2024/05/17

インクルージョンではない「ルチル」は赤銅色の輝きを放つレアストーン

『ルチルといえば?』

この質問への答えとして、多くの方がルチルクォーツの名前を挙げるのではないでしょうか。透明なクォーツに入った針状のインクルージョン・ルチル。「金紅石」の名前にふさわしい、黄金色や赤色の輝きがひと際、目を惹きます。
また、アニメ化もされた漫画「宝石の国」ではモチーフとなったキャラクターも登場したことで、よりその名前が広がったかも知れません。

インクルージョンとして有名なルチルは、実は単体の結晶でも流通していることをご存じでしょうか。
ただし単結晶ルチルは非常に希少で、なかなかお目にかかれない逸品です。

今回は“いつものインクルージョン”から離れ、ルチル単体の結晶に迫ります。黒い宝石としての魅力、また鉱物学的にも興味深いトピックを紹介します。


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1. 宝石・ルースとしてのルチル

はじめに、ルチルを宝石・ルースの観点から見てみましょう。

普段はクォーツをはじめとする他の宝石の内包物としてお馴染みのルチル、単体になるとまた別の魅力を放ち始めます。

■高品質なルチルとは

単結晶ルチルの品質は、次の条件を満たすものほど高く評価されます。

  • 透明度が高い

  • 照りが良い

  • カラットが大きい

ルチルの単結晶は色合いが落ち着いたものが多く、「宝石」という言葉からイメージするようなカラフルなきらめきはありません。

一方で、光に透かすと赤味を帯びた黒や茶色、褐色など、ルチル本来の色がほのかにあらわれる点が魅力です。カラーが良く見えるよう、透明度の高い個体ほど評価が上がります。

またルチルは金属含有量が多く、独特の照りを持っています。ルチルの照りを引き出す優れたカットが施されたルースも、人気があります。

大きな結晶に育ちにくいのも、ルチルの特性です。多くのルチルがインクルージョンとして私たちの前にあらわれることからも、大きな結晶が希少であることがわかるのではないでしょうか。

ルチルのルースは、そのほとんどが1~2カラットで流通しています。3カラットを超える大きさの単結晶ルチルがあれば、その大きさだけで価値があります。

■ルチルが秘める圧倒的な"輝き"

ルチルはダイヤモンドを凌ぐ屈折率と分散率を持ちます。透明なルチルは、ダイヤモンドのイミテーションとして使われていた歴史もあるほどです。

ルチルとダイヤモンド、そして「ダイヤモンド以上のギラギラした輝き」と称されるスフェーンの屈折率と分散率を比較してみましょう。

屈折率 分散率
ルチル 2.62~2.90 0.3
ダイヤモンド 2.42 0.04
スフェーン 1.84~1.94、1.95~2.11 0.055
※ 屈折率・分散率ともにが大きいほど、キラキラとした輝きを放ちます。

ルチルは、スフェーンが足元に及ばないほどの圧倒的な輝きを持つことがわかりますね。

ただダイヤモンドのように「輝き」がルチルの代名詞にならないのは、ルチルのカラーゆえでしょう。
単結晶のルチルは暗褐色や黒色を呈するため、ファイアが目立たないのです。

それでもルチルの落ち着きある輝きはシックで、大人の魅力を持っています。主張しすぎず、それでいて存在感のある上品な輝きは、フォーマルな場面にもふさわしいでしょう。
喪の宝石として愛されてきた歴史があることも、頷けます。

■ルチルにまつわる逸話

ルチルという名前は、ラテン語で「燃えるような」を意味する「rutilis(ルチリス)」に由来します。
名付け親はドイツの鉱物学者だったエイブラハム・ゴットロープ・ウェルナー(Abraham Gottlob Werner/1749年 - 1817年)です。

ウェルナーはルチルを光にかざすと、わずかに赤味を帯びることから、この名前をつけたといわれています。

ちなみにウェルナーは、「ポンペイ埋没」で有名なイタリアのベスビオス火山周辺で採れる白色の鉱物「リューサイト」の命名者でもあります。
ドイツ地質学の父とも呼ばれ、歴史的な地質学の講義を始めた人物です。

■ルチルの産地

ルチルはブラジルやロシア、スイスなど、世界の各地で採掘されています。

ちなみにルチルを含有するクォーツ「ルチルクォーツ」の主要産地はブラジルとオーストラリアです。ブラジル有数のクォーツ鉱床であるミナスジェライスでは、ルチルが入ったスモーキークォーツや網状にルチルが成長した原石も見つかっています。

ルチルの主成分であるチタンは、中国が世界最大の産出国。次いでオーストラリア、インドが続きます。

■合成ルチル

ダイヤモンドを凌ぐ輝きを放つルチルは、かつてダイヤモンドの代用品として用いられました。
ただし硬度が高くなく、完全に無色透明の個体がほとんど採れなかったため、ダイヤモンドの代用品としては使われなくなっています。

現在は明瞭に「合成」と銘打ったルチルが流通しています。過去には、110.18カラットもの大きさの合成ルチルが見つかったこともありました。

2. 鉱物・原石としてのルチル

ルチルを鉱物や原石の視点から深めていきましょう。
組成や結晶、成分について、詳しく解説します。

■組成について

ルチルの組成情報は、以下のとおりです。

英名(カタカナ) Rutile(ルチル)
和名 金紅石(きんこうせき)
成分 TiO2(二酸化チタン)
結晶系 正方晶系
硬度 6~6.5
屈折率 2.62~2.90
劈開 良好(2方向)
黒色、暗褐色、褐赤色、黄色、帯青黒色、灰色、帯緑黒色
産地 ブラジル、ロシア、スイス、カナダ、フランス、ルーマニア、ノルウェー、オーストラリア、アメリカ、アフガニスタン、マダガスカル、イタリア など

ルチルは火成岩や変成岩の副成分鉱物として生成します。花崗岩やペグマタイト、片麻岩や片岩の付随鉱物として、また熱水脈で産出する場合もあります。

鉱物の密度が高いため、漂砂鉱床で見つかることもあります。

■原石の形状

ルチル結晶の多くは、柱状に成長します。はっきりとした条線が見られるのが特徴で、「針状」と称されるインクルージョンになる性質が結晶からもよくわかります。

双晶を形成しやすく、V字型やコの字型に成長した結晶も見つかっています。双晶が繰り返され格子状やスター状に並ぶ場合もあります。
双晶が60度の角度で交わることがあるのも、ルチルの特徴です。

双晶が対称に交わり星状になったルチルを含む宝石をカボションカットすると、スター効果を持つ宝石が生まれます。
2方向のルチルが交差すると4条線のスターが、3方向に交わると6条のスターがあらわれます。

また他の鉱物に内包されたルチルが同じ方向に整列していると、カボションカットによりキャッツアイ効果を見せる個体もあります。

    ■鉱物としてのルチル

    ルチルは鉱物的な側面から見ても、興味深い性質を持っています。特徴や興味深いトピックを4つ、紹介します。

    ルチルの発色要因

    ルチルと聞いて、何色をイメージしますか?

    「金紅石」というくらいですから、金色や赤色ではないでしょうか。

    実は、純粋なルチルは無色、あるいは白色~銀色です。ここに微量の不純物が含まれ、他の色を呈するようになります。

    黄色いルチルは、10%以内の鉄(Fe)による発色です。ルチルの高い反射率の効果によって、黄色がキラキラと輝き黄金色に見える場合もあります。

    さらに鉄分の含有量が増えると、結晶は徐々に赤みを増します。赤色の発色にはマンガン(Mn)も関わっているといわれています。

    そして鉄の含有量が30%を超えると、色が黒くなり「ニグライン(Nigrine)」あるいは「ブラックルチル」と呼ばれる鉱物に変化します。
    ただし真っ黒ではない点がポイントです。光に透かすとわずかに赤色の輝きが見て取れます。

    また金属特有の光沢を持つ点も、ルチルらしさといえるでしょう。

    ルチルの類質同像

    類質同像(isomorphism)とは、異なる原子が同じ原子配列を成す鉱物種をいいます。違う原子が同じ並び方をした、2つの物質と考えてください。

    岩塩とカリ岩塩が、類質同像の代表例です。
    岩塩はナトリウム原子(Na+)と塩素原子(Cl-)が、カリ岩塩はカリウム原子(K+)と塩素原子 (Cl-)が、それぞれ同じ配列で並んでいます。

    ルチルはパイロルーサイト(Pyrolusite・軟マンガン鉱)やキャシテライト(Cassiterite・錫石)と類質同像の関係にあります。

    ちなみに類質同像が個性となって表れる宝石が、ガーネットです。ガーネットは取り込まれる成分によって類質同像の個体となり、多彩な色を呈します。

    ルチルの同質異像

    同質異像(Polymorphism)は、化学組成が同じで結晶の配列が異なる鉱物種のことです。

    結晶配列が異なるため、同じ元素から成るにもかかわらず、まったく異なる性質をあらわす点が面白いところです。

    炭素(C)からできているダイヤモンドと石墨、FeS₂から成るパイライト(黄鉄鉱)とマラカサイト(白鉄鉱)、CaCO₃からなるカルサイト(方解石)とアラゴナイト(霞石)など、多くの例があります。

    ルチルはアナテース(Anatase・鋭錐石)やブルッカイト(Brookite・板チタン石)と同質異像です。

    同質異像は、鉱物が生成する環境(温度・圧力)がかかわっていると考えられます。

    ルチルの主成分は、私たちの生活に欠かせない「チタン」

    ルチルの主成分は、先端技術に欠かせない「チタン」です。
    チタンは先端技術に欠かせない金属で、ジェットエンジンから船舶、建築、スポーツ用品、さらに人工関節まで、さまざまな用途に使われています。

    チタンがこれほどまでに広く利用されるのは、チタンが「軽量で強く、サビにくい」という特有の性質を持っているためです。

    <チタンの性質>

    • チタンは軽量。鉄の3分の2、銅の半分程度

    • 常温常圧で安定、885℃を超えると強度が増す。たわむ力は鉄の2倍。

    • 耐食性が高い。海水にも酸にも強い。

    生体組織に反応しないため、人工関節や人工骨、歯のインプラントなどにもチタンが使われます。

    そんな優秀な素材であるチタンですが、実はレアメタルに分類されています。ただし、決して「埋蔵量が少ない」という理由でレアメタルになっているわけではありません。

    チタン自体の埋蔵量は、無尽蔵といえるほど十分にあります。地殻中に0.44%程度含まれており、この量は銅や鉛、亜鉛をも凌ぎます。

    問題は、チタンが地殻中に広く拡散して存在している点です。一か所にまとまって鉱床をつくらないため、採掘がとても厄介で非効率的なのです。

    さらに天然環境下では、チタンは酸化チタンとなって存在します。工業用途に使うためには、酸素を還元して純度の高いチタンを取り出さなければならないのですが、チタンと酸素は非常に強い力で結びついており、還元も一筋縄ではいきません。

    チタンが発見された1791年から実用化された1946年ごろまでに、実に150年以上の年月が必要だったのは、自然界のチタンを工業用に精製する手法の確立に手間どったためです。

    ちなみに日本は、世界トップレベルのチタン輸出国です。世界で生産されている工業用チタンの2~3割は、日本製といわれています。

    3. ルチルをより楽しむために

    クォーツやクリソベリル、サファイアなど、他の宝石のインクルージョンとして有名なルチル。単結晶は希少性が高く、持っていると鼻高々になれますよ。

    ルチルをもっと身近に、気軽に楽しめるヒントを紹介します。

    ■パワーストーンとして

    ルチルはパワーストーンとして名高い石です。
    ルチルを含有するルチルクォーツは、マイナスエネルギーから持つ人を守り、強運を導くとされます。

    そんなルチルは、金運と幸運、成功と繁栄を象徴する石だといわれています。活力を持って行動し続けたい人、正確な判断力を高めたい人は、ルチルを身に付けてみてはいかがでしょうか。

    ■ルチルの加工について

    単結晶のルースとして流通する個体は多くはなく、とても希少です。

    ルチルの単結晶は暗褐色や黒色で、店頭であまり目立たないかもしれません。ただ見つけたその時が、一期一会になる可能性は高いです。
    ミネラルショーやルース専門店で、ぜひチェックしてみてください。

    深い黒色と静謐な輝きが魅力のブラックルチルは、喪の場面に最適です。ブラックルチルを使ったお数珠もつくられています。

    またルチルを粉末にすると、発色の良い明るい白色を呈します。広い領域の紫外線をカットするはたらきがあり、UVカット日焼け止め(サンスクリーン剤)にも使われています。


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    ※TOPSTONEでは、鑑別・ソーティングを概ねA.G.L加盟の鑑別機関にお願いしております

    ▼鑑別・ソーティングについては以下ページにて詳細をご確認いただけます

    https://www.topstone.jp/help/faq


    4. まとめ

    多彩な魅力を持つ黒い宝石「ルチル」。
    ただ残念ながら、インクルージョン鉱物としてあまりに有名になりすぎ、単結晶のほうはあまり知られていません。

    今回の記事をきっかけに、単結晶のルチルの魅力を味わってみてはいかがでしょうか。光にかざしたときに内部からあふれ出す褐色の輝きや、金属鉱物ならではの照りは、他の石には見られないルチルならではの個性です。

    ルチルの硬度は6~6.5と、クォーツよりわずかに低め。日常使いには問題ありませんが、硬いものにぶつけたり、落としたりしないようご注意ください。

    インクルージョンとしてのルチルも、単結晶のルチルも、それぞれに魅力があります。好みの石は、TOP STONEでお探しください。


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    この記事を書いた人

    みゆな

    TOP STOneRY / 編集部ライター

    トップストーン編集部がお届けする「トップストーリー」メディアでは、古くから愛されている誕生石の歴史やエピソード、最新のレアストーンの特徴、宝石の楽しみ方をわかりやすく解説しています。「天然石の魅力をもっと多くの方に知ってもらいたい」という想いで、個性溢れるライターが情報発信しています。