パライバトルマリンの産地ガイド:ネオンカラーの秘密と地域ごとの特徴

1890年代に発見されて以来、その人気の衰える気配のないパライバトルマリン。空の青とも海の青ともつかない鮮やかなネオンブルーは、高額なレアストーンでありながら人々を惹きつけてやみません。
唯一無二と言われる美しいブルーの秘密は土地にあり?パライバトルマリンの各産地とそれぞれの特徴について解説します。
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1.パライバトルマリンと主要な産地
ネオンブルー、エレクトリックブルーなど様々に形容される鮮やかな青色が特徴のパライバトルマリン。その産地について解説する前に、あらためて簡単にご紹介したいと思います。
■パライバトルマリンとは

パライバトルマリンは、トルマリングループに属する輝石です。
トルマリンに無い色はない、と言われるほど、多様な色に富むトルマリン。その中でもパライバトルマリンは特別です。
最初に発見されたブラジルのパライバ州にちなんで、ネオンブルーのトルマリンがパライバトルマリンと呼ばれています。
美しいブルーのトルマリンなら何でもパライバトルマリンと呼んで良いわけではなく、パライバトルマリンと認められるには条件があります。
1.銅(Cu)を含んでいること
2.色因が銅(Cu)であること
3.ある程度以上の明るさと彩度をもつブルーからグリーン、イエロイッシュグリーンであること
この三点が条件になります。
時折、ヴァイオレットカラーのパライバトルマリンやピンク、ホワイトのパライバトルマリンといった文言を見かけます。しかし主要な鑑別機関における命名規則では、2023年現在、大きく青~緑の色調から外れるトルマリンはパライバとは認められていません。また、銅を含んでいても、鉄による着色と見られる場合はパライバトルマリンとは認められていません。
しかし、一方で、「パライバ」という地名が冠されていても、産地についてはパライバトルマリンの条件に含まれていません。しかし、今日も市場においてパライバトルマリンの産地は重要視されています。それが何故なのか、産地によってどう違うのか次に解説していきます。
■パライバトルマリンの主要な産地

パライバトルマリンはその人気ゆえに取り扱うショップも多く、一見豊富にある貴石のように感じます。しかし年々産出量の減っている、三大希少石の一つ。多様な場所から産出するカラートルマリンとは違い、パライバトルマリンの産地は増えていません。
トルマリン自体は地球の表面に近い地殻にある元素で構成されますが、パライバトルマリンに必要な銅(Cu)は地球深部に存在しています。本来出会わない元素同士が結びつくことが稀少性の理由であり、美しさの理由でもあります。
その主な産地は、はじめてパライバトルマリンが発見されたブラジル。そしてナイジェリア、モザンビークが続きます。
ブラジル、ナイジェリア、モザンビークは今は海を隔てた大陸ですが、かつては一つの大陸でした。まだ大陸が一つだった時代のその昔、新原世時代にクォーツァイトが貫入したペグマタイトにパライバトルマリンは結晶しています。
ブラジル、ナイジェリア、モザンビークの三箇所と、産地が限定的で希少なのはこの辺りに理由がありそうです。
2.パライバトルマリンの産地別の特徴
パライバトルマリンの主な産地は前述の通り、ブラジル、モザンビーク、ナイジェリアです。特に、ブラジルには有名な鉱山が多々ありますが、今回はバターリャ鉱山とキントス鉱山をご紹介します。
■ブラジル・バターリャ鉱山のパライバトルマリン

バターリャ鉱山産のパライバトルマリンの特徴
バターリャ鉱山は、初めてパライバトルマリンが発見された鉱山です。そのパライバトルマリンのブルーは深く、かつ鮮やかで、香るようにグリーンを忍ばせた、複雑な色味を併せ持つネオンブルー。今日ではほとんど見られない、この一際美しいパライバトルマリンはオールドネオンと呼ばれ特別に扱われています。
このオールドネオンは、発見者であるエイトール氏の名前から「エイトリータ」とも呼ばれています。
市場で本物のエイトリータを見ることはまずないと思われます。しかし、オールドネオンには及ばないまでも美しいパライバトルマリンをエイトリータと称することもあります。とはいえ、エイトリータに基準となるマスターストーンはないため、オールドネオンに近いカラーなのか、販売者がそう称しているだけか、見極めたいところですね。
ブラジル産のパライバトルマリンは含まれる銅の量が多く、濃いブルーと、内から発光しているような鮮やかさが特徴です。
とはいえ、近年はサイズや色感も変わりつつあります。かつてはブラジル産といえばネオンブルーでしたが、現在はグリーン味の強いパライバトルマリンも流通しています。加熱や含浸をしなくても良い美しさがあるのがブラジル産の特徴でしたが、現在はほとんどエンハンスメント(人為的処理)が施されています。
バターリャ鉱山のパライバトルマリンは含銅量が多く、そのためか銅がインクルージョンとして取り込まれることもあります。肉眼でも判るインクルージョンは疎まれがちですが、眩しい海に瞬く星が反射しているような幻想的な魅力をも感じられます。
バターリャ鉱山の情報

バターリャ鉱山は古くから、雲母やシーライト、タングステンなどのレアメタルや、銅、ニッケル、ウラン、金など重要な鉱物の産地でした。
このバターリャ鉱山こそ、パライバトルマリンの由来となったブラジルのパライバ州にある、初めてパライバトルマリンが発見された鉱山です。
パライバトルマリンの発見者エイトール氏が初めて見つけたパライバトルマリンは、そう品質の良くないものだったそうです。しかしパライバトルマリンのポテンシャルを見抜いたエイトール氏は、より美しい原石があることを信じ、今日エイトリータと呼ばれるほどの美しい原石を10kgも採掘したのです。
あまりの美しさに、誰も天然石とは信じてくれなかった、というのは有名な話です。
バターリャ鉱山は発見から程なく操業を停止しましたが、鉱山の権利を巡る抗争に決着がつき、2005年頃に操業を再開しています。
■ブラジル・キントス鉱山のパライバトルマリン

キントス鉱山産のパライバトルマリンの特徴
発見から間もなく採掘を停止することになったバターリャ鉱山。その近隣には、他にも有名なパライバトルマリンの鉱山があります。そのうちの一つが、隣州のリオグランデ・ド・ノルテ州にあるキントス鉱山。
近いところにあるものの、石の風合いは不思議と異なります。キントス鉱山のパライバトルマリンはバターリャ鉱山のパライバトルマリンよりは銅(Cu)の含有量が少なく、色もライトなものが多いです。
一方、結晶のサイズが大きいという特徴もあります。真冬の薄い青空を思わせるライトブルーと、パライバ特有の内から輝くようなテリがあり、オールドネオンとはまた違う美しさを感じられます。
また、全体的にグリーン味が強いというのもバターリャ産とは違う特徴ですね。
キントス鉱山の情報

リオグランデ・ド・ノルテ州にあるキントス鉱山は、バターリャ鉱山とは違い岩盤が硬く、早いうちから機械による採掘作業が進められていました。しかし、残念ながら2005年頃には産出量が激減してしまいます。
バターリャ鉱山やキントス鉱山はパライバトルマリンの一次鉱床です。パライバトルマリンの結晶はペグマタイトの母岩の中に空間さえあれば、のびのびと成長することができます。その結果、比較的インクルージョンが少ない結晶ができる傾向があります。
また、キントス鉱山とバターリャ鉱山は隣の州ではありますが、どちらも州境近くに位置し、車で2時間ほどの距離しかありません。道路の整備具合によってはもっと早く到着できる距離です。
更にこの二つの鉱山の近くには、ムルング鉱山やグロリアス鉱山もあります。こちらも有名な鉱山で、ムルング鉱山はキントス鉱山とは対照的に含銅量の多い、バターリャ鉱山のパライバトルマリンと遜色ないカラーを持ちながらもやや小ぶりという特徴があります。
バターリャ鉱山のあるパライバ州とキントス鉱山のあるリオグランデ・ド・ノルテ州をまたいで山脈があり、その地下にはトルマリンの母岩になるペグマタイトが広がっています。このまたがる山、現地ではキントス山と呼ばれているようです。この山こそがパライバトルマリンの生まれた地と言っていいのかもしれません。
■ナイジェリアのパライバトルマリン

ナイジェリア産のパライバトルマリンの特徴
ナイジェリアのパライバトルマリンは、ブラジル産に比べるとやや彩度が低い傾向があります。
しかしカラーの幅が広く、ブラジル産とよく似た鮮やかなブルーから、ライトカラーが爽やかなスカイブルー、赤味を帯びたブルー、逆に黄色味を帯びたブルーグリーンなど、銅とマンガンの含有量で様々な表情があるようです。この豊富なカラーがナイジェリア産の持つ一つの特徴でしょう。
このナイジェリア産のカラフルな特徴が、パライバトルマリンの要件から産地を除外する切欠になったのかもしれません。ナイジェリア産のパライバトルマリンの発見と同時に、多くが産地情報がないまま流通してしまいました。
当時は、パライバ州で採掘されたネオンブルーのトルマリンがパライバトルマリンでした。そのため、市場が混乱します。パライバトルマリンの定義が協議されると並行して、急速に産地鑑別の技術が開発されることになりました。
ナイジェリア産の特徴として、黄褐色の針状インクルージョンが挙げられます。これは成長過程で生じる管状インクルージョンに天然銅が充填され、それが酸化して黄褐色やオレンジに見えます。
ナイジェリア、モザンビークはブラジルとは違い、一次鉱床で成長した結晶が流れ着く二次鉱床の鉱山です。それゆえの特徴的なインクルージョンですが、ナイジェリア産のものに特によく見られるようです。
肉眼で見えるインクルージョンになり、コッパーインクルージョンと同じく疎まれがちな要素ですが、これもほうき星のようで美しいインクルージョンだと個人的には思います。
ナイジェリアの鉱山の情報

ナイジェリアのパライバトルマリンは、クワラ州イロリンにあるオフィキ鉱山、イバダン州にあるエドウコウ鉱山が有名です。
カラーに幅のあるナイジェリア産のパライバトルマリンですが、オフィキ鉱山ではライトカラーで大きな結晶が、エドウコウ鉱山では小粒ながら色の濃い結晶が産出する傾向にあるようです。
ナイジェリアは元々、貴石質のトルマリンの産地でもありました。その中にはロイヤル・インディゴライトと呼ばれる、パライバトルマリンによく似たカラーのトルマリンがあります。このロイヤルインディゴライトの色因は鉄。
深味を兼ね備えた鮮やかな青、わずかに緑味を含んだ色調が特徴の、際立つカラーを持つインディゴライト。パライバトルマリンと比較すると彩度が落ちるものの、ロイヤルの名を冠するに相応しい石です。
■モザンビークのパライバトルマリン

モザンビーク産のパライバトルマリンの特徴
モザンビーク産のパライバトルマリンが日本で流通し始めたのは2005年頃。
当初はブラジル産に劣らない劣らない濃く鮮やかなネオンブルーの石が産出されていました。しかし、現在は淡く澄んだ、ライトカラーのパライバトルマリンが主になっているようです。当初は1ct前後の原石が主でしたが、次第に10ctを超える大きさの原石も採掘されるようになりました。
モザンビーク産の面白い特徴として、パライバトルマリンがトルマリングループの中のエルバイト(リシア電気石)に分類されるのに対して、リディコータイトのパライバトルマリンが産出されるところが挙げられます。
トルマリンにはカラーに応じてさまざまな種類がありますが、石種としても分かれています。貴石品質のほとんどがトルマリンの中のエルバイトという石種ですが、リディコータイトも貴石品質のトルマリンとして流通しています。
ウォーターメロントルマリンなどマルチカラーになることが多いリディコータイト種。パライバトルマリンも、イエローからブルーやクリア~ネオンブルーのバイカラーになるものもあります。モザンビーク産に多いという訳ではないのですが、リディコータイト種らしいぱきっと華やかなパーティカラーのパライバトルマリンも見てみたいですね。
モザンビークの情報

モザンビークはアルト・リゴーニャ地方のペグマタイトを母岩にパライバトルマリンが結晶します。マブコ村、マラカ村の鉱山が有名ですね。マブコ村もマラカ村もそう離れてはいませんが、マラカの鉱山でリディコータイト種のパライバトルマリンが産出しています。
アルト・リゴーニャ地方は元々トルマリンをはじめアクアマリンやモルダバイトなど貴石品質の鉱石が採掘される地方でもあります。トルマリンの産出もあり、ブルーやグリーン、紫、ピンクのトルマリンの産出もあります。
モザンビーク北部では、カラーチェンジパライバトルマリンも発見されています。このカラーチェンジトルマリンは蛍光灯下でバイオレット、白熱灯下でブルーグリーンにチェンジします。暮れゆく空と澄み渡る空の二つを秘めた魅力的なパライバトルマリンですね。
モザンビークで発見された当初、生産量は限られているという噂が流れ、一時期パライバトルマリンの高騰に一役買いました。しかし、現在も比較的安定した産出を続けているようです。
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3. まとめ
産地によって表情を変えるパライバトルマリン。しかし、当然、産地が同じでも全く同じになる石はありません。また産地に限らず良質のパライバトルマリンは減りつつあります。特に近年は低品質だと判断されていた在庫が市場に乗ることも多く、例えば一口にブラジル産といってもエイトリータを彷彿とするブルーより、グリーンが強いパライバトルマリンも多くあります。
しかし、色の濃淡はやはりブラジル産が濃く、モザンビーク産などは明るいといった特徴は顕在に思えます。産地に拘って違いを楽しむも良し、産地に拘らずに自分にとっての一番を探すも良し、様々な見方でパライバトルマリンを楽しんで頂きたいと思います。
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この記事を書いた人

佐伯
TOP STOneRY / 編集部ライター
トップストーン編集部がお届けする「トップストーリー」メディアでは、古くから愛されている誕生石の歴史やエピソード、最新のレアストーンの特徴、宝石の楽しみ方をわかりやすく解説しています。「天然石の魅力をもっと多くの方に知ってもらいたい」という想いで、個性溢れるライターが情報発信しています。