2023/09/07

淡く儚いピンク色【クンツァイト】|色の秘密と魅力、物語まで

「愛の石」はさまざまありますが、恋の儚さ・愛する人への思いやりを体現した石をお探しならクンツァイトに注目してみてください。紫色からピンク色の透明感あふれる居住まいは、うっとりするほどの魅力を放ちます。

燐光性を持ち、暗闇でパッと光を放つ姿はまさに燃え上がる恋の光。

今回は女性を中心に人気があるクンツァイトの魅力に迫ります。奥ゆきのあるカラーが生まれる秘密から歴史的な逸話、鉱物学的にみたクンツァイトまで幅広く網羅しました。

最後まで読むと、きっとクンツァイトをコレクションに加えたくなるはずです。それでは、早速始めましょう。


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1. 宝石・ルースとしてのクンツァイト

まずは宝石・ルースの視点からクンツァイトを見ていきます。クンツァイトの魅力であるカラーと多色性、燐光性を中心に解説します。

■高品質なクンツァイトとは

クンツァイトはカラーが鮮やかで濃いほど、高く評価されます。クンツァイトはもともと色が淡い個体が多く、紫外線により褪色しやすい特徴もあるためです。濃く鮮やかなカラーを持つ石は、それだけで評価が高まります。

石自身の色が淡いため、カラットが小さくなるほど色が薄くなるのはやむをえないことです。元来は無色透明なこともあり、宝石として流通させるにはあまりに色が薄い場合は人為的な照射処理と加熱処理が施される場合があります。また色をこもらせ濃く見せるために、厚みのあるステップカットを施すケースもあります。したがって小さくカットしても濃い色を保持できるクンツァイトは、もはや別格のクオリティとして取り扱われます。

宝石である以上、透明度が高く、インクルージョンの少ない石の方が価値が高いのはいうまでもありません。

ただし管状インクリュージョンは、クンツァイトにはよくある含有物です。管状インクルージョンが密になると、クンツァイトに独特のキャッツアイ効果をもたらします。淡い色合いに一筋のキャッツアイがあらわれるさまは、女性のしなやかさと芯の強さが共存するさまにも見えます。

■クンツァイトの特徴

クンツァイトの特徴である「多色性」「燐光性」を詳しく解説します。

多色性

    柱状結晶の側面から見ると色が薄く、伸長方向からは濃く見えます。多色性を最大限に魅せるために、カッターには方位を十分に見極める慎重さと技術が求められます。

    ≪用語解説≫多色性とは
    見る方位によって色が異なる光学的性質です。蛍光灯や白熱灯、太陽光といった光源とは関係なく起こります。多色性を持つ宝石として有名なのは、タンザナイトです。タンザナイトは、地色が濃いブルーでも見る角度を変えると淡い青色や紫色に見えます。

    燐光性

      クンツァイトは燐光性(りんこうせい)の性質も持っています。

      ≪用語解説≫燐光性とは
      紫外線を浴びて蛍光し、かつ紫外線照射が終わったあともしばらく発光し続ける現象です。紫外線の影響で大きなエネルギーを持った電子が高い位置に移動したあと、時間をかけて元の位置に戻るために持続的な発光が起こります。光の正体は、電子が位置を変える際に放出される余分なエネルギーです。

      紫外線、つまり太陽光を浴びたクンツァイトを薄暗い室内に持ち込むと、キラキラと発光し存在感を増します。光を放つクンツァイトは、夜のパーティーやイブニングドレスにとてもよく映えます。

      反対に紫外線により褪色する性質があるため、日中や屋外での使用には向きません。日が沈んでから本領を発揮する姿から「夕べの宝石」と呼ばれることもあります。

      ■クンツァイトの仲間の宝石

      クンツァイトが属するスポジュミングループの仲間を紹介しましょう。スポジュミンはリチウムを含むリチア輝石です。主成分のひとつであるアルミニウムが別の金属に置き換わると、まったく異なる色を呈します。

      クンツァイトは、スポジュミンのアルミニウムがマンガンイオンに置き換わってできています。マンガンはピンク色を表出させます。マンガンでピンク色になったカルサイト「ピンクマンガン (マンガン方解石)」が代表例です。

      ヒデナイト(Hiddenite)クロムを含むスポジュミンです。1879年、アメリカ・ノースカロライナ州で発見されました。ミントのようなクリアな緑色が特徴です。

      トリフェーン(Triphane)は黄色・黄金色に輝きます。多色性の強さからギリシア語で「3通りの顔」を意味する名前がつけられました。

      ■クンツァイトが見つかるまでの旅路

      クンツァイトは、発見し名前がつくまでに長い旅路を歩んできました。

      クンツァイトを含むスポジュミンの存在は、200年以上前から知られてはいました。ただ当時見つかっていたスポジュミンは、灰色から白色の何の変哲もない石。そのため鉱物学者たちのあいだで話題になることもなく、ほとんど広まらなかったようです。

      宝石品質のスポジュミンが見つかったのは、1877年です。世界有数の宝石産地であるミナス・ジェイラス州(ブラジル)で、透明で黄色い結晶が採掘されました。そうです、トリフェーンの登場です。

      次に見つかったのは、緑色のヒデナイトでした。1879年にアメリカで発見されます。当初はダイオプサイドに似た新種だと思われていました。クロムによって緑色になったスポジュミンだとわかったのは、しばらく後のことです。

      20世紀に入ってまもない1902年、いよいよクンツァイトが発見されます。場所はアメリカのカリフォルニア州。柔らかな色合いから当初は「カリフォルニア・アイリス」と呼ばれていましたが、後にクンツァイトと名づけられます。

      それにしても、クンツァイトとは面白い名前です。なぜこの名前になったのでしょうか。続いては名前の由来を解説します。

      ■クンツァイトの名前の由来

      「クンツァイト」という独特の名前は、ティファニー社の宝石鑑定士だったGeorge Frederick Kunz(ジョージ・フレデリック・クンツ)博士に由来します。

      1902年、クンツ博士はピンク色や紫色をした見慣れない鉱物を発見します。カリフォルニア州サンディエゴにあったペグマタイト鉱床での発見でした。

      この結晶を詳しく調べたところ、既知だったスポジュミンの変種だと判明。翌年、米国科学振興協会の『サイエンス』誌に発表され、世に知られることとなりました。

      サイエンス誌に発表したのはノースカロライナ大学のCharles Baskerville(チャールズ·バスカヴィル)教授です。教授は発見者であるクンツ博士に敬意を表し、クンツ博士の名前からこの石を「クンツァイト」と名づけたといわれています。

      【豆知識】
      ちなみにクンツ博士は、有名なモンタナサファイアを鑑別した人です。また1911年にはマダガスカル産の新種ベリルを「モルガナイト」と名づけました。宝石鑑定会に多大な功績を残した人物として知られています。

      ■著名人にも愛されるクンツァイト

      クンツァイトは著名人からも愛されてきました。有名なエピソードは、アメリカ・ケネディ元大統領夫人のジャクリーン・ケネディでしょうか。

      二人が結婚して10年目のクリスマスのことです。ケネディ元大統領はピンク色を好む夫人に贈るために、クンツァイトの指輪をオーダーしました。

      しかし指輪の完成を待たずに大統領は凶弾に倒れます。喪に服した夫人は、一年のあいだまったくジュエリーを纏いませんでした。ただこのクンツァイトの指輪だけは、身につけ続けたといわれています。

      クンツァイトの石言葉「真実の愛」を彷彿とさせるエピソードだと思いませんか。

      ■産地ごとの違いについて

      クンツァイトは、産地によって個性的な特徴を見せます。

      現在、クンツァイトを含むスポジュミンの多くはアフガニスタンで採掘されています。アフガニスタンで採れるクンツァイトは透明度の高さで有名です。カラーも鮮やかで、紫色が美しく輝きます。色鮮やかなクンツァイトを手に入れたい場合はアフガニスタン産、もしくはナイジェリア産を探してみてください。

      さてこのアフガニスタン産のクンツァイト、マンガンを豊富に含みます。そのため紫外線を浴びると藤紫色からピンク色に簡単に変色します。色合いの変化はとても速く、ほんの30分ほどで変色が完了するともいわれます。

      もうひとつ有名なクンツァイトの産地はブラジルです。ところがブラジルで採れるクンツァイトは、紫外線を浴びると変色ではなく褪色します。最終的には無色になり、紫色やピンク色の気配は残りません。(※ 長らく多量のクンツァイトを供給してきたミナス・ジェイラス州とゴベルナドル バラダレス地域にある鉱山は枯渇し、閉山しています。)

      産地によって色味や個性が異なる点は、クンツァイトを識別するポイントともなっています。

      クンツァイトのピンク色は不安定なため、紫外線の当たらない場所で保管するようにしましょう。

      2. 鉱物・原石としてのクンツァイト

      Wikipedia掲載画像
      Didier Descouens - 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 4.0,
      https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=8623750による

      クンツァイトは鉱物学的に見ても、とても興味深い特徴を持っています。ここからは鉱物・原石の観点から、クンツァイトを深めていきましょう。

      ■組成について

      クンツァイトの組成情報は、以下のとおりです。

      英名(カタカナ) Spodumene(スポジュミン)
      Kunzite(クンツァイト)
      和名 リチア輝石(りちあきせき)
      黝輝石(ゆうきせき)
      成分 Li(Al, Mn)Si2O6(ケイ酸リチウムアルミニウム)
      結晶系 単斜晶系
      モース硬度 6.5~7
      屈折率 1.65~1.67、1.67~1.69
      劈開 2方向に完全
      ピンク色、紫色、ライラック色
      主な産地 ブラジル、アフガニスタン、パキスタン、マダガスカル、アメリカ、ミャンマー

      2方向に完全な劈開を持つクンツァイトは、カッター泣かせの石といえるでしょう。宝石品質の石があっても実際にカットするためには高い技術が求められます。

      ■原石の形状

      クンツァイトの原石は、くっきりとあらわれた条線が印象的です。結晶は板状で、比較的大きいまま産出することも珍しくありません。

      アメリカ・サウスダコタ州では長さ14.3m・重さ90tという世界最大の単結晶も見つかっています。

      劈開のためにカットが難しいクンツァイトは、原石のまま流通するケースも見られます。手のひらサイズの大きな原石も販売されており、存在感のあるコレクションとして人気があります。

      ■鉱物としてのクンツァイト

      クンツァイトを含むスポジュミンは、リチウムを多量に含みます。リチウムは、リチウムイオン電池などにもつかわれる重要な鉱物資源です。

      スポジュミンには理論上、8wt%(ウェイトパーセント)のリチウムが含まれると考えられており、 ユークリプトタイト・アンブリゴナイトに次ぐ濃度です。

      【豆知識】「wt%」とは?
      ある物質を水に溶かしたときの濃度を示す単位。「物質の質量 ÷ 物質を含めた水の質量」で計算します。

      鉱物からのリチウム抽出は、コストや手間が課題となり普及してはいません。リチウムのリサイクル手法がいまだ確立されていない現代では、リチウムは生産を続けるしかないのが現実です。

      希少鉱物のなかには「枯渇」が現実味を帯びて語られるものもあります。もしかすると、主流となっているかん水式リチウム生産もいずれ枯渇するかもしれません。科学技術の進歩によるリチウムのリサイクル技術の確立が先か、あるいは鉱物からのリチウム採取が主流となるのが先か、気になるところです。もし鉱物からのリチウム採取の割合がどんどん増せば、スポジュミン、そしてクンツァイトがいずれ希少鉱石として高騰する可能性もゼロではないと考えられます。

      3. クンツァイトをより楽しむために

      藤や桜、ライラックなどいろいろな花の色にもたとえられるクンツァイトは、とりわけ女性から人気が高い石です。どこかはかなげなのに存在感がある、そんなクンツァイトをもっと身近に楽しむヒントを紹介します。

      ■誕生石・石言葉

      クンツァイトは9月の誕生石です。2021年12月、全国宝石卸商協同組合によって追加されました。

      ちなみに日本における9月の誕生石は、ほかにサファイアがあります。深く鮮やかなブルーが印象的なサファイアと、優しいライラック色のクンツァイト。どちらをお気に入りにするか、迷ってしまいます。

      世界では9月の誕生石として、以下も採用されています。

      • ラピスラズリ(イギリス)

      • ペリドット(フランス)

      クンツァイトの石言葉は「無償の愛、無限の愛、純粋さ、可憐」などです。まさにクンツァイトの色にふさわしい、包容力のある言葉が並びます。安らかで穏やかな気持ちになりたいとき、愛する喜びを味わいたいときに、身につけてみてください。

      ■アクセサリーやビーズとして

      クンツァイトのまろやかな色と多色性を活かしたアクセサリーは、身につける人の可憐さを引き立てます。

      身に纏う際は、できるだけ大ぶりのクンツァイトがおすすめです。色の鮮やかさが増し、それと同時に見る角度によってはっきりと多色性が分かります。ステップカットはクンツァイトの魅力を存分に引き出す一方、輝きを堪能できるブリリアントカットやミックスカットも捨てがたく悩んでしまいます。

      透明度があまり高くなく、宝石品質にはならないクンツァイトもビーズにするとまた違ったかわいらしさを見せてくれます。

      スポジュミンに特有の管状インクルージョンが筋となってあらわれる様相は、まさにキャンディ!コロコロと転がすと、本当にキャンディのようです。一般的にはインクルージョンはない・少ないほうが好まれます。しかしクンツァイトやスポジュミンに限っては、管状のインクルージョンがあったほうが好き!と語るコレクターもいるほどです。

      ラベンダーやイチゴを思わせるミルキーな色合いのクンツァイトには、うっすらと透ける条線が神秘的な雰囲気をも纏わせます。

      色合いの異なるビーズを少しずつ集め、クンツァイトのグラデーションを作ってみてはいかがでしょうか。

      <注意>クンツァイトの取り扱いかた
      クンツァイトは硬度6.5~7とデイリーユースも可能な頑強さを持っていますが、劈開が完全なため取り扱いには注意しましょう。
      固いものとの接触を避け、単体で保管するのがおすすめです。
      また直射日光や紫外線に弱く褪色するおそれがあります。真夏のレジャーやアウトドアには向きません。蛍光灯からも微量の紫外線が出ています。室内でも光が当たる場所に置きっぱなしにしないほうが無難です。


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      4. まとめ

      クンツァイトの魅力は、紫色~ピンク色のやわらかな輝きです。リチア輝石と呼ばれるスポジュミンの一種で、主成分であるアルミニウムがマンガンに置き換わり、ピンク色を表出するようになりました。

      見る角度によって色が違ってみえる多色性や、光に充てると一定時間発光し続ける燐光性など個性も豊か。完全な劈開ゆえにカットが難しいからこそ、さまざまなカットを集めたくなる石です。

      大きな塊で産出するクンツァイト原石にも注目してみてください。結晶の伸長方向に見られる条線に、地球内部で過ごした長い年月を感じられます。


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      この記事を書いた人

      みゆな

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