燦然と輝く真の女王・ノンオイルエメラルド|含浸処理なしの希少性と美しさの秘密
宝石の女王と呼ばれるエメラルド。その中で特別に「ノンオイル」または「ノンエンハンスメント」と評価されるものがあります。
このノンオイルエメラルドこそ、女王の中の真の女王と呼んでも過言ではありません。一般的なエメラルドとの違いと、その真価について解説します。
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1.エメラルドという貴石について
まずはエメラルドについて簡単に紹介しながら、通常のエメラルドとノンオイルエメラルドの違いについて解説します。
■エメラルドとは?
エメラルドは言わずとしれた五大宝石の一つ。他に例えようのないエメラルドグリーンが冴え渡る宝石ですね。
エメラルドは宝石名で、鉱物としてはベリル。ライトブルーの涼やかなアクアマリンや、ライトピンクが華やかなモルガナイトが同じベリルの仲間です。微量な不純物によって、元来無色のベリルがその色を変化させます。
エメラルドに含まれるのはCr(クロム)。このクロムがエメラルドの無二の色を生み出す元であり、エメラルドの割れやすさの理由にもなっています。(クロムが含まれるとなぜ割れやすくなるのか、その理由はエメラルドの記事でも解説しています。)
エメラルドはモース硬度7、へき開もなく本来割れにくい、強い鉱石のように思えます。しかし内部のクラック(割れ)やクリベージ(表面に達する亀裂)が多いため、数値上には現れない理由によって、扱いに注意する必要が出てきます。インクルージョンが多いこともその一因です。
これらを防ぐため、エメラルドには耐久性と見た目の向上のために、通常、含浸処理が行われます。
■含浸処理とは
含浸処理はその名の通り、「浸して含める」処理。充填する素材によりますが、通常価値を落とす処理ではありません。
エメラルドに広く行われているのが、オイル含浸処理。
エメラルドの含浸処理の起源はなんとプリニウスの博物誌にまで遡ることができます。プリニウスによれば、薄めたワインとグリーンに着色したオイルに浸せば、色の薄いエメラルドも美しく照り輝くとのこと。
現代でも、有色の充填剤が使われることがあります。有色の含浸処理の場合、以前は「天然石」ではなく「処理石」と呼ばれていました。天然石に比べて、価値は下がります。
通常使われる無色のオイルやワックスは天然石として扱われます。この違いは後半で詳しく解説しますので、是非ご一読ください。
エメラルドのクリベージの隙間に空気が入ると、白く濁って見えてしまいます。オイルを充填することで、白っぽい亀裂が目立たなくなり、また空隙がなくなるため耐久性があがります。
また、黒色インクルージョンを除去した隙間を充填し、美しいエメラルドの色を取り戻すこともあります。
とりわけ傷の多いエメラルドに行われる特別な処理ではなく、エメラルドなら通常行われている「エンハンスメント(改良)」と呼ばれる処理です。
2.ノンオイルエメラルドの真価
エメラルドは、オイル含浸が広く行われています。その中で「ノンオイル」とはどういうことか、ノンオイルエメラルドの真髄に迫ります。
■ノンオイルエメラルドの価値
ノンオイルエメラルドは読んで字の如く、オイルが含まれていないエメラルド。含浸処理が行われていないエメラルドです。
「ノンオイルエメラルド」あるいは「ノンエンハンスメントエメラルド」と呼ばれます。
まずジュエリーに仕立てたら割れそうなエメラルドや色の薄いエメラルドなど、ノンオイルという付加価値があってもさほど魅力的ではない貴石であれば、買い手はつきません。
そのため、天然のままで色が濃く、鮮やかさが際立ち、クラックやクリベージ、インクルージョンの少ないものがノンオイルとして未処理のまま流通することになります。
エメラルドの中でも選りすぐりのエメラルド。一般的なエメラルドが宝石の女王なら、女帝と呼ぶに相応しい貴石といえるでしょう。
■最高級のノンオイルエメラルドとは
どの鉱物でも、色が美しく、インクルージョンなどが少なく透明度(クラリティ)が高く、カットが対照的で美しく、大きな鉱石が最高級といえます。ノンオイルという時点でエメラルドとしては最高級品のものが多いかもしれませんが、やはりノンオイルエメラルドの中でも格が違うものがあります。
大きな原石になればその分インクルージョンやクリベージを含み得る範囲も増すため、ノンオイルエメラルドは小振りになることが多くなります。0.5ct〜1ct前後が入手しやすいボリュームではないでしょうか。
しかし歴史の長いエメラルド、あるところには10ctをゆうに超えるノンオイルエメラルドもあります。探し求めれば欲しいサイズのノンオイルエメラルドも探せてしまうのが、罪深い鉱石ですね。
個人の体験談ですが、以前に私が見たのは100ctを超えるノンオイルエメラルド。150ctを超えていたそのエメラルドは、分取りを重視していたのかもしれません。
クリベージの白いラインが筋状に幾つも入り込み、朝靄の庭園を彷彿とさせるようなエメラルドでした。より原石に近い、人の手が介在しないナチュラルな結晶です。このサイズになると、例えクラックが白く目立ったとしても十分に有価値といえるでしょう。
もう一点、やはり100ct超えのノンオイルエメラルドを見たことがあります。
クラックの白い亀裂はおろか、小さな黒点がかろうじて肉眼で確認できる程度のインクルージョンしかない、非常に透明度の高いエメラルド。他に例えようのないエメラルドグリーンが深く鮮やかで、ゴダ・デ・アセイテと評される熱風のゆらめきが深く鮮やかなグリーンの奥で揺らめいていました。
そのあまりに見事な様に、思わずこれは合成石ではないか? と首を傾げました。同時に、本当に天然でノンオイルなら天文学的な値段にあるのでは…と石を持つ手が震えそうになったものです。
果たして鑑別の結果、見事に天然エメラルド、更にノンオイルだと判明しました。とうとう持つ手も震えだしたものです。
色、透明度ともに完璧だったそのノンオイルエメラルドですが、確かに100ctを超えていたものの、前述のインクルージョンの多いエメラルドよりは小さかったはずです。
しかしその圧倒的な存在感は、とても記憶の中では500ctは超えるイメージで残っています。それほどの神々しいまでの美しさ。この「宝石の女王」を前にすれば、クレオパトラもその冠を下げただろうことは想像に難くありません。
そんな超最高級のノンオイルエメラルドは手に入れることはおろか出会うことも稀ですが、カラットをぐっと絞れば可能です。
折角のノンオイルエメラルドならば、やはりインクルージョンやクリベージの目立たないもの、更に色の濃く鮮やかなエメラルドグリーンこそが最高級品。通常のエメラルドと同じく、色が黒っぽくなく、それでいて深みを感じる、鮮やかで照りのある無二のグリーンが評価されます。
白っぽかったり、ミントグリーンのようなライトな色合いは近年ミントカラーやパステルカラーとして人気を集めているものの、やはりエメラルドの品質としては一歩下がった評価になります。
■ノンオイルエメラルドの産地
採掘したての原石はノンオイルなので、すべてのエメラルド産地からノンオイルエメラルドは産出する可能性があります。
しかし、やはりノンオイルエメラルドはエメラルド有数の産地であるコロンビア産が多いようです。
コロンビア産の最高級品は「ゴダ・デ・アセイテ」と呼ばれることもあります。水にオイルを垂らした時に渦巻く模様のような、熱風に景色が歪むような絶妙な揺らぎが鉱石の中で揺らめいて見えることから「一滴のオイル」という名前がつきました。
ノンオイルエメラルドは前述の通り美しい原石が選りすぐられたもの。このゴダ・デ・アセイテの美しい波紋を期待できます。
とはいえ、ゴダ・デ・アセイテはコロンビア産の特徴であり、ブラジル産やザンビア、ロシアなど他の有数の産地には見られません。この油滴の揺らめきの有無で評価を決めるのは早計です。
オイル含浸されないことで、産地特有のインクルージョンを楽しめるのもノンオイルエメラルドならではの魅力といえるでしょう。
3.エメラルドに行われる処理
通常行われるオイル含浸処理。エメラルドのみならず、他の鉱石にも広く行われている処理です。
鑑別書に記載されますが、価値が大きく損なわれる処理ではありません。一方で同じ含浸処理でも、天然石ではなく「処理石」として扱われ、評価が下がるケースもあります。
その違いと、ノンオイルエメラルドが評価されるようになった所以について解説します。
■ノンオイルエメラルドの歴史
エメラルドの含浸処理の歴史は、前述の通り紀元前まで遡ります。
この方法は広く普及しており、以前は含浸処理の有無はそれほど評価の対象ではありませんでした。勿論、最高級品であれば未処理の方が価値は高いものの、そうでなければルーペで見れば幾ら含浸していようと表面に達する傷はわかるものでした。
しかし充填剤の性能が上がるにつれ、充填の痕跡はより目立たなくなります。耐久性を損ないかねない大きなクリベージも、ほとんど影響のないクリベージも一律に評価されるのでは、不公平に思えますよね。
更に購入時には気づかなかった、説明のなかった傷がしばらく経ってから洗浄や充填剤の劣化によって目立つようになるなどのトラブルも起きるようになりました。
それを受けて様々な鑑別機関でノンオイルエメラルドレポートの追加発行に対応するようになると共に、ノンオイルエメラルドの価値と需要が高まったのです。
2000年頃からは、主に海外の鑑別機関によってエメラルドのグレーディングレポートも作られるようになりました。
グレーディングレポートは主にダイヤモンドに発行されるレポートです。4C(カラー、カット、クラリティ、カラット)の評価を具体的に記載した、いわゆる鑑定されたものです。
その鉱石が何であるかを記載したものが鑑別書、その鉱石の実情を記した鑑定書のことをグレーディングレポートと呼びます。
GIAでは、エメラルドの含浸処理について、その程度を段階的に評価しています。宝石鑑定に馴染みのある方であれば、ダイヤモンドのクラリティに置き換えると理解しやすいでしょう。
10倍拡大で確認できる程度の充填は、ダイヤモンドでいえばおおよそVSクラス相当の印象で、軽度エンハンスメントと評価されます。
肉眼でも注意すれば確認できる程度の充填はSIクラス相当の印象で中度、肉眼でも容易に確認できるものはIクラス相当の印象で大幅なエンハンスメントとされています。
グレーディングレポートには軽度は「insignificant」、「minor」、中程度なら「moderate」、大幅なエンハンスメントであれば「prominent」「significant」と記載されます。
ただし、ダイヤモンドのグレーディングレポートとは違い、あくまで充填処理の評価です。他のインクルージョンについては評価の対象ではありません。このエメラルドレポートがそのまま価値の評価ではないことを、GIAも強く主張しています。
勿論、ノンオイルエメラルドの評価は「No indications of clarity enhancement」。日本でも多くの鑑別機関でノンオイルエメラルドの鑑別書は発行されており、「透明剤の含浸の痕跡は認められません」と表記されます。
■実は厳しいノンオイルエメラルドの鑑別
ノンオイルエメラルドの鑑別には、主にFT-IR分光分析(フーリエ変換赤外分光分析)が用いられます。これは赤外線を照射し、その吸収のされ方から、オイルや樹脂などの有機物が存在するかどうかを判別する分析手法です。
前述したエメラルドグレーディングレポートのように、どれほどのクリベージにどれほどの充填剤が使われているかではなく、オイルや充填剤が検出されるかされないかの鑑別です。
検出されるか否かのため、極端な話をすれば直前に触れた人の油脂でも反応してしまいます。勿論鑑別機関では手袋着用で鉱石を扱いますし、検査に必要な洗浄を行います。現実的には人が触ったせいでノンオイルエメラルドにならなかった、という事態は考えにくいです。
しかし、微妙な人の油脂以前に、エメラルドが私達の手元に届くまでには多くオイルと接する機会があります。例えば原石の状態での洗浄や、カットにオイルが使われます。含浸材とは違いますが、それらが残っていると、分光分析計ではオイルが検出されてしまうでしょう。
オイルが検出された時点でノンオイルとは認められないか、工程上のオイルの付着と判断するか、鑑別機関によって判定が異なる場合があります。
どちらにせよ、分析は客観的な検出結果に基づいて行われるため、微量であってもオイルが検出されれば、鑑別結果に反映されます。
そういった誤認を防ぐためにも、ノンオイルエメラルドを購入する際は、きちんとした鑑別機関の鑑別書付きのものを選びたいですね。
100%ノンオイルエメラルド、NONE表記のエメラルド
含浸せずともオイルが検出されてしまう可能性があるエメラルドですが、その心配がないエメラルドもあります。
エメラルドグレーディングレポートにおいて、minor、moderate、significantのいずれでもなく「NONE」と記載されている場合。これはそもそもインクルージョン、クリベージがないという表記です。
オイルなどが染み込む隙がないため、確実にノンオイルエメラルドであると言えます。
このエメラルドグレーディングを行っているのは主に海外の鑑別機関で、GIAやスイスのSSEF、ギュベリンなどで行われています。残念ながら国内で発行されたNONEの鑑別書はないでしょう。
■エンハンスメントの価値
ここまでノンオイルエメラルド、すなわち含浸処理されていないエメラルドについて解説してきました。
エメラルドの99%は含浸処理されていると言われています。この99%は価値が下がるのでしょうか?
結論からいえば、通常は下がりません。色の薄いノンオイルエメラルドと色が鮮明かつ濃い充填されたエメラルドであれば、後者の方が価値があるという判断を下す人も多いでしょう。
一方で、価値が下がることがあります。何が価値を変えるかというと、含浸材の違いです。
通常、オイル含浸には天然由来のシダーウッドオイルやパラフィン、天然樹脂などが使われます。特にシダーウッドオイルは古くから使われてきた含浸材ですが、経年と共に揮発するため再度充填する必要があります。これらの無色の含浸材は価値に影響しません。
また、同じ樹脂でもエポキシ樹脂やポリエチレンといった、人工樹脂は価値が下がるようです。
確実に価値が下がるのは、天然オイルであっても有色の含浸材。または鉛ガラスの充填です。
これらはエンハンスメント(改良)ではなくトリートメント(改善)になります。また鉛ガラスが混ざっている場合、天然石だと認められていませんでした。
プリニウスはワインと緑のオイルに漬け込むと良いと書いていましたが、残念ながらプリニウスのやり方では価値が下がってしまいますね。
かつては天然由来の含浸材の場合は「天然石」、人口樹脂や有色の含浸材などを使用している場合は「処理石」と区別されていました。現在は鑑別書に「透明材(透明樹脂、有色材など)の含浸処理が行われています」など、鑑別書に記載されています。
エンハンスメントとトリートメントは鉱石によって変わるため、把握が難しいところがあります。
目安の一つですが、その鉱石を宝石として相応しい姿にするのが「エンハンスメント」、宝石としての価値をより高めようとするのが「トリートメント」といえるでしょう。
宝石の定義として、「美しさ」「不変性」「耐久性」の三つが挙げられます。
エメラルドは鉱物の特性として割れやすく、含浸処理をすることで「耐久性」を手に入れられます。そのための無色の含浸処理はエンハンスメント、着色はトリートメントとなります。
繰り返しになりますが、どこまでがエンハンスメントでどこからがトリートメントかは鉱石によって違います。
処理についても説明してくれる、きちんとした業者から購入したいですね。
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4.まとめ
奥深いエメラルドの世界。
瑕疵のないエメラルドは、見つけること自体が非常に難しい宝石だといわれています。その中でも、全体のわずか1%ともされるノンオイルエメラルドは、まさに選ばれた存在です。
もし出会う機会があれば、その透明感と色の奥行きが、なぜ特別視されてきたのかを静かに教えてくれるはずです。
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この記事を書いた人

佐伯
TOP STOneRY / 編集部ライター
トップストーン編集部がお届けする「トップストーリー」メディアでは、古くから愛されている誕生石の歴史やエピソード、最新のレアストーンの特徴、宝石の楽しみ方をわかりやすく解説しています。「天然石の魅力をもっと多くの方に知ってもらいたい」という想いで、個性溢れるライターが情報発信しています。