアングラス

    続いては、リビアングラスをその成分や元素、原石の面から深めていきましょう。

    ロマンだけでなく、性質も興味深いポイントが数多くあります。

    ■組成について

    リビアングラスの組成情報は、以下のとおりです。

    英名(カタカナ) Libyan desert glass(リビアングラス)
    和名 リビア砂漠ガラス
    成分 ほぼ98%がSiO2(二酸化ケイ素・シリカ)
    結晶系 非晶質
    硬度 5~6
    屈折率 1.46~1.54
    劈開 -
    淡黄~黄、無色
    産地 リビア砂漠(エジプトのナイル川河谷からリビア東部におよぶ砂漠地帯)

    ■原石の形状

    隕石の衝突によって生まれたインパクトガラスであるリビアングラスは、二つとして同じ形状の原石はありません。

    また砂漠の砂が長いながい時間をかけて自然の研磨を施しており、角がとれやさしい雰囲気をまとったものが一般的です。

    原石の大きさで多いものは、手のひらにちょこんと乗るサイズ。ルースにすると2~7カラットほどに仕上げられます。
    ルースになった状態で10カラットを超える大きな個体に出会える場合もあります。

    ■原石からみるリビアングラス

    リビアングラスは、特有のインクルージョンに注目しても尽きない興味を味わえます。

    一般的にリビアングラスに含まれるインクルージョンは、気泡やクリストバライトです。その他、暗褐色の縞状の物質、黒色の酸化鉄などを含む個体もあります。

    またイリジウム(Ir)を含む場合もあります。

    イリジウムにまつわる話

    イリジウムは地上では大変希少で、レアメタルに分類される鉱物です。通信衛星や携帯電話アンテナ、石油精製や化学工業の触媒、航空宇宙産業などに使われています。

    イリジウムはとても硬く、融点・沸点が高いことで知られています。
    (※ 融点 2,446°C / 沸点 4,428°C)

    耐食性が非常に高く、酸や塩基にほとんど反応しない、“最強金属”ともいえる鉱物です。

    「イリジウムは地上では希少だが、宇宙からの隕石や彗星には豊富に含まれる」この事実から、専門家たちはかつてこう仮説を立てました。

    『地上では稀なイリジウムが、砂漠に散らばるリビアングラスに含まれる。リビアングラスは隕石衝突の衝撃が砂漠の砂(ケイ素)と隕石内のイリジウムを溶かし合い、冷えてできたに違いない』と。

    しかしその仮説を立証する隕石衝突の痕跡・クレータが見つからず、長い間真相は謎のなかでした。

    そして2007年、前述した「ケビラ・クレータ」がリビア砂漠に見つかり、仮説が立証されたというわけです。

    ■リビアングラスとモルダバイト、テクタイトの違い

    リビアングラスについて調べると、必ずといって良いほど「モルダバイト」「テクタイト」という天然ガラスが登場します。

    どのような違いがあるのでしょうか。

    まずテクタイト隕石の衝突によって溶けた地上のガラス質成分が溶かされ飛翔し、落下する過程で冷え固まったもの全体を指します。

    モルダバイトは、テクタイトのうちチェコ・モルダウ川周辺で見つかる、美しいグリーンの個体の名称です。

    インパクトガラスは隕石の衝突によってできた天然ガラスですが、テクタイトと異なり飛翔してはいません。隕石が落下した場所(クレータ)周辺のガラス質成分が溶かされ、その場で冷え固まったものです。
    リビアングラスは、このインパクトガラスに含まれます。

    テクタイトやインパクトガラスは、一般的に宝石として珍重される見た目はしていません。どちらかというと隕石をイメージさせる、黒くゴツゴツした塊です。

    ところがリビアングラスはこれまで見てきた通り、レモンイエローやライムグリーンが美しく、透明度の高いルースに仕上げられます。

    同様にモルダバイトも色の美しさから、宝石としての地位を確立しました。

    リビアングラスとモルダバイトはどちらも隕石の衝突により地上に生まれ、見た目を中心とした価値が評価され、特別な名前が与えられた天然ガラスだと考えてください。

    3. リビアングラスをより楽しむために

    年々、希少性が高まっているリビアングラス。もしお迎えできたら、仕舞いっぱなしにはせず、日常的に楽しんでみてはいかがでしょうか。

    パワーストーンやアクセサリーなど、リビアングラスをもっと身近に感じられる工夫を紹介します。

    ■リビアングラスの石言葉

    リビアングラスは「再生と復活」「カルマの浄化」といった石言葉を持っています。

    ヒーリング効果が高いとされ、魂の深くから癒し導く石として、パワーストーン愛好家からも支持されています。

    潜在能力を呼び覚ます、制震性を高める働きがあるともいわれ、明るく前向きに未来を生きたい人にもおすすめです。

    ■リビアングラスの加工について

    リビアングラスのビーズは、インクルージョンが多めでミルキーな印象のものから、透明度が高くクリアな個体までさまざまな品質のものが流通しています。

    カラーや大きさを比較し、好みの一つを見つけてみてください。

    発色やインクルージョンの入り方、大きさが同程度のビーズを揃えるのは、至難の業です。クオリティがそろった一連のビーズは、高級ジュエリーを凌ぐ価格になるものもあります。

    カットが美しいリビアングラスのルースは、アクセサリーにしても素敵です。宇宙のエネルギーや太陽の光を思わせる輝きが、身に付ける人にポジティブな印象をまとわせてくれるでしょう。

    インクルージョンがあるのは、リビアングラス「らしさ」です。インクルージョンに反射する光も楽しめるような、気軽な場面におすすめです。

    ■リビアングラスの模造品

    リビアングラスは、インクルージョンの入り方を再現するのが難しいといわれています。模造品が広く販売されているモルダバイトに比べると、まだ模造品は多くはないようです。

    ただし「インクルージョンの再現が難しい」ということは、インクルージョンのないリビアングラス(模造品)ならいくらでもつくれるということです。

    「ガラス」という模造品をつくりやすい素材である点もわざわいし、インクルージョンの少ない“高品質”を謳う模造品や、あるいは別の宝石をリビアングラスと偽って販売するケースもあるようです。

    天然のリビアングラスは、信頼できる天然石・宝石・ルース専門店でお探しすることをおすすめします。


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    4. まとめ

    リビアングラスは、およそ2850万年前にリビア砂漠に衝突した隕石がもたらした、天然ガラスです。
    淡黄色や淡黄緑色が美しく、希少性もあいまってコレクター垂涎の一品となっています。

    今後、同じ条件がそろった隕石が地球に衝突し、新しいリビアングラスが生まれる可能性は、限りなくゼロに近いでしょう。いまあるリビアングラスが、地球上にあるすべてです。

    まっすぐな生き方に導いてくれるともいわれるリビアングラス、お気に入りの一つをこの機会に手元に迎えてみてはいかがでしょうか。


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    この記事を書いた人

    みゆな

    TOP STOneRY / 編集部ライター

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