サファリンは独特の深いブルーが記憶に残る石|逸話や鉱物学視点から解説

サファリン(サフィリン)は、あのサファイアと似ていることから、その名前がついた宝石です。
サファイアより希少で、知る人ぞ知る、稀有な石といって良いでしょう。
サファリンの名を知るあなたは、かなりの宝石通!今回はレアストーンコレクターの収集魂を刺激する、サファリンについて詳しく解説します。
宝石やルースとしてのサファリンだけでなく、鉱物・原石視点からも紹介。知れば知るほど手にしたくなるサファリンの魅力を、一緒に紐解いていきましょう。
サファリンは、サフィリンと書く場合もあります。英名は「Sapphirine」、発音記号で書くと[sǽfərìːn]で、sa-fur-eyenと発音します。
サファリン・サフィリンのどちらにも聞こえることから、2通りの呼び名が広まったようです。
本記事では「サファリン」と呼んでいきましょう。
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1. 宝石・ルースとしてのサファリン

はじめに、サファリンを宝石・ルースの観点から見てみましょう。独特の美しい灰青色や、多色性、よく似た石との区別も解説します。
■高品質なサファリンとは

サファリンは、産出量が少なく、存在そのものに価値があるレアストーンです。さらにルースに加工され、より高い評価を得るポイントは「カラー」「カラット」です。
サファリンは、青の濃淡が美しい宝石です。ガラス光沢があり、クリアで澄んだ輝きを放ちます。
本来は無色ですが、微量に含まれる鉄が発色要因となり、青色~青緑色を呈します。鉄の量によって、青の深みが変わります。
サファリンの青は灰青色と形容される、独特の雰囲気を持っています。青空というより、少し雲がかかった空。鼠(ねず)のような青。やや無機質な印象も与える、引き込まれそうな青です。
灰青色は、もっともサファリンらしい色ともいわれます。深い海の底、日没後の空のような澄んだネイビーブルーは、多様な青色の宝石の中でも、個性的な存在感です。
ほかにも、淡い赤色や紫色、黄色などもあります。希少なカラーは黄褐色やピンク、紫がかったピンクといわれます。
色合い豊かで、硬度は7.5。カットも日常使いもしやすい性質を持つサファリン。ただ、残念なことに、大きな結晶はほぼ産出しません。
結晶として見つかるサファリンの大半は、0.5カラット以下です。小粒な個体が多く、宝石質かつ0.5カラット以上のものは、滅多に見つかりません。
もし1カラットを超えるファセットカット済みのルースがあれば、計り知れない価値を持つはずです。
サファリンは、インクルージョンが少ない石です。透明度が高い個体ほど、価値が高まります。ルビーなど、他の鉱物のインクルージョンになる場合もあります。
■サファリンの多色性

サファリンの中には、多色性をもつ個体もあります。多色性とは、見る角度によって見える色が変化する光学現象です。
暗い色合いからは想像できないほど鮮やかに変化するケースもあり、コレクター魂を魅了します。
サファリンの多色性は、3色。黄色味のあるピンクや明青、濃青に変わるものや、無色・淡黄色・ピンクからラベンダーブルー、そして青みがかったグリーンやダークブルーに変化するものもあります。
■"サファリン"と"サファイア"

名前の由来にもなるほど似ている、サファリンとサファイア。ただし、実際はまったく別種の鉱物です。
サファリンとサファイア(コランダム)は、成分と硬度が異なります。
サファリン | サファイア(コランダム) | |
成分 | マグネシウム、アルミニウムを主成分とするケイ酸塩鉱物 | 酸化アルミニウム |
硬度 | 7.5 |
9 ※ダイヤモンドに次ぐ硬さ |
長い間「サファリンに赤色はない」とされていました。一方、サファイアを含むコランダムには赤色のルビーがあります。そのため「赤色の有無」も、サファリンとコランダムを見分ける一つの手段でした。
ただ、2007年、タンザニアで赤色のサファリンが発見され、この区別手法は使えなくなっています。
また、サファリンとよく似た石に、セレンディバイト(Serendibite)やベニトアイト(Benitoite) もあります。
それぞれを区別するポイントは、以下の通りです。
◎ サファリンとセレンデイバイト |
硬度と屈折率で区別します。サファリンは硬度7.5/屈折率1.70〜1.72。 対して、セレンディバイトは硬度6.5〜7/屈折率は1.69〜1.71です。 |
◎ サファリンとベニトアイト |
色合いで区別しましょう。 両者の色はよく似ていますが、サファリンのほうが、より暗い色を呈します。 |
■サファリンにまつわる逸話
サファリンは、その佇まいにも負けない、個性的な歴史を歩んできました。サファリンの逸話を紹介します。
サファリン発見のストーリー
サファリンは1819年、グリーンランドで発見されました。
発見地はグリーンランド南西部のセルマースーク(Sermersooq)、発見者はギーゼッケ(K.L. Giesecke|1761 - 1833)という探検家・鉱物学者です。
ギーゼッケは海岸で別の石を探していたところ、見慣れない石を見つけ採取したそう。これが、後に新種鉱物・サファリンと判明する石です。
ギーゼッケは見つけた石を、最初は「ブラウアー・ディアマントパス(blauer Diamantspath)」と呼んでいました。ブラウアー・ディアマントパスとは、ドイツ語で「青い、ダイヤモンドのようなきらめきを持つ鉱物」という意味です。
後にサファリンとなる、この新しい鉱物について最初に発表したのは、ドイツの化学者・フリードリヒ・ストロマイヤー(Friedrich Stromeyer|1776 - 1835)です。発表当時は「saphirine」とpが1つで綴られていましたが、その後「sapphirine」とpが2つ並ぶ現在の名前になりました。
迷走してきた「sapphirine」という名前
ストロマイヤーによって付けられた「sapphirine」という名前は、実は迷走の歴史を持っています。
「sapphirine」という言葉が歴史に初めて登場したのは、1400年代のこと。当時はブルーサファイアや、サファイアを模してつくられた石を「sapphirine」と呼んでいました。
1900年代になると、さらに迷走が進みます。宝石学者たちですら、「sapphirine」をブルー スピネルやブルー クォーツ、ブルー カルセドニーと混同していたようです。
ニューヨークにある世界的に有名なメトロポリタン博物館ですら、サファリンではない素材でつくられた印章を「sapphirine chalcedony(サファリン・カルセドニー)」として展示していたこともありました。実際に使われていたのは、サファリンではなくカルセドニーだったにもかかわらず、です。
現在は、それぞれ区別した名称がつかわれるようになりました。サファリンの知名度が上がってきたのも、一つの要因のようです。
■サファリンの産地

現在のおもな産地は、スリランカやマダガスカルです。
スリランカ中部にあるハクルタレ(Hakurutale)やムンワッテ(Munwatte)では、ファセットを施せるサイズの帯緑青色・濃青色の結晶が見つかります。
マダガスカル南部にあるフィアナランツォア(Fianarantsoa)やトゥリアラ(Toliara)では、これまでに大きさが30mm以上ある結晶が見つかったこともあります。
その他、サファリンは以下の地域で見つかっています。
アルジェリア
オーストラリア
中国
ドイツ
イタリア
ノルウェー
南アフリカ
スウェーデン
タンザニア
スコットランド
アラブ首長国連邦
アメリカ など
2. 鉱物・原石としてのサファリン

ここからは、サファリンを鉱物・原石の観点から深めていきましょう。興味深いポイントが、いくつも登場しますよ。
■組成について
サファリンの組成情報は、以下のとおりです。
英名(カタカナ) | Sapphirine(サファリン/サフィリン) |
和名 | サファリン/サフィリン |
成分 |
Mg4(Mg3Al9)O4[Si3Al9O36] マグネシウムアルミノケイ酸塩 |
結晶系 | 三斜晶系・単斜晶系 |
硬度 | 7.5 |
屈折率 | 1.70~1.72 |
劈開 | 不明瞭(1方向) |
色 | 青色、水色、青灰色、緑色、緑がかった灰色、ピンク色、黄色、黄褐色、無色 など |
産地 | ケニア、アメリカ、マダガスカル、グリーンランド、南アフリカ など |
サファリンは三斜晶系と単斜晶系の、2つの結晶形に育ちます。三斜晶系は「サファリン-1A」、単斜晶系は「サファリン-2M」と呼ばれます。
両者は結晶内での元素の並び方の微妙な違いに起因します。
■原石の形状
サファリンの結晶は、その大半が小さな粒状で見つかります。まれに板状に成長するものもあります。
サファリンは非常に高温かつ、高圧の環境下で生成した、マグネシウムとアルミニウムに富む変成岩(グラニュライト)や、キンバーライト、ペグマタイトなどで見つかります。
サファリンは、強い変成作用を受けた地質条件下で生成します。特定の温度・圧力下で結晶化すること、また特定の地域に偏在することもわかっています。
地球の歴史と地殻形成の歴史に関する貴重なデータを与えてくれることもあり、サファリンは地質学者や地球学者からも注目される石です。
【豆知識】
● グラニュライト(白粒岩):温度700℃〜900℃・海面下7〜45km以上の圧力がかかる場所で生成します。普段は地殻の下部に隠れており、造山運動や火山噴火とともに地表にあらわれます。
● キンバーライト:超塩基性の火成岩です。主成分はカンラン石と雲母で、副次鉱物にダイヤモンドを含むことで有名です。
● ペグマタイト:マグマが冷え結晶化したあとに残った液体が固化した、粗粒の岩石です。石英(クォーツ)や長石、雲母で形成され、トパーズやベリル、希少鉱物を含む場合もあります。
■鉱物としてのサファリン
サファリンは、マグネシウムとアルミニウムを主成分とする、ケイ酸塩鉱物です。
「ケイ酸塩鉱物」は、ケイ酸塩で構成された造岩鉱物です。多種多様な鉱物種を含み、造岩鉱物中で最大・最重要ともいわれます。
地球の地殻のおよそ90%は、ケイ酸塩鉱物でできています。
さて、話をサファリンに戻します。鉱物学が好きな人なら、先の記述で「おや?」と思ったかもしれませんね。
「マグネシウムとアルミニウムを主成分とするケイ酸塩鉱物といえば……パイロープ・ガーネット?」と。

宝石名 | 成分 |
サファリン | Mg4(Mg3Al9)O4[Si3Al9O36] |
パイロープ・ガーネット | Mg3Al2(SiO4)3 |
サファイア | (Al, Fe, Ti)2O3 |
ルビー | (Al, Cr)2O3 |
こうして並べてみても、サファリンとパイロープ・ガーネットの近似性がわかります。
3. サファリンをより楽しむために
神秘的な雰囲気も感じさせる、サファリン。ここからは、サファリンをより身近に、気軽に楽しむヒントを紹介します。
■誕生石・石言葉
サファリンはサファイアに似た印象があるためか、海外では9月の誕生石とする場合があります。サファイアは、9月の誕生石ですね。
※ 一般社団法人日本ジュエリー協会が、国内向けに定める誕生石には、サファリンは含まれません。
また結婚5周年・45周年・65周年を祝う宝石、またおうし座・ふたご座・おとめ座の守護石とすることもあります。
サファリンはレアストーンゆえ、決まった石言葉はまだありません。
パワーストーン愛好家からは感情面では、ネガティブ思考を払拭し、感謝に満ちたポジティブな思考に導くとされています。
感情のバランスを整えたいとき、憂鬱な気持ちを手放したいときに、手にしてみたい石です。
■サファリンの加工について
知る人ぞ知るサファリンですが、実はアクセサリーの素材として人気です。落ち着いたブルーの色合いは派手過ぎず、着ける人の年代を選びません。
単独でネックレスやピアスにしても良し、異なるカラーの宝石と組み合わせてもしっとりと収まります。
小さな結晶で見つかることが多いサファリンは、結晶のまま標本としても流通しています。母岩のままの標本なら、他の鉱物も見つかるかもしれませんね。
地球の地質学研究に役立てるため、サファリンは人工的に合成されています。ただ、あくまで研究が主眼。サファリンの模造品として市場に流通してはいません。サファリンの希少性は、当面続きそうです。
サファリンは硬度が7.5と、日常使いに十分な堅牢さを持っています。シックな雰囲気をまといたいとき、上品に仕上げたい装いのときにと、気軽に身に付けてみてください。
汚れが気になったときは、中性洗剤を薄めたぬるま湯でそっと洗い、柔らかな布で拭き上げます。
保管の際は、念のため他のコレクションや硬いものとはわけておきましょう。
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4. まとめ
サファリンは、落ち着いた深みのあるブルーが印象的なサファイアに似た宝石です。灰青色が有名ですが、緑色や黄色、ピンク色なども稀に採取されます。
造山活動による高温・高圧環境下で生成するため、現在のおもな産地はマダガスカルやスリランカ。地殻の研究にも役立てられる、とても希少な鉱物です。
決してメジャーな石ではありませんが、流通量は少なく、滅多にお目にかかれません。コレクターが熱い視線を注ぐのも、理解できますよね。
TOP STONE でも、シアン色や灰青色を中心に、サファリンを取り扱っています。サファイアとはまた一味違うブルーに、魅入られること間違いなし!ぜひ一度、チェックしてみてください。
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この記事を書いた人

みゆな
TOP STOneRY / 編集部ライター
トップストーン編集部がお届けする「トップストーリー」メディアでは、古くから愛されている誕生石の歴史やエピソード、最新のレアストーンの特徴、宝石の楽しみ方をわかりやすく解説しています。「天然石の魅力をもっと多くの方に知ってもらいたい」という想いで、個性溢れるライターが情報発信しています。