太陽に頬を染める石 ハックマナイト

ハックマナイトという宝石をご存知でしょうか。
コレクター向けに流通していた、一般的にはあまり聞き馴染みのないレアストーンです。見た目の美しさは勿論、他にない面白い特性を持つハックマナイト。その魅力に触れて頂きたく、解説していきます。
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1.宝石・ルースとしてのハックマナイト

ハックマナイトはソーダライトの亜種または変種です。亜種か変種かは専門家でも意見が分かれますが、このページでは変種としています。
どちらにせよ、ハックマナイトはソーダライトの深い青とは全く違う外観で、不透明から半透明、稀に透明な石を産出します。その色もカラーレスや灰色、帯青灰色、淡桃色〜紫など。変種ということもあり産出量の少ない希少石で、コレクターストーンとしてわずかに流通していました。
その最大の特徴は、紫外線によって色を変える効果です。
■貴石品質のハックマナイト

透明な貴石品質のハックマナイトにはカラーレスや淡いブルー、淡いピンク〜バイオレットなどのカラーがあります。基本的には不透明〜半透明の半貴石質の石で、不透明なソーダライトとは違い、翡翠のようなとろりとした透明感も魅力です。
その中でも透明なハックマナイトは、希少なハックマナイトの中でも更にレア。通常インクルージョン(内包物)やクラック(内部の割れ)を含んでいますが、インクルージョンやクラックの有無は然程に重要視されません。
むしろ、どの様にインクルージョンやクラックが入っているかによって色の変化にもニュアンスが生まれ、その石をひきたたせています。
カボションカットにされることが多いハックマナイトですが、貴石品質のハックマナイトは希少なクラリティを活かしてファセットカットされることもあります。モース硬度が5.5-6と他の貴石に比べると低いこと、クラックの有無によってはアクセサリーを重ね着けする際などに注意が必要です。
ハックマナイトの最大の魅力であり価値は、紫外線による変色性にあります。
■ハックマナイト最大の魅力、テネブレッセンス

光によって色が変わる、といえばフローライトに代表される蛍光によるフルオレッセンス、アレキサンドライトに代表されるカラーチェンジがまず浮かびます。しかし、ハックマナイトの色の変化はどちらとも違います。
UVによって色を変えますが、紫外線光が当たっている間だけではなくその後もしばらく色が変わり続けているのです。この現象を可逆的光互変、科学的にはフォトクロミズムといいますが、宝石に対してはテネブレッセンスとも呼ばれています。
紫外線を吸収すると元の色が濃く、また紫色を帯びるようになり、柔らかく優しい印象の石がビビットで溌剌とした印象の石に変化します。数十秒の照射で数分間は色が持続し、色が変わるのが短時間なのに対して戻るのはゆっくりです。照射する時間によって色の変化量も増えていきます。
外に出れば、浮き立って上気する頬と同じように染まっていくハックマナイト。帰宅後、リラックスするに連れ色も落ち着いていく。楽しい気持ちをそのまま可視化してくれるような、心とリンクするような宝石です。
またハックマナイトはオレンジ色の蛍光を示すことがあります。これも照射時間が長ければ長いほど、アプリコットのような淡いオレンジからミッドサマーの太陽のように濃く、美しいオレンジ色に輝いていきます。
このテネブレッセンスがハックマナイトの最も特徴的な部分です。オンラインでの購入などは確認が難しい場合もありますので、照射前後の写真の記載があったり、実際店頭で確認できるものを手に入れたいです。
■ハックマナイトの歴史と由来
ハックマナイトはソーダライトの変種ですが、ソーダライトといえばラピスラズリを構成する青い石です。古代エジプトでラピスラズリをはじめ青い石は魔除けなどとして重用されてきました。ソーダライトも同様に魔除けに使われていた、と言いたいところですが、ソーダライトは粉にするとその美しい青が消えてしまう為、魔除けにはなりませんでした。ラピスラズリではない石として無碍にされる一方、希少石とはいえハックマナイトは果たして、当時一切見つからなかったものでしょうか?夜には青く、光の下ではピンク色に輝くまさに「魔法の石」。魔除けには使えない筈の、しかし昇る太陽とともに光る魔法の石に古代の神官はどんな啓示を得たのでしょう。なんとも夢が広がります。
残念ながら魔法の石の記録はなく、事実としては1980年頃、ロシアのコラ半島で初めて発見されました。その名前はフィンランドの地質学者、ビクトル・アクセル・ハックマン(Victor Axel Hackman)に由来しています。
ビクトル・アクセル・ハックマンはハックマナイトの発見者ではなく、ハックマナイトが発見されたロシアのコラ半島をはじめ霞石閃岩地帯で研究していた地質学者です。彼に敬意を表してその名がつけられました。コラ半島には同様にハックマンを由来に命名された川や渓谷もあるようです。
ビクトル・アクセル・ハックマンは地質学者になる前に哲学の博士号も取得しています。パワーストーンをはじめ、心と石というのは惹かれ合うものなのかもしれません。
■ハックマナイトの産地

ハックマナイトの産地は主にミャンマー、ロシア、カナダ、アフガニスタン、パキスタン、グリーンランドなどです。前述した通り、ロシアは初めてハックマナイトが発見された土地でもあります。
この中でも貴石品質のハックマナイトが産出されることで有名なのはミャンマーでした。しかし、2010年には閉山してしまいます。この閉山に至る経緯に、違法な採掘が多数発生した、というのもあります。美しい宝石に人の悪意が絡んでその宝石を失うのは、何とも悔しい話です。
ハックマナイトが日本市場に登場し始めたのが2005年頃ですので、貴石品質のハックマナイトは実に5年程しか入ってきていないということになります。他にカナダでも貴石品質のハックマナイトが1991年に発見されていますが、2023年現在取り立てて採掘されているという情報はありません。
そういう経緯もあり、更に希少な宝石になってしまいました。
2.鉱物・原石としてのハックマナイト

珍しい不思議な効果を持つハックマナイト。何故そのような効果を持つようになったのか、その鉱物の魅力を解説します。
■組成について
まずは、組成から見てみましょう。
英名 | Hackmanite(ハックマナイト) |
和名 | ハックマン石 |
成分 | Na8Al6Si6O24(Cl,S) |
結晶系 | 等軸晶系 |
モース硬度 | 5.5-6 |
屈折率 | 1.47 |
劈開 | 不明瞭 |
色 | 灰色、帯青灰色、紫、赤紫、淡桃色など |
主な産地 | ミャンマー、ロシア、アフガニスタン、パキスタンなど |
ハックマナイトは、ソーダライトの一種です。ソーダライトの組成はNa8Al6Si6O24Cl2ですが、このCl(塩素)の一部がS(硫黄)に変わっています。この硫黄が紫外線に反応し電子が移動することで色が変わります。 硫黄を多く含めば色の変化量も多いかというと、そういうわけでもありません。色の変化量は、照射時間に比例します。ただし、元々色の変化が判りにくいハックマナイトは、長時間紫外線を照射してもやはりあまり変わりません。
レアストーンでサンプル数が少ない為か、まだ地質学的な特性がわかっていないことも多いハックマナイト。
ハックマナイトはソーダライトの変種であり、ソーダライトはラピスラズリを構成する鉱物でもあります。ハックマナイトで構成されるラピスラズリなどが発見されたら……。夜には深遠の青、朝には柔らかく燃えるようなラピスラズリなど、夢が広がります。
ちなみにハックマナイトは、一般的には「硫黄を含むソーダライト」となっていますが、明確に区別する基準は実はありません。
まだ謎の多い鉱物は、夢を入れる余地が豊富なことも魅力です。今後の研究でどう明かされていくのか楽しみです。
■ハックマナイトの原石
ハックマナイトはソーダライトと同じく塊状で産出されますが、稀に12面体の結晶として産出することもあります。
また名前の由来でもあるハックマン博士が研究していた霞石閃長岩を伴って産出されることもあります。
この霞石閃長岩は大陸が分裂を始めた、その末期のマグマから作られるものです。およそ6500万年前程でしょうか。そんな時代の深成岩を伴って産出するハックマナイト。果てしない時の中で、太陽の下輝く日を待っていたのでしょう。
■原石の魅力

唯一無二の特性を持つ鉱物はそれだけで魅力があります。ハックマナイトのテネブレッセンスも無二の魅力です。原石を照射すると、岩石の中で鮮やかに色を変えるハックマナイトがより映えて美しいです。半透明〜不透明のハックマナイトは柔らかく優しい雰囲気があり、原石だとそれが十分に活かされます。
原石を飾るのも魅力ですが、ワイヤーやコードを用いてアクセサリーにするのもナチュラルな可愛らしさがあります。不透明石も照らせばキラキラとラメのような輝きもあり、ナチュラルな柔らかな雰囲気だけで終わらないハックマナイトの魅力です。
3. ハックマナイトをより楽しむために

宝石のその他の楽しみ方として、誕生石や石言葉、加工品の使用例などをご紹介します。
■石言葉
新しい石であり、またレアストーンでもあることから、石言葉ひとつとっても色々な情報が飛び交っています。基本はポジティブな印象で喜びや適応などが石言葉になります。喜び湧き上がるイメージを、そのまま色に乗せていくようなハックマナイトに相応しい言葉です。
■ビーズなどの加工品
ハックマナイトは半貴石として流通しており、ビーズの種類が豊富です。
とはいえ元々が希少ですので、テネブレッセンスのはっきりとしたビーズばかりを集めるのは中々難しいかもしれません。
ティアドロップなどに研磨されて、ペンダントトップに加工されることもあります。劈開が不明瞭でモース硬度も低いことから彫刻に適するように思えますが、希少石ゆえにあまり見かけません。前述した通り原石をアクセサリーにするのもおすすめです。
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4. まとめ
希少石、ハックマナイト。淡い色からビビッドに輝くのは無二の特徴で、石もその特性もレアな鉱石です。是非、身につけて出かけて欲しい石です。ハックマナイトが輝くにつれ、心も煌めき出すに違いありません。
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この記事を書いた人

佐伯
TOP STOneRY / 編集部ライター
トップストーン編集部がお届けする「トップストーリー」メディアでは、古くから愛されている誕生石の歴史やエピソード、最新のレアストーンの特徴、宝石の楽しみ方をわかりやすく解説しています。「天然石の魅力をもっと多くの方に知ってもらいたい」という想いで、個性溢れるライターが情報発信しています。