2024/12/5

スコロライトとは?アメジストから生まれたミルキーな宝石の秘密

2010年ごろから市場に出回り始めた、まだ新しい宝石「スコロライト」。国内はもちろん、GIAをはじめとする海外の宝石データベースにも、ほとんど載っていない、ちょっと変わった宝石です。

乳白色でシルキーさも持つ、珍しい美しさをコレクターが見逃すはずはありません。知られざる石であるにもかかわらず、人気が徐々に高まっています。

今回は、淡い藤色が個性的なスコロライトに迫ります。スコロライトができる秘密やカラーの魅力、そして鉱物学的な解説までまとめました。

不思議なスコロライトの世界に、一緒に足を踏み入れていきましょう。


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1. 宝石・ルースとしてのスコロライト

はじめに、宝石・ルースの観点からスコロライトに迫ります。神秘的な雰囲気をまとったミルキーパープルの魅力や、スコロライトと紛らわしい石も紹介します。

■高品質のスコロライトとは

そもそも、スコロライトは流通量が豊富な石ではありません。存在自体に価値がありつつ、次の条件を満たしたスコロライトは、さらに価値が高くなります。

  • 淡く、美しい紫色

  • シルキーな乳白色

  • インクルージョン・クラックがない

スコロライトは、アメジスト(Amethyst・紫水晶)に人工処理を加えてできる宝石です。アメジストより淡く優しい紫色が特徴的。ほんのりと藤色やラベンダー色に染まりつつ、アメジストらしさを残したカラーが人気です。

また、シルキー・ミルキーと表現される、ふんわりとした乳白色が均一に広がる個体も、価値が上がります。
スコロライトに加工される前のアメジストは、色むらがあることが一般的です。むらがなく、全体が一様のカラーを示すスコロライトは、大変価値があります。

インクルージョンやクラックのなさは、スコロライトの評価を決める大きな指標です。アメジストはインクルージョンやクラックが入りやすく、そのまま加工しても美しいスコロライトになれません。スコロライトに加工する際に、割れてしまうものもあります。

インクルージョンやクラックがなく、全体が均一な色味のスコロライトに出会えたら、ぜひ近くで、じっくりチェックしてみてください。 

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アメジストについてはこちらの記事で詳しく解説しています。

■スコロライトの輝き

スコロライトの基本カラーは、淡い紫色です。ピンク寄りのパープルに見える個体もあります。

ただ、ラベンダー色になったり藤色になったり、見る角度を変えると青色やオレンジ色、ピンク色を見せるものもあります。光の加減によって豊かな表情を見せる、それもスコロライトの魅力です。

■スコロライトと紛らわしい石

スコロライトと間違えやすい石を、2つ紹介します。

ラベンダーアメジスト

ラベンダーアメジスト

非常に紛らわしいのが、ラベンダーアメジストです。

ラベンダーアメジストという名前は、スコロライトの別名として、また色の薄いアメジストの名前としても使われます。
さらに、ローズクォーツの紫がかった個体を、ラベンダーアメジストと呼ぶこともあるそうです。

スコロライトは、アメジストを加熱処理したものであり、アメジストとは別の石。この点に注目して、区別してみてください。

いくつもあるスコロライトの別名は、後ほど紹介します。

スコロダイト

スコロライトと名前が紛らわしい石に、スコロダイト(Scorodite・スコロド石)があります。
スコロダイトは透明で美しい青色や白色、暗灰緑色、赤褐色を呈するヒ酸塩鉱物の一種です。硬度4と脆いため、美しさのわりにルースに加工された個体は、あまり流通していません。

スコロダイトは、叩いたり熱したりするとニンニクのようなにおいがする、面白い石です。名前も「Scorodion(ギリシア語で『にんにくのような』)からきています。もし手元にあれば、爪の先でこすって試してみたくなりますね。
日本でも採れる石で、大分県木浦鉱山が知られています。

スコロライトとはカラーが異なるため、石を見比べて混同することはないでしょう。ただ、名前があまりに似ているため、調べる際は注意したほうが良さそうです。

■スコロライトにまつわる逸話

「スコロライト」という名前。正式な宝石名・鉱物名に聞こえるかもしれませんが、流通名です。同じ石につけられた他の名前には、以下があります。

  • ムーンライトアメジスト(Moonlight Amethyst)

  • ラベンダークォーツ(Lavender Quartz)

  • ハイドレンジアクォーツ(Hydrangea Quartz)

  • ピンクファイヤーアメジスト(Pinkfire Amethyst) など

鑑別書に書かれる正式名称は「ミルキー・クォーツ」「アメシスティン・クォーツ」です。

ちなみに和名は「藤雲石」ともいわれます。
(ただし、藤雲石はラベンダーアメジストの別名だという説も…)

和名も、正式名称ではありません。とはいえスコロライトの淡くはかなげな紫色に、“藤雲”の名前はぴったりです。
春の早朝の空に、細く藤色にたなびく雲……、枕草子のあの光景が思い浮かびませんか。スコロライトを見ながら、清少納言が眺めた空に思いをはせるひと時も趣深いものです。

さて、スコロライトは、2010年ごろから市場に出始めました。まだ新しい宝石です。

ところが興味深いことに、1849年に発行された「The New Universal English and Italian Dictionary」、つまり英伊辞書にScoroliteの見出しがあるのです。同辞書では、下のように解説されています。

Scrolite
a mineral, minerale di un colors rosso-bruno, opaco, e spongioso.

和訳すると「スコロライトとは、赤茶色で不透明、海綿状をした鉱物」。

また、同じく1849年の「Embracing All Terms Used in Art, Science, and Literature」(百科事典のようなもの)では、以下のように解説されています。

Scorolite
A mineral of a reddish-brown color; opaque; full of small cavities like a cinder. Composition-silica, 58.02; alumina, 16.78; protoxide of iron, 13.328; lime, 8.62; water, 2.00: sp. gr. 1.708;hardness=2

「スコロライトとは赤褐色の鉱物で、色は不透明。燃え殻のような、小さな空洞が無数にある。組成はケイ酸58.02、酸化アルミニウム16.78、鉄13.328、石灰8.62、そして水。比重は1.708、硬度2」。

小さな空洞があって、硬度2の鉱物といえば、ミーアシャム(Meerschaum・海泡石)かなと思います。しかし、ミーアシャムの比重は2.1~2.3と、辞書の記述と合いません。ミーアシャムは色も白く、成分も異なります。

辞書の解説は情報が古く、これ以上の究明はできませんでした。しかし、ある鉱物だとされていたものが、解析が進むうちに別の鉱物と認められた、という話は、宝石界にはよくあること。この辞書に載っていた鉱物が何かはわかりませんが、謎が謎を呼ぶ不思議さが残るのも、宝石を探究する喜びかもしれません。

■スコロライトの産地

スコロライトのもと・アメジストは、世界各地で産出します。

世界でとくに多く流通しているアメジストは、ブラジル産です。ブラジルは世界最大規模のアメジスト産地で、南部を中心に多数の鉱山が分布しています。スコロライトに加工されるアメジストも、ブラジルで採れたものが大半だと考えられます。

反対に、アメジストのレアな産地は、ザンビアやウルグアイ。ザンビアで採れるアメジストは「ディープシベリアンアメジスト」と呼ばれ、アメジストのなかでも最も希少で人気があります。
ウルグアイのアメジストは、色の深さと美しさが格別!艶やかな光沢があり、キラキラと輝きます。

これらの産地で採れるアメジストは、そもそもが貴重です。ザンビアのアメジスト、ウルグアイのアメジストとして流通させたほうが価値が高く、スコロライトに加工されるケースはほとんどないと考えられます。

2. 鉱物・原石としてのスコロライト

ここからは、スコロライトを鉱物・原石の観点から深めていきましょう。「アメジストの加工石でしょ」とあなどることなかれ、スコロライトならではの個性が垣間見られますよ。

■組成について

スコロライトの組成情報は、以下のとおりです。

英名(カタカナ) Scorolite(スコロライト)
和名 藤雲石(ふじくもいし)
成分 SiO2
結晶系 六方晶系
硬度 7
屈折率 1.54~1.55
劈開 なし
淡い紫色、藤色
産地 ブラジル、ウルグアイ、インド、ロシア、南アフリカ
備考 スコロライトは加熱処理・照射処理されています。鑑別書にも記載されます。

もともとアメジストだったスコロライトは、成分や性質はアメジスト同様です。幻想的な雰囲気を持つ、独特の美しさにファンが多い石です。
ただ、流通量が少なく、市場で見かけるチャンスは多くはありません。ミネラルショーをくまなくチェックすると、運よく出会えるかもしれませんよ。

■原石の形状

アメジストの原石

【画像:アメジストの原石】

スコロライトは、元来アメジストです。原石の形状も、アメジストと同じ。六角柱状で、群生したり、ジオード(晶洞)になっているものもあります。

ちなみに、アメジストの結晶は大きくなりにくいと知っていますか?無色のクォーツのように、スッと伸びた六角柱結晶は、ほとんどありません。

アメジストの結晶が成長しにくいのは、含まれる不純物のためと考えられています。不純物が結晶の成長をさまたげるのです。

柱面が小さく、群晶になったアメジストは、独特のかわいらしさです。表面がきらきらと美しく輝き、原石コレクターにも好まれる神秘的な佇まいですよ。

■鉱物視点からみるスコロライト

スコロライトは、アメジストを加熱処理すると生まれるといわれます。ただし、その製法は明らかにされていません。

ブラジル・バイア州にあるボキラ鉱山で採れたアメジストに、放射線照射処理と加熱処理(2回)を施すと、スコロライトになるという説が有力です。

さて、アメジストを加熱処理してできる宝石が、実はもう1種類あります。そう、鮮やかな黄色から赤みがかったオレンジ色、シトラスのような色が特徴の「シトリン(Citrine・黄水晶)」ですね。

アメジストは、本来無色透明なクォーツが微量の鉄分(Fe)を含むことで、紫色になったもの。これを加熱すると鉄成分が変化し、黄色のシトリンになります。

アメジストを加熱するとシトリンになる変化は、1883年にブラジルで発見されました。現在は、アメジストを加熱したシトリンが、市場の大半を占めます。

天然のシトリンは、とても希少です。ただ、自然界ではアメジストに天然放射線が照射され、シトリンになるケースもあるようです。

つまり、アメジストは加熱でも放射線でも、シトリンになるということ。では、加熱と放射線によってスコロライトになる仕組みとの違いは何でしょうか?

これ以上は、まだわかっていません。自然の不思議をも凌ぐ勢いの人間の技術に敬意を表しながら、新しい情報が発表されるのを待ちたいと思います。

【豆知識】宝石の加熱・放射線処理
宝石のカラーを整え美しさを増すため、インクルージョンを消すため、カラーを変えるため…、さまざまな目的で、人為的な加熱処理や放射線処理が行われます。

とりわけ、加熱処理は紀元前から行われてきました。また、人為的な処理が一般的に行われる宝石は、処理によって価値が下がることはありません。

宝石は、地中にあってもマグマの熱などで加熱されます。地中で何万年かけてあらわれる色を、人の手によって短時間で顕出させたもの、それが人為処理だといえます。

3.スコロライトをより楽しむために

希少な宝石・スコロライト。もっと気軽に、身近に楽しむ方法はないでしょうか。コレクターからクリエイターまで必見の、カジュアルなスコロライトの楽しみ方を紹介します。

■誕生石・石言葉

スコロライトの石言葉には、次のようなものがあります。

  • 自分らしさ

  • 純愛

  • 素直

  • 解放

  • インスピレーション など

スコロライトは心を穏やかに保ちたいとき、成長したいときにぴったりの石です。また、もとアメジストという性質から、愛の守護石とされる場合もあります。

スコロライトは誕生石にはなっていませんが、アメジストは2月の誕生石。2月生まれのあの人に、アメジストの代わりに贈っても印象深いプレゼントとなりますよ。

■スコロライトの加工

スコロライトの優しい乳白色は、ビーズに加工すると一段と引き立ちます。ミルキーなラベンダーカラーが光を柔らかく反射し、じっと覗き込みたくなる魅力を持っています。

クォーツ種らしい硬度と劈開のなさは、アクセサリーにして日常的に使いたい人にも最適!カボションカットにして、ムーンストーンのような光の反射を楽しんでも素敵です。

スコロライトは、もともとはアメジストです。アメジストは太陽光に弱く、色が薄くなってしまう場合があります。保管の際は日の当たる場所は避けましょう。

≪注意≫ スコロライトオパール?

海外では「スコロライトオパール(Scorolite Opal)」という名称の石が、度々売られているそうです。オパールを彷彿とさせるスコロライトの光から、名前が付いたようです。

ただし、スコロライトオパールという石はありません。スコロライトでもなければ、オパールでもないため、注意しましょう。


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4. まとめ

スコロライトは、アメジスト(紫水晶)に加熱・放射線処理を加えて生まれる宝石です。その製法は秘密のベールに包まれており、またどの産地のアメジストもスコロライトになれるわけではない、というのも不思議なポイント。
そして加熱によってシトリンになるアメジストもあれば、スコロライトになるアメジストもある……、鉱物好き魂、コレクター魂を、これ以上ないほど刺激する石ではないでしょうか。

TOP STONE オンラインショップでもスコロライトを販売しています。透明度の高い乳白色という得いわれぬ美しさを持つスコライトを、ぜひチェックしてみてくださいね。


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この記事を書いた人

みゆな

TOP STOneRY / 編集部ライター

トップストーン編集部がお届けする「トップストーリー」メディアでは、古くから愛されている誕生石の歴史やエピソード、最新のレアストーンの特徴、宝石の楽しみ方をわかりやすく解説しています。「天然石の魅力をもっと多くの方に知ってもらいたい」という想いで、個性溢れるライターが情報発信しています。