宝石の国「フォスフォフィライト」で大注目!リン酸塩鉱物13種を一挙紹介

惜しまれつつも連載最終話を迎えた、漫画「宝石の国」。サブスクリプションサービスでは、アニメ版が配信されていますよね。あなたは漫画派?それともアニメ派?ハラハラが続く展開や、人間味(?)あふれる宝石たちの振る舞いが、あなたの心を躍らせ続けているのではないでしょうか。
そんな「宝石の国」をきっかけに、本物の宝石に興味を持つ人も増えているようです。とくに人気が高まっているのは、主人公である「フォスフォフィライト」。ミント色で、脆い宝石とは一体どんなもの?と調べてみた方もいるのでは?
そんなフォスフォフィライトは、リン酸塩鉱物という鉱物グループの一員です。実はリン酸塩鉱物は、筋金入りの宝石・鉱物コレクターが垂涎するレアストーンが目白押しの、大注目グループ!
今回はフォスフォフィライトにインスピレーションを得て、リン酸塩鉱物を一挙に紹介します。カラーも特徴も個性的なリン酸塩鉱物から、ぜひお気に入りの宝石を見つけてみてくださいね。
▶ TOP STONE で販売中の「リン酸塩鉱物」
1. リン酸塩鉱物とは
はじめに、リン酸塩鉱物とはどのような鉱物グループなのか、簡単に見ておきましょう。
そもそも、地球上で人間が確認できている鉱物は現在5,000種類ほどに上ります。これらの鉱物は、一定のルールに沿って、いくつか(といっても膨大ですが)のグループに分けられています。
フォスフォフィライトが属するリン酸塩鉱物グループも、そのように分けられたグループの1つ。200種類以上の鉱物種を含みます。
リン酸塩鉱物の特徴は、名前の通り「リン(燐・P)」を含むこと。リン酸塩鉱物グループの鉱物は、かならず「リン1個+酸素(O)4個でできたリン酸イオン・PO4」を持っています。
リン酸塩鉱物は、マグマに含まれる雑多な成分が結晶化して鉱物になる過程で生まれたり、いったんリン酸塩鉱物になった結晶が水中で変質して別のリン酸塩鉱物になることで生まれたりします。
2. レアストーンが続々!リン酸塩鉱物の仲間たち13石種

リン酸塩鉱物の概要が分かったところで、さっそくリン酸塩鉱物の仲間を見ていきましょう!フォスフォフィライトにはじまり、ルース(カット・研磨済みの宝石)専門店でもめったに入荷できないレア中のレアストーンまで、コレクター人気も高い以下の13石種が登場します。
■フォスフォフィライト

いまや、リン酸塩鉱物を代表する知名度の高さといっても過言ではない、フォスフォフィライトです。
物語で描かれるフォスフォフィライトの特徴は、見事なまでに本物のフォスフォフィライトと一致しています。
次の表は、フォスフォフィライトの鉱物的・物理的特徴をまとめたものです。宝石や鉱物のコレクターは、こうした情報を見て、それぞれの石の特性を把握します。
英名(カタカナ) | Phosphophyllite(フォスフォフィライト) |
和名 | 燐葉石(りんようせき) |
成分 | Zn2Fe2+(PO4)2・4H2O |
結晶系 | 単斜晶系 |
硬度 | 3~3.5 |
屈折率 | 1.59~1.62 |
劈開 | 一方向に完全、二方向に明瞭 |
色 | カラーレス、淡グリーン~ブルーグリーン |
産地 | アメリカ、オーストラリア、ボリビア、ドイツなど |
「宝石の国」に登場するフォスフォフィライトは、薄荷色(ミント色)の髪をしています。
本物のフォスフォフィライトを見てみてください。フォスフォフィライトの髪色を彷彿とさせる淡いミントブルーです。強くつかむと割れてしまいそうな儚さを感じさせるカラーは、フォスフォフィライトの「脆く、靭性が弱い」という特徴を連想させます。
ちなみに、本物のフォスフォフィライトのモース硬度(硬さをあらわす単位)は、3〜3.5。硬貨でこすると傷がつく程度の強さしかありません。学校の美術室にあった石膏像につかわれる石膏が、硬度2。フォスフォフィライトは、あの石膏像より、少し強い程度です。
触った感じは、鉱物や石というより、固くなったグミといったほうが近いかもしれません。
実際にフォスフォフィライトが採れる鉱山は、すでに大半が閉鎖されたそう。いま、市場にあるフォスフォフィライトは、閉山前に採掘された個体だと考えられます。
新しい結晶が世に出る期待がほとんどないことも、フォスフォフィライトの価格を跳ね上げる要因となっています。
一般的に「カラーが鮮やかなほど価値がある」とされる宝石界において、淡いカラーながらもこれだけ高く評価される宝石は、フォスフォフィライトをおいてほかにはありません。
「コレクションに、フォスフォフィライトのような淡いミントグリーンカラーを加えたい(でも、フォスフォフィライトはちょっと手がでない…)」という人は、グランディディエライトやパライバトルマリンをチェックしてみましょう。
太陽の光に透けるフレッシュな新緑や、澄んだ湖を思わせる淡いカラーのルースを、比較的お手頃な価格で手に入れられます。


■フォスフォシデライト

フォスフォフィライトと、とても名前が似ている石です。「フォスフォシデライト」といいます。名前を見間違えないように、注意しなければなりませんね。
ただ、本物の宝石を見れば混同することはないでしょう。フォスフォシデライトは赤紫色をしているためです。
英名(カタカナ) | Phosphosiderite(フォスフォシデライト) |
和名 | 斜燐鉄鉱(しゃりんてっこう) |
成分 | FePO4・2H2O |
結晶系 | 単斜晶系 |
硬度 | 3.5~4 |
屈折率 | 1.70~1.74 |
劈開 | 一方向に明瞭、一方向に不明瞭 |
色 | 紫~赤紫色、ピンク色、黄褐色色、緑色、無色 |
産地 | アメリカ(サウスダコタ州)、フランス、ドイツ、ポルトガル、チリ、アルゼンチン など |
フォスフォシデライトは、希少種が多いリン酸塩鉱物グループの中でも、とりわけレアな存在です。パステル調の赤紫色をした個体が多めですが、ピンク色やスミレ色、ラベンダー色、珍しいところではモスグリーンやオレンジ色になるものもあります。
19世紀に発見され、2000年代に入ってから市場に流通し始めた、とても新しい宝石です。知名度がまだ高くなく、知っているとコレクター仲間から一目置かれるかもしれませんよ。
もっとも美しい原石を産出する場所は、アメリカ・サウスダコタ州にあるブル・ムース鉱山(Bull Moose Mine)です。ちなみにブル・ムース鉱山からは、フェルドスパー(長石)やローズクォーツ、ベリルなども産出します。
フォスフォシデライトは、不透明で硬度が高くありません。そのため、流通する個体の大半は原石やカボションカットされたルース、あるいはビーズ状です。
含有する不純物が、表面に黄色い筋や斑点を発生させるのもフォスフォシデライトの個性。カッターは、石一つひとつの表情をじっくり見極め、もっとも魅力的になるよう研磨するといいます。
「フォスフォシデライト」という、フォスフォフィライトに負けず劣らず舌を噛みそうな名前は、フォスフォシデライトの成分由来です。おもな成分である燐(リン・P)は、ギリシア語で「Phospho」、そして鉄(Fe)が「Sideros」。この両者が組み合わさって、フォスフォシデライトとなりました。
フォスフォシデライトの色合いや表情は、「リチア雲母」と呼ばれるレピドライト(Lepidolite)ともよく似ています。
■ターコイズ

フォスフォフィライトがここまで有名になる前、リン酸塩鉱物グループでもっとも有名だった石種といえばターコイズでしょう。「トルコ石」という名前で親しまれる水色やブルーグリーンの石です。黒や茶色の網目模様が入ったものもありますね。
英名(カタカナ) | Tuequoise(ターコイズ) |
和名 | 土耳古石(トルコ石) |
成分 | Cu2+Al6[(OH)2|PO4]4・4H2O |
結晶系 | 三斜晶系(微細結晶粒からなる塊状) |
硬度 | 5~6 |
屈折率 | 1.61~1.65 |
劈開 | 微細結晶:1方向に完全・1方向に良好 塊状結晶:なし |
色 | 空青色・青色・帯緑青色・青緑色・帯黄緑色 |
産地 | イラン、アメリカ、中国、イスラエル、エジプト など |
「トルコ石」という名前から、トルコが産地と思われがちですが、実は違います。同じ中東にあるイランが主要な産地です。イランからは、ムラのない均一な青さが魅力的な、高品質なターコイズ「ソリッド・ストーン(Solid Stone)」も届けられます。
ターコイズの青色をあらわす「ペルシアンブルー」という名の「ペルシア」は、現在のイランを指すほど、イランと切り離せない縁がある石です。
ではなぜ、トルコ石というのか。その理由は、ペルシアで採れたターコイズがトルコを経由してヨーロッパに運ばれたことに由来します。産地ではなく経由地の名前が、宝石の名前になったというわけです。ちなみにターコイズは、リン酸塩鉱物のなかで、もっとも初期に発見された種類の1つです。
「スリーピング・ビューティー・ターコイズ(眠れる森の美女のターコイズ)」という、なんともロマンチックな名前のターコイズもあります。これはアメリカ・アリゾナ州にある同名の鉱山で採れる、美しいターコイズのこと。ただ、残念ながら閉山しているため、スリーピング・ビューティー・ターコイズは、いま市場にあるものがすべてといわれています。
ターコイズの個性でもある黒色や茶色の網目模様は、マトリックスといいます。その正体は、ターコイズが生成するときに取り込まれた母岩や不純物。生成環境によってさまざまな色・模様を呈し、ターコイズの個性の1つとなっています。
模様の入り方によって「ネット・ターコイズ」「スパイダー・ターコイズ」など、いろいろな名前があります。
コレクターやデザイナーのなかには、あえてマトリックスのあるターコイズを指名する人も多いそうです。
■アパタイト

アパタイトは、ネオンブルー色が有名なリン酸塩鉱物の宝石です。ただ、実はカラーバリエーションはベリル(緑柱石)やトルマリン(電気石)に負けずとも劣らないほど豊富。グリーンやピンクなど、鮮やかなのにシックな輝きがコレクターを魅了します。
英名(カタカナ) | Apatite(アパタイト) |
和名 | 燐灰石(りんかいせき) |
成分 | Ca5(PO4)3(F,OH,Cl)2 |
結晶系 | 六方晶系 |
硬度 | 5 |
屈折率 | 1.63~1.65 |
劈開 | 不明瞭 |
色 | 黄色、緑色、黄緑色、青色、紫色、白色、無色、灰色、ピンク色、褐色、赤紫色 など |
産地 | ブラジル、メキシコ、マダガスカル、モザンビーク、スリランカ、カナダ、ミャンマー など |
アパタイトを一躍有名にしたのは、パライバトルマリン(※)に似た鮮やかなネオンブルーの個体でした。アパタイトのイメージカラーともいえるこの色の個体は、マダガスカルで産出します。パライバトルマリンを連想させるためでしょうか、「パライバ・アパタイト」という名前で流通しているものもあります。
(※)パライバトルマリン:1987年、ブラジル・パライバ州で発見された新種トルマリン(電気石)。鉱山がすぐに閉鎖されたため、幻のトルマリンと呼ばれています。
アパタイトは、カラーの違いによって12種類もの別種が認められています。アパタイトは宝石名であると同時に、これらの鉱物種を総称するグループ名でもあるということです。
先述のマダガスカルで採れるネオンブルー・アパタイトのほかには、どのような例があるのでしょうか。一例を紹介します。
・黄色~爽やかな緑色:アスパラガス・ストーン
・黄色:イエロー・アパタイト
・緑色~深い青緑色: モロキサイト
・グリーン: トリリウマイト(カナダ産) など
希少カラーのアパタイトはコレクター人気が高く、高値で取引されるものもあります。また、内部のインクルージョンが一列に並ぶとカボションカットによりキャッツアイ効果を呈し、「アパタイト・キャッツアイ」として人気があります。
アパタイトという名前は、ギリシア語で「ごまかし・策略」を意味する「apate」からきているそう。結晶の形状もカラーもさまざまで、採掘時に「アクアマリンか?フローライト(蛍石)か?それとも、トルマリンか?」と採掘業者を混同させやすかったから、といわれています。
アパタイトは、鉱物としてはとりわけ珍しいものではありません。しかし、ファセットカットを施してルースになれる個体となると、一気に数を減らします。ぜひTOP STONE オンラインショップで扱うカラーバリエーション豊富なアパタイトをチェックしてみてください。他にはない、しっとりと落ち着いた色合いに魅了されること、間違いありません。
■アンブリゴナイト

解明されていない謎も多い神秘的な石が、アンブリゴナイトです。宝石品質の結晶が少なすぎて、鑑別機関でも発色要因や石種の特定が難しい、といわれるほど。
レアストーン愛好家でも、所有する人はごくごく限られる、そんな「憧れの石」といって良いアンブリゴナイトを紹介します。
英名(カタカナ) | Amblygonite(アンブリゴナイト) |
和名 | アンブリゴ石 |
成分 | (Li,Na)AlPO4F |
結晶系 | 三斜晶系 |
硬度 | 5.5~6 |
屈折率 | 1.57~1.60 |
劈開 | 一方向に完全、一方向に良好 |
色 | 白色、クリーム色、黄色、緑色、薄紫色 など |
産地 | アメリカ、ブラジル、ナミビア、ミャンマー、ドイツ など |
アンブリゴナイトは、希少なリチウム(Li)とナトリウム(Na)、アルミニウムから成るリン酸塩鉱物です。リチウムや燐(リン)の資源鉱物として、広く工業用に利用されています。うつ病の治療薬として、医療用にも大切な資源です。
そんなアンブリゴナイト、本当にごくごくまれに、透明度が高く宝石品質を満たす結晶がとれることがあります。淡い黄色や緑色をした、ファセットカットされたルースは垂涎ものの美しさ。複屈折性(※)が光を倍々に反射し、たとえようもない輝きを放ちます。
(※) 複屈折性:宝石内部に入った光が、2つの光に分かれて進む現象。カルサイト(方解石)が有名。
ただ、宝石品質のルースはあまりにレアすぎるのが難点。流通量も少なく、コレクターにすらほとんど知られていないほどです。ためしに、コレクターが集う大手オークションサイトで探してみてください。結晶標本(採掘された形状のままで流通するもの)はあれど、ルースはほぼ、出品されていません。
ちなみに、アンブリゴナイトは、ごく最近まで、次に紹介するモンテブラサイトと同じ宝石とされていました。両者は、トパーズと同じように成分特製により、「フッ素タイプ(F)/水酸基タイプ(OH)」で分けられています。アンブリゴナイトがFタイプ、モンテブラサイトがOHタイプです。
モンテブラサイトも、ルースになるとたまらない美しさです。続きを、ぜひチェックしてみてください。
■モンテブラサイト

モンテブラサイトは、アンブリゴナイトとほぼ同じ成分・物理的特徴を持つ石です。では違いはというと、その成分性質です。アンブリゴナイトはフッ素タイプ(F)、モンテブラサイトは水酸基タイプ(OH)です。
ルースになるモンテブラサイトは、希少中の希少!クリアな輝きが静謐で上品な雰囲気を醸しだします。
英名(カタカナ) | Montebrasite(モンテブラサイト) |
和名 | モンブラ石/モンテブラ石 |
成分 | (Li,Na)AlPO4OH |
結晶系 | 三斜晶系 |
硬度 | 5.5~6 |
屈折率 | 1.60~1.63 |
劈開 | 一方向に完全、一方向に良好 |
色 | 無色、白色、灰白色、淡ピンク色、黄色、帯緑色、帯青色 など |
産地 | ブラジル、ナミビア、マダガスカル、フランス など |
トパーズの最高峰とされる「インペリアル・トパーズ」がOHタイプに属するように、Fタイプのアンブリゴナイトよりも、OHタイプのモンテブラサイトのほうが宝石としての美しさは上だとされます。
アンブリゴナイトよりも、屈折率がわずかに高いことも、煌めきと美しさに拍車をかけているのでしょう。
<屈折率>
アンブリゴナイト:1.57~1.60
モンテブラサイト:1.60~1.63
とはいえ、この両者は、いまでも鑑別書に名前が併記されます。さらに「色の起源は判定不能」という、これまた稀な鑑別結果が書かれるほど。希産すぎて、まだまだ未解明のことが多い、ミステリアスな石です。
モンテブラサイトは、フランスのモンテブラ採石場で採れたことから、その名がつきました。1カラット未満の小さなルースが多く、大きめのルースは専門店でもめったに入手できません。
■エオスフォライト

エオスフォライトは、サーモンピンク色をしたかわいらしい宝石です。宝石産地として世界的に有名な、ブラジル・ミナスジェライス州のタカラール(Takalar)では、ローズクォーツと共生するとか。サーモンピンク色とバラ色の共演...!想像しただけで心が躍ります。
英名(カタカナ) | Eosphorite(エオスフォライト) |
和名 | 曙光石(しょこうせき)/あけぼの石 |
成分 | MnAl(PO4)(OH)2·H2O |
結晶系 | 直方晶系(斜方晶系) |
硬度 | 5 |
屈折率 | 1.63~1.67 |
劈開 | 不明瞭 |
色 | 淡い茶色、黄金色、茶色、ピンク色、バラ色 など |
産地 | ルワンダ、アルゼンチン、ブラジル、オーストラリア、アフガニスタン など |
魅惑的な色合いのエオスフォライトは、アメリカで発見されました。コネチカット州フェアフィールド郡にある、マイカ鉱山が発見地です。この時の結晶が、夜明けを思わせるとても美しいピンク色をしていたとか。そこから、ギリシャ語で「夜明け・光をもたらす者・暁の明星」という意味を持つ「エオスフォーロス(Heōsphoros)」が連想され、エオスフォライトと名前がつきました。
和名は「曙光石」といいます。曙光とは、夜明けにさす太陽の光のこと。もっとシンプルに、「あけぼの石」と呼ぶ人もいます。白くなってきた山の際が徐々に明るくなり、紫に染まった雲がたなびく、その隙間から指す朝の光、そんなイメージにふさわしいカラーが魅力です。
エオスフォライト独特のサーモンピンクは、マンガン(Mn)によって生まれます。マンガンらしい、ビビッドでいながら優しいピンク色が、得もいわれぬ魅力!
ちなみに、マンガンが鉄(Fe)に置き換わると、別のリン酸塩鉱物「チルドレナイト」になります。
発色が鮮やかなエオスフォライトは希少です。標本になって流通するエオスフォライトの大半は、茶色や淡茶色をしています。
■ベリロナイト

リン酸塩鉱物グループの宝石は、どれをとっても「希少!」「レアストーン!」という解説がつきます。ベリロナイトも、例外ではありません。その希少性は、鉱物図鑑にすらめったに掲載されないほど。ルースになった個体に出会える幸運を、多くのコレクターが渇望しています。
英名(カタカナ) | Beryllonite(ベリロナイト) |
和名 | ベリロナイト |
成分 | NaBePO4 |
結晶系 | 単斜晶系 |
硬度 | 5.5~6 |
屈折率 | 1.522~1.560 |
劈開 | 完全(2方向) |
色 | 無色、白色、淡黄色 など |
産地 | ブラジル、アフガニスタン、アメリカ、パキスタン など |
ベリロナイトは、ナトリウム(Na)とベリリウム(Be)を含むリン酸塩鉱物です。宝石品質を満たす結晶にファセットカットを施すと、雪を思わせる純白からオフホワイトが真珠のように輝きます。
残念ながら、完全な劈開性および、硬度・屈折率の低さから、宝石品質に足ると判断される結晶は多くありません。ただ、透明度が高い結晶に見事なファセットカットを施すと、屈折率の低さを感じさせないきらめきを放ち始めます。カッターの腕が試される宝石だといっても良いでしょう。
また、インクルージョンによってキャッツアイ効果を持つベロリナイトも、報告されています。密なインクルージョンがキャッツアイにシルキーな輝きをまとわせ、天使の羽か天女の羽衣か…といった佇まいです。
ちなみに、ベリロナイトという印象的な名前は、成分にベリリウムを含むことによります。ベリリウムを含む鉱物はベリル(緑柱石)グループに分類されるのが常ですが、ベリロナイトは組成が別。リン酸塩鉱物のメンバーです。
■トリプライト

トリプライトは「三つの願いを叶える石」という伝説がある、ロマンチックな宝石。鮮やかなオレンジ色やオレンジピンク色をしています。
英名(カタカナ) | Triplite(トリプライト) |
和名 | トリプル石 |
成分 | (Mn2+,Fe2+,Mg)2(PO4)(F,OH) |
結晶系 | 単斜晶系 |
硬度 | 5.0~5.5 |
屈折率 | 1.64~1.70 |
劈開 | 良好(3方向) |
色 | 赤色、オレンジ色、サーモンピンク色、赤褐色 など |
産地 | ブラジル、パキスタン、アルゼンチン、アメリカ など |
トリプライトが「三つの願いを叶える」とされるのは、3方向の劈開(※)を持つためです。スパっと気持ちよく割れるさまが、3つの方向に道を切り拓くように見えたのでしょう。その由来から、パワーストーン愛好家にも人気があります。
※ 劈開:鉱物が割れやすい方向。鉱物ごとに特に割れやすい面が決まっている。
カラーが濃く、鮮やかなほど高く評価されます。オレンジ色やオレンジピンクのほか、柔らかな雰囲気をまとったサーモンピンクや、落ち着いた赤褐色も人気です。「鮮やかなオレンジ色の宝石」として知られるウルフェナイトやクリノヒューマイトとともに、コレクションにフレッシュな輝きを加えてくれるでしょう。
トリプライトのオレンジ色は、マンガンに由来します。マンガンの含有率が高いほど、色が鮮やかになるそうです。
トリプライトは、不純物が多い環境で生成します。必然的にインクルージョン(宝石内部に含まれる不純物)が多くなり、透明度の高い個体は多くありません。反対に、トリプライトを内包した他の宝石がみつかるほど、多くの成分が入り混じった環境で育ちます。
ルースに加工されたトリプライトに出会えることは、めったにないチャンス。もし出会えたら、ルースの隅々までじっくりチェックしてみてください。
■ヘルデライト

ヘルデライトは、淡い黄色やミント色が優しい雰囲気を醸し出す宝石です。大半が小さな結晶で産出するため、そもそもファセットカットできる個体が稀。ルース専門店でも、なかなか入手できないレアストーンです。
英名(カタカナ) | Herderite(ヘルデライト) |
和名 | ヘルデル石 |
成分 | CaBePO4(F,OH) |
結晶系 | 単斜晶系 |
硬度 | 5.0~5.5 |
屈折率 | 1.59~1.62 |
比重 | 3.02 |
劈開 | 不明瞭 |
色 | カラーレス、淡黄色、緑がかった白色、ミント色、ピンク色 など |
産地 | ブラジル、アフガニスタン、ロシア、マダガスカル、スペインなど |
ヘルデライトは、カルシウムとベリリウムを含むリン酸塩鉱物です。トパーズやアンブリゴナイト・モンテブラサイトのように、フッ素タイプ(F)と水酸基タイプ(OH)とがあります。市場に流通するヘルデライトの大半はOHタイプといわれますが、トパーズやアンブリゴナイト・モンテブラサイトとは異なり、FかOHかによって品質に大きな違いは生まれません。
産地によってさまざまなカラーを見せるほか、紫外線ライトで蛍光する個体もあります。カラーレスに近い個体のほうが蛍光しやすいといわれ、ライトを照射するとパッとラベンダー色に変わります。
レアストーンコレクターだけでなく、蛍光鉱物が好きな人にも人気がある石です。
また、ヘルデライトは「シナジー12」と呼ばれる、特に強いパワーを持つ石の1つにも数えられています。
■ヴェイリネナイト/ベイリネナイト

ヴェイリネナイトは、「ルースを見かけたら、とりあえず買っておけ」といわれるほど希少な宝石です。鉱物標本の市場ではまれに見かけますが、ルースになれるヴェイリネナイトは極小!透明度の高さと、ネオン感の強いピンク色が印象的な、素晴らしい宝石です。
英名(カタカナ) | Vayrynenite(ヴェイリネナイト/ベイリネナイト) |
和名 | バイリネン石 |
成分 | MnBePO4(OH,F) |
結晶系 | 単斜晶系 |
硬度 | 5.0 |
屈折率 | 1.638~1.667 |
劈開 | 一方向に良好 |
色 | 淡ピンク色、バラ色、サーモンピンク色、薄灰色、茶色 |
産地 | 中国、ロシア、カザフスタン、ポルトガル、アメリカ など |
ヴェイリネナイトがはじめて鉱物学の世界に登場したのは、1954年ごろ。歴史の始まりが紀元前にまでさかのぼる宝石・鉱物の世界では、つい最近あらわれたニューフェイスといったところでしょう。先に紹介したヘルデライトのカルシウム成分が、マンガンに置き換わるとヴェイリネナイトになります。
宝石品質の極上の個体は、パキスタンで見つかります。2006年にアフガニスタンで良質なヴェイリネナイトが発見され、話題になりました。
採掘する労働者も見逃してしまいそうな、数センチ程度の小さなちいさな結晶で見つかることがほとんどで、さらにルースに加工できる部分となると……、ほぼミクロの世界の話になるそう。透明で発色の良いルースは、0.1〜0.2カラットが最大サイズといわれるほどです。
それでも、ネオン感のあるピンク色に魅せられる人は後を絶ちません。「1カラットあたりの市場価格は、ダイヤモンドを上回る」ともいわれ、非常に高い人気を博しています。
■ブラジリアナイト

明るい黄色から黄緑色まで、フレッシュなレモンキャンディのような宝石がブラジリアナイトです。ブラジルで見つかったために、国名を冠した名前がつけられました。タンザナイト・シンハライトとともに、「20世紀に発見された三大宝石のひとつ」とされています。
英名(カタカナ) | Brazilianite(ブラジリアナイト) |
和名 | ブラジル石 |
成分 | NaAl3(PO4)2(OH)4 |
結晶系 | 単斜晶系 |
硬度 | 5.5 |
屈折率 | 1.60~1.62 |
劈開 | 一方向に良好 |
色 | 明るい薄黄緑色、淡黄色、帯緑黄色 |
産地 | ブラジル、アメリカ、カナダ |
ブラジリアナイトは1945年に新種認定された、まだ歴史の浅い宝石です。
そのカラーは、レモンイエローやライムイエローと表現されます。ルースの世界で人気の色で、クリソベリルやトパーズ、アパタイトとも間違えられることも。発見されたときも「クリソベリルでは」と誤認された歴史があります。
お求めの際はブラジリアナイトと指名し、鑑別書がついたものを入手しましょう。
硬度が低い石種が多いリン酸塩鉱物の中で、5.5という硬度は最高レベル。透明度が高く、宝石品質を満たす個体はルースに加工され、コレクター向けに販売されます。ただ、劈開による脆さも併せ持つ石です。
ただでさえ大きな結晶が採れないブラジリアナイトを、さらにルースに切り出すのは至難のわざ。市場に流通する量が多くないのは、そんなブラジリアナイトの特性によります。
■ラズライト

「ラズライト」という名前の宝石は、実は2つあります。ここで紹介するリン酸塩鉱物のラズライト(天藍石)と、ラピスラズリの主成分であるケイ酸塩鉱物のラズライト(青金石)です。
和名を見れば区別できますが、カタカナ表記だと同音になるのが悩ましいところ。英名のスペルがわずかに異なるために、起きた事象です。
・天藍石:Lazulite
・青金石:Lazurite
スペル中のLとRが異なりますね。本記事ではリン酸塩鉱物のラズライトを紹介します。青金石のラズライトについては「ラピスラズリ」の記事をご覧ください。
英名(カタカナ) | Lazulite(ラズライト) |
和名 | 天藍石(てんらんせき) |
成分 | (Mg,Fe)Al2(PO4)2(OH)2 |
結晶系 | 単斜晶系 |
硬度 | 5.5 - 6.0 |
屈折率 | 1.64 |
劈開 | 一方向に明瞭 |
色 | 淡青色~深青色 |
産地 | ロシア、カナダ、ブラジル など |
ラズライトは、天藍石の和名にある「藍」の文字に違わない、深い青色、インディゴブルーが印象的な石です。真夏の海に映る白雲のように、白い斑模様が入った個体もあります。透明度が高い結晶はめったにとれず、多くは鉱物標本としてコレクター向けに流通しています。
その青さが、ラズライトの名前の由来にもなりました。ドイツ語で「青い石」を意味する「Lazurstein」からきた、あるいは「天上」という意味のアラビア語からきたといわれています。
希少な宝石品質の個体をルースにし、光を当てると、深く吸い込まれそうな青さに目を奪われることでしょう。サファイアといわれても、納得してしまいそうな佇まい。良質な結晶の産地は、カナダが有名です。
3. 奥深さにハマるかも!リン酸塩鉱物にまつわる話
希少な石種が目白押しのリン酸塩鉱物。それにしてもリン酸塩鉱物グループの石種は、なぜ軒並みレアストーンになるのでしょうか。
ここからはリン酸塩鉱物が希少な理由や、リンにまつわるよもやま話を紹介します。
■リン酸塩鉱物が希少な理由

リン酸塩鉱物は、リン(P)を含みます。リン酸塩鉱物が希少になるのは、まさにこのリンが理由。リンは地球上で偏在性が強い元素、つまり「ある場所にはあるが、ない場所にはない」からです。
現在、確認されているリンの鉱床の位置は、次のとおりです。
・陸地:中国の雲南省・貴州省・四川省・湖南省・湖北省
・海洋:メキシコやコンゴ、南米付近
どうでしょうか。一極集中の様相が見えるのではないでしょうか。
地球の地殻(地球のもっとも表面を構成する層)を構成する元素のうち、酸素(O)に次いで多いケイ素(S)を主成分とするケイ酸塩鉱物が、世界中のどこにでもあるといわれるのとは対極的。
つまり、リン酸塩鉱物が生まれるためには、鉱物が生成するタイミングで、付近にリンがなければならないのです。
鉱物の成績には、成分をはじめさまざまな要素が複雑にからみあいます。偏在性の強いリンを、ベストタイミングで運よく取り込めた個体だけが、リン酸塩鉱物になれるということですね。これが、リン酸塩鉱物に希少種が多い理由です。
■リンは私たちの生活・身体に欠かせない元素

リンは、私たちの生活・身体にも欠かせない元素だということはご存じでしょうか。
植物・作物が健やかに生育するには、十分な日光と水、そして肥料が必要です。3大肥料と呼ばれる重要な成分が、「窒素・リン酸・カリ」。リンは、農業用肥料として欠かせない成分です。
化学肥料がつくられる前、人々は自然の産物のなかからリンを集め、農業に利用していました。とくに良質なリンを豊富に含む鳥の糞は、争奪戦さながら。南米のインカ帝国では、鳥の糞をめぐるヨーロッパ人の争い「グアノラッシュ」が起きたほどです。
鳥の糞を巡る戦争。
狂気のように聞こえますか?いいえ、当時の人は真剣でした。それほど、リンは重要だったのです。
ちなみに、私たち人間が生きるためにも、リンは大切です。リンは、カルシウムやマグネシウムと結合して骨・歯をつくる成分になり、また筋肉や脳、神経の正しい働きをサポートします。
肥料として土壌にまかれたリンを作物が吸収し、その作物を食べて人間は健康を維持しているというわけです。
今後、150〜550年程度で採掘可能なリンは掘りつくされるとか。リン不足から、第二・第三のグアノラッシュが起きないことを願うばかりです。
【豆知識:リンが使われている身近な製品】
リンは、赤リン・黒リン・白リンなど、さまざまな色があります。これは、リンの性質の微妙な違い(同素体)によるもの。
安定性が高く、人間の生活によく利用されるリンは赤リンです。マッチの先端には、赤い赤い発火材がついていますよね。あれが、赤リンです。
黒リンは製造が難しい上に、あまり用途がないそうで、ほとんどつくられないとか。白リンの主要な用途は、残念ながら戦場です。よく燃える性質を利用し、大砲や迫撃砲に充填されます。
リンは、「物質は、使い方一つで命運が変わる」、そんな使い手の責任を考えるきっかけになるかもしれません。
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4. まとめ
「宝石の国」で主人公として活躍するフォスフォフィライトは、実在する宝石です。淡い緑色、ミント色をした美しくも脆い性質は、宝石の国のフォスフォフィライトさながら。もし、手元に迎えられるチャンスがあれば、ケースに入れて大切に保管することをおすすめします。
また、記事ではフォスフォフィライトが属するリン酸塩鉱物グループの、魅力的な鉱物種も紹介しました。色も特徴も個性的な面々、お気に入りの1つは見つかったでしょうか。
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この記事を書いた人

みゆな
TOP STOneRY / 編集部ライター
トップストーン編集部がお届けする「トップストーリー」メディアでは、古くから愛されている誕生石の歴史やエピソード、最新のレアストーンの特徴、宝石の楽しみ方をわかりやすく解説しています。「天然石の魅力をもっと多くの方に知ってもらいたい」という想いで、個性溢れるライターが情報発信しています。