2023/07/04

蒐集家垂涎の的!繊細なレアストーン、フォスフォフィライトについて解説

フォスフォフィライト。一度は口にしたくなる響きを持つこの鉱石は、つい最近までほとんど知られていなかった希少石です。

「宝石の国」という漫画・アニメで一躍有名になりましたが、殆どの人が実物を見た事はないのではないでしょうか。「宝石の国」の作中では、硬度が低くすぐ割れてしまい、役に立たないキャラクターとして描かれる一面もあるなど、注目が集まるレアストーンです。現実の鉱物としてはどうなのか、解説していきます。


▶ TOP STONE で販売中のフォスフォフィライト



1.宝石・ルースとしてのフォスフォフィライト

フォスフォフィライトは透明で薄荷色の、淡いグリーン〜青味を含んだグリーンの美しい宝石です。硬度が低く宝飾品として扱われることはごく稀で、大きな原石も滅多にありません。繊細な扱いが必要かつ、その色もまた繊細な輝きをもつ宝石です。

そして何より、産出自体の少ないレアストーン中のレアストーンです。バイヤーですら見たことがない人もいるという希少度で、滅多に市場には出回りません。良質かつ大きな結晶となると尚更です。

■高品質なフォスフォフィライトとは

フォスフォフィライトの最大の決め手はカラーになります。カラーレスの結晶もありますが、フォスフォフィライトといえば生まれたての若葉のような淡いグリーンから、朝露のように青味がかったグリーンの瑞々しい色が特徴です。

また時にはエメラルドを思わせる濃く鮮やかなグリーンを呈する結晶もあります。ネオンカラーと称しても良い発色の良さが眩しい貴石です。その中でも特に人気が高いのは浅葱色の、青味を含んだ淡いグリーンのフォスフォフィライトです。

ネオンカラーのグリーン~ブルーの宝石と言えばパライバトルマリンがありますが、フォスフォフィライトはより優しい風合いの宝石で、日本人好みの宝石ともいえそうです。

貴石品質のフォスフォフィライトの大半がボリビア産ですが、半世紀も前にボリビア産は枯渇したと言われています。今流通しているボリビア産で貴石品質のフォスフォフィライトは、ほとんどが1960年以前に採掘されたオールドコレクションです。

■宝石としてのフォスフォフィライトの特徴

    透明で美しい発色を持つフォスフォフィライトですが、インクルージョン(内包物)を含まない結晶は稀です。

    最も価値が高いのはインクルージョンやクラックを含まない透明な石ですが、出会えること自体がレアな希少石ですので、インクルージョンの有無は然程気にする必要はありません何より、そのインクルージョンの煌めきがまた美しさを増し、魅力的に輝く宝石です。

    フォスフォフィライトはその希少性もさることながら脆さも相まって、大きな結晶は殆どありません。あったとしても、大きなままでは一般人にはとても手が出せないような値段がつけられます。

    更にカッティングが非常に難しい宝石ですので、大きな結晶を企業が購入してカットを施して市場へ、と流通させることも難しいのです。大きな原石、といっても元が1ctを越える結晶が少ないフォスフォフィライト。輝石品質の原石が10ctもあれば博物館級といっても過言ではありません

    実際、ロサンゼルス自然史博物館に9.5ctのフォスフォフィライトが展示されています。インクルージョンも少なく見事なカットが施されているフォスフォフィライト、機会があれば是非見て欲しいものです。

    ■フォスフォフィライトの名前の由来

    フォスフォフィライト、和名燐葉石。
    個人的な意見ですが、宝石の中でも屈指の美しい名前だと思います。

    その名前からフォスフォレッセンス(燐光性)があるのではと推測する方もいるのではないでしょうか。しかし残念ながら、名前の由来は別にあります。

    主要成分であるリンを意味するphosphorusと、ギリシャ語で葉を意味するphullonが由来になっています。phosphorusが英語のリンですが、そのphosphorusの語源はギリシャ語のphos(光)とphoros(運ぶもの)。

    フォスフォフィライトの主要成分であるリンと、葉のように剥がれる性質から名付けられた名前ですが、暗く死の影すら漂う鉱山の中で、ライトグリーンの結晶を作るフォスフォフィライトは輝く葉のように見えたのではないでしょうか。

    ちなみにフォスフォフィライトのフォスフォレッセンスについては、特定の波長に反応するものがごく稀にあるようです。

    phosphorusは明けの明星、つまり金星という意味もあるそうです。様々な意味を持たせることのできる、ストーリー性の高いネーミングです。和名は英語名をそのまま漢字にした形ですが、成分と特徴を端的に表しながら、これもまた美しい響きを持つ素敵な宝石名です。

    ■フォスフォフィライトの産地と歴史

    前述の通り、最も良質のフォスフォフィライトが採掘されたのはボリビアのポトシにあるセロ・リコ鉱山でした。富の山(セロ・リコ)と讃えられるほど銀を算出し、太陽の沈まぬ国スペイン帝国を支えた巨大銀鉱山です。

    主な採掘は当然、銀鉱石でしたが、1930年代には鉱夫の間で美しいグリーンの宝石が発見されます。その価値が見出されたのは1950年代ですが、1960年に差し掛かる頃には採掘され尽くしたと言われています

    長い歴史の中で広範囲に渡って採掘されており、その上で枯渇していると言われている今、新たな発見は難しそうです。1990年代にはセロ・リコ鉱山での大規模な採掘が終了しましたが、現在も個人で採掘は続けられています。

    富の山と讃えられる一方、人を喰う山とも呼ばれ負の世界遺産にもなっているセロ・リコ鉱山。もし新たにフォスフォフィライトが発見されたとしても、それ以上に過酷かつ危険な環境を思うと、手放しで喜べない面もありますね。

    有名な産地はボリビアですが、初めてフォスフォフィライトが発見されたのは1920年ドイツのハーゲンドルフでした。ハインリッヒ・ラウブマンとヘルマン・シュタインメッツによって名付けられています。

    現在もドイツやアメリカではニューハンプシャー州などから採掘がありますが、量は少なく、さらにジェムクオリティに達するものは少なく、大きな結晶は殆どない状態が続いています。

    蒐集家垂涎の的と言われるフォスフォフィライト。その良質なルースを手に入れるのはやはり簡単ではないようです。

    2.鉱物・原石としてのフォスフォフィライト

    (wikipedia掲載画像)
    Rob Lavinsky, iRocks.com – CC-BY-SA-3.0, CC 表示-継承 3.0,
    https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=35047194による

    宝石として美しい色と希少性を持つフォスフォフィライト。次は、その鉱物としての面を紹介します。

    ■組成について

    まずは、組成から見てみましょう。

    英名 Phosphophyllite(フォスフォフィライト)
    和名 燐葉石
    成分 Zn2Fe2+(PO4)2・4H2O
    結晶系 単斜晶系
    モース硬度 3-3.5
    屈折率 1.59-1.62
    劈開 一方向に完全、二方向に明瞭
    カラーレス、淡グリーン~ブルーグリーン
    主な産地 ボリビア、ドイツなど

    フォスフォフィライトはリン酸塩鉱物の一種(※)で、成分を見ると、亜鉛と水を含んだリン酸塩鉱物であることがわかります。

    通常、亜鉛を含んだ花崗岩ペグマタイトに貫入した熱水脈で成長しますが、トリプライトやスファレライトなどの二次鉱物としても成長します。一次鉱物にとって不安定な環境で安定して成長するのが二次鉱物なので、残念ながら宝石質のスファレライトや希少石のトリプライトと、フォスフォフィライトが仲良く大きな結晶に成長することはありません。何らかの作用でトリプライトなどに含まれていたリン酸がペグマタイト中に分解され、それがまた再結晶し、フォスフォフィライトとして成長します。ペグマタイトの深奥にはドラマチックな成長の物語も眠っています。

    ちなみにセロ・リコ鉱山は銀の他に錫も産出しており、錫石を母岩に結晶するフォスフォフィライトもあります。宝石質のキャシテライトに結晶するフォスフォフィライトもまた映えそうですが、自然がそんな奇跡を作り出すことを願ってやみません。他に、トリフィライト黄銅鉱を伴って産出することもあります。

    フォスフォフィライト、燐葉石に似ている宝石名に、燐灰石(アパタイト)やフォスフォシデライトがあります。どちらもリン酸塩鉱物というくくりでは仲間ですが、全く違う鉱物です。そしてアパタイトもフォスフォシデライトもモース硬度は5と、柔らかめなりに耐久性のある鉱物です。

    一方、フォスフォフィライトは鉱物界の中でもトップクラスの耐久力の弱さです。モース硬度の低さもさることながら三方向に劈開があり衝撃を与えると葉が落ちるように割れてしまいます。

    劈開が完全な鉱物の代表に、ダイヤモンドがあります。宝石の中で最強のイメージがあるダイヤモンドですが、劈開方向に衝撃を与えると容易に割れてしまいます。しかしモース硬度はご承知の通り最高の10を誇りますので、劈開まで達する様な傷はまずつきません。

    劈開がありモース硬度の低いフォスフォフィライトは、まず衝撃に弱いです。その上傷もつきやすく、傷が劈開まで達するとまた容易に割れますその為、カットは勿論セッティングにさえ気を遣う石です。このフォスフォフィライトをカッティングするのは本当に職人技です。美しくカットされたフォスフォフィライトを幸運にも見ることがあった時には、フォスフォフィライトの美しさと、職人の手技の凄絶さにも思いを馳せてみてください。

    取り扱いが非常にデリケートなフォスフォフィライトですが、そのデメリットを知っていても求めたくなる美しさがあります。

    (※) リン酸塩鉱物につていはこちらの記事で詳しく解説しています。
    宝石の国「フォスフォフィライト」で大注目!リン酸塩鉱物13種を一挙紹介

    ■フォスフォフィライトの原石

    (wikipedia掲載画像)
    Rob Lavinsky, iRocks.com – CC-BY-SA-3.0, CC 表示-継承 3.0,
    https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=10120382による

    フォスフォフィライトは柱状、もしくは厚い卓状に結晶します。また双晶を成すことでも有名です。双晶とは2つ以上の結晶が規則性を持って接合している多結晶のことを言います。簡単に言うと、決まった方向に成長していく結晶同士がくっついたものです。

    夫婦石とも呼ばれる、ハート型の多結晶がイメージし易いのではないでしょうか。フォスフォフィライトもV字型の双晶を成すことが多く、ハートよりも結晶同士の間隔が狭くフィッシュテールと呼ばれています。

    ■鉱物としての魅力

    フィッシュテールというユニークな結晶を作りやすいフォスフォフィライト。魚のしっぽのようですが、優しいペールグリーンも相まって、岩石から芽吹いたばかりの新芽のようにも見えます。

    フォスフォフィライトは人為的処理を施さずとも原石のままで鮮やかな発色があり、透明度も高い為、観賞にも適した鉱石です。ルースで置いておくには不安がありますが、目につくところにディスプレイして天然の意匠を楽しむのもおすすめです。

    3. フォスフォフィライトをより楽しむために

    宝石のその他の楽しみ方として、誕生石や石言葉、加工品の使用例などをご紹介します。

    ■石言葉

    フォスフォフィライトの石言葉は「逆境」「挑戦」などで、困難を克服する力をもたらすとも言われています。宝石としては脆く、それでも美しい輝きを放つフォスフォフィライトに相応しい言葉です。

    また12星座にはそれぞれ支配星や守護石があります。その名前に金星を隠し持つフォスフォフィライトが、金星を支配星に持つてんびん座の守護石に加わったりしないでしょうか。

    ■フォスフォフィライトの取り扱い

    非常に脆いフォスフォフィライトは、コレクション以外の使用をおすすめし辛いのが本音です。レアストーン中のレアストーン、手元に置いて可愛がるのを最もおすすめします。

    衝撃に弱いフォスフォフィライトですが、酸にも弱いです。そのため、身につける際は汗や化粧品などにも注意が必要です。汚れを落とす際は中性洗剤を使用して下さい。人の爪は、大体モース硬度2.5くらいと言われていますので人の手で傷つけることはありませんが、そもそも汚したくない石ではあります。

    ■実はあなたの傍にもフォスフォフィライトが!?

    実はフォスフォフィライトは合成が容易です。その容易さは高等専門学校などで学生実験として行われるほどです。とはいえ、学生実験で取り扱うのはリン酸溶液を始め、個人が入手して扱うには危険かつ困難なものです。
    また通常のビーカーなどで作れる大きさは微小なものなので、合成が容易とはいえ気軽に10ctのハイクラリティな合成フォスフォフィライトを手に入れる、という訳にはいかないようです。

    結晶が工業素材として役に立つことはなく、ジュエリーにするにも耐久性に欠けるフォスフォフィライトは、合成石を作るコストと、見込まれる売り上げが釣り合わないのでしょう。合成が容易でも、合成フォスフォフィライトが市場に出ているという話はありません

    では何故、高等専門学校の学生実験にフォスフォフィライトという知名度の低いレアストーンが選ばれたかというと、元々、金属部品などのコーティングにリン酸亜鉛溶液などが用いられているからです。このリン酸亜鉛皮膜は、ホパイトとフォスフォフィライトの微小結晶でコーティング処理しているとのこと。そう珍しい処理ではなく、また耐久力が高い為、ガードレールなど屋外や過酷な扱いを求められる場所に施されるようです。車や屋外用品など、身近などこかにあなたもフォスフォフィライトの見えない結晶を持っているかもしれません。

    フォスフォフィライトもこのまま知名度があがり需要が高まれば、皮膜剤としてだけではなく合成石が市場に出てくる日もあるのかもしれません。


    天然石・レアストーン・誕生石ならトップストーン

    トップストーンは、国内最大級の天然石輸入卸問屋「株式会社ウイロー」が運営するルース専門の通販サイトです。世界中から買い付けたレアストーン、誕生石を販売しております。パライバトルマリン、タンザナイト、サファイアなどの宝石、ルースなど。豊富な品揃えから、天然石やパワーストーン、カラーストーンをお選び頂けます。

    適正な販売価格を提示

    天然石の市場価格は、決して安定しているとは言えません。常に変動する相場の中、トップストーンでは、最新の天然石の相場・平均価格を熟知しております。世界情勢や市場の動向をいち早くキャッチアップし、適切な価格を提示しておりますので、安心してご購入いただけます。

    取り扱い種類が豊富

    株式会社ウイローでは、40,000点以上の石を、鉱物・原石から宝石、ルースまで取り扱っております。また、弊社独自の調査により、入手難易度レベルを作成。入手困難な希少な天然石もトップストーンならば仕入れ可能です。

    第3者鑑別機関のチェック済み

    弊社で扱っている宝石、ルース(天然石)の数々は、商品名には流通名または宝石名を記載して販売しております。中立の立場である第3者鑑別機関に鑑別しているため、安心してご購入いただけます。

    ※TOPSTONEでは、鑑別・ソーティングを概ねA.G.L加盟の鑑別機関にお願いしております

    ▼鑑別・ソーティングについては以下ページにて詳細をご確認いただけます

    https://www.topstone.jp/help/faq


    4. まとめ

    繊細で儚い美しさと脆さを持ちながら、意外なところで強靭な力も見せるフォスフォフィライト。一躍有名になったものの、需要の高まりに対し新たな供給はありません。レアストーン中のレアストーン、美しいフォスフォフィライトにもし出会えたら、それは運命なのかもしれません。


    ▶ TOP STONE で販売中のフォスフォフィライト


    ▸ こんな記事も読まれています


    この記事を書いた人

    佐伯

    TOP STOneRY / 編集部ライター

    トップストーン編集部がお届けする「トップストーリー」メディアでは、古くから愛されている誕生石の歴史やエピソード、最新のレアストーンの特徴、宝石の楽しみ方をわかりやすく解説しています。「天然石の魅力をもっと多くの方に知ってもらいたい」という想いで、個性溢れるライターが情報発信しています。