幻の宝石ポルサイト:セシウムを秘める希少鉱物の価値や特徴、逸話までを解説

「筋金入りのコレクターに好まれる石」と聞くと、興味を掻き立てられませんか?一般の知名度は高くなくとも、鉱物収集の上級者がコツコツと標本を集めてきた石、それが「ポルサイト」です。
ポルサイトは産出量が少なく、小さな塊状の集合体で発見されることが多い希少石です。ルースに加工されることがほとんどありません。しかし、一度ルースになったポルサイトを見れば、虜になること間違いなしでしょう。
透明度が高いポルサイトのルースは、独特の照りもあいまって、見る人を惹きつけます。
今回はポルサイトを、宝石・ルースの観点から、そして鉱物的観点から詳しく解説します。
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1. 宝石・ルースとしてのポルサイト

ポルサイトはそもそも、宝石品質の原石が珍しい石です。ルースカットに適した結晶状での産出も少なく、「ルースになれた」という事実だけで価値があります。
滅多に見かける機会がない宝石・ルースになったポルサイトについて、美しさや特徴を見てみましょう。
■トップクオリティのポルサイトとは

ポルサイトは劈開がなく、硬度は6.5〜7。複雑なファセットカットにも、十分耐える強さを持っています。
カットされたルースの透明度が高ければ「ロッククリスタル?」「ダンビュライト?」「それともゴッシェナイト?」と見紛うほどの輝きを放ちます。
ガラス光沢、あるいはトロッとした油脂光沢を持つのも、ポルサイトの特徴です。
白濁した個体が多いため、透明度の高い個体は価値が上がります。またほとんどが小さな原石で産出するポルサイトは、カラットが大きいほど評価されます。
以前は1カラットを超える大きさのポルサイトは、ほとんど見られませんでした。近年は産地が広がり、やや大きめの個体も見つかるようになっています。
それでも5カラットを超えるものは、滅多に流通していません。
カラーは、一般的に無色か白色です。稀にピンクやパープル、ブルーを呈する個体も見つかります。
GIAが所蔵するコレクションには、淡いピンク色をした2.69カラットのポルサイトもあります。
■ポルサイトの魅力
カラーレスの石が好きな人は、ぜひともチェックしたいポルサイト。希少石ゆえの楽しみ方が「インクルージョンに注目する」です。
インクルージョンは「不純物」ともいわれ、一般敵には宝石の評価を下げる要因となります。
しかし存在自体が希少な宝石では、インクルージョンも「個性」として楽しむ人も少なくありません。
インクルージョンは、結晶が成長する過程で取り込まれた他の物質です。形状や色もさまざまで、その宝石の唯一無二の個性となってくれます。
ポルサイトは、ふわっとした霞状や羽状のインクルージョンを持つものがあります。透明なルースに浮かぶ白いインクルージョンがキラキラと光を反射し、独特の味わいを醸し出します。
インクルージョンは天然の宝石のみが持つ、結晶の成長の証です。ネガティブに捉えるのではなく、宝石が地中で過ごした長い時に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
■ポルサイトにまつわる逸話
ポルサイトは逸話に事欠かない石です。ポルサイトにまつわるさまざまなストーリーを紐解いてみましょう。
ポルサイトの名前の由来
ポルサイトは1846年、イタリア・エルバ島で見つかりました。発見者はドイツの鉱物学者アウグスト・ブライトハウプト(August Breithaupt)です。
ポルサイトの「ポル」は、ふたご座の1等星「ポルックス(Pollux)」にちなんでいます。ポルックスはもうひとつのよく目立つ星「カストル(Castor)」とともに、ふたご座兄弟の頭部分に見立てられています。
ふたご座の星になぞらえた名前が付けられたのは、ポルサイトが別の石「カストライト(Castorite)」とともに見つかることが多かったためです。
まるでふたごのように、いつも一緒に見つかることから、ブライトハウプトはそれぞれの石にふたご座の2大巨星にちなんだ名前が付けられました。
ただし、カストライトはブライトハウプトの発見に先立つ1800年に、ブラジルの博物学者ジョゼ・ボニファチオ・デ・アンドラダ(José Bonifácio de Andrada)が発見した「ペタライト」と同一種でした。
そのため、現在はカストライトではなく、ペタライトと呼ばれています。
ちなみにポルサイトを発見したブライトハウプトは、47種もの鉱物を発見しています。コキンバイト(コキンボ石 ・Coquimbite)やマイクロクリン(微斜長石・Microcline)、アンブリゴナイト(アンブリゴ石・Amblygonite)、オリゴクレース(灰曹長石・Oligoclase)は、すべてブライトハウプトが命名しました。
ギリシャ神話のカストルとポルックスの話

凍てつく冬の夜、東から南の空に雄大に浮かぶオリオン座。オリオン座でもっとも目立つ赤い星「ベテルギウス」の左に、同じくらいの明るさの星が並んでいます。
それが、ふたご座です。
やや暗い星が兄のカストル、明るい星が弟のポルックスです。二人はオリオン座に向かって、足を伸ばしています。
ギリシャ神話における二人は「悲劇の双子」ともいえる存在です。ギリシャ神話を、しばし見ていきましょう。
カストルは人間の子、ポルックスは神(ゼウス)の子として生まれました。そしてこの生まれが、二人の運命を分けることとなります。
勇ましく成長した双子は、戦の場で大活躍!ただ、人間の子のカストルは敵に殺されてしまいます。一方、神の子であるポルックスは死にません。
ポルックスは運命を嘆き、兄カストルを生き返らせてくれるようゼウスに頼みます。「自分の命と引き換えにしても」とまで言うポルックスに心動かされたゼウスは、双子を天に上げて星にしました。それがふたご座のはじまりといわれています。
ポルサイトの発見地・エルバ島とは

歴史が好きな人なら、エルバ島と聞いてピンときたのではないでしょうか。
エルバ島は、かの皇帝ナポレオンが1814年に追放された場所です。ナポレオンはエルバ島で299日間を過ごしました。
ナポレオンが住んでいた邸宅や別荘は博物館となっており、見学もできます。
エルバ島はイタリア半島とコルシカ島の間に位置します。かつて、ため息がもれそうなジェムクオリティのトルマリン(電気石)を産出しました。
緑や黄色、茶色、青色など、豊かなトルマリンの色合いは、鉱物愛好家の熱いまなざしを集めました。
あまりの美しさに、宝石質のトルマリンを「エルバイト(エルバ石)」と呼ぶようになったほどです。
またエルバ島は、良質な鉄鉱石の産地でもあります。虹色のヘマタイト(褐鉄鉱)やパイライト(黄鉄鉱)を求めて訪れるコレクターもいるそうです。
■ポルサイトの産地

ポルサイトの主要な産地は、アフガニスタンやイタリア、カナダなどです。
小さな結晶で産出することが多いポルサイトですが、アフガニスタンのカムデシュでは直径60センチほどの大きな結晶が発見されました。
カナダも、ポルサイトの産地として有名です。世界のポルサイトのうち約82%が、カナダ・マニトバ州のバーニック湖周辺に埋蔵していると考えられています。
日本でも発見された記録があります。福岡県長垂や茨城県妙見山のリチウム・ペグマタイトで、塊状の原石が見つかったそうです。
2. 鉱物・原石としてのポルサイト

Rob Lavinsky, iRocks.com – CC-BY-SA-3.0, CC 表示-継承 3.0,
https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=10155735による
ここからはポルサイトを、鉱物・原石の観点から深く見ていきましょう。
アルカリ金属「セシウム(Cs)」を含むという特徴も、ポルサイトの希少性に拍車をかけています。
ますます興味が募るポルサイト、続きをご覧ください。
■組成について
ポルサイトの組成情報は、以下のとおりです。
英名(カタカナ) | Pollucite(ポルサイト) |
和名 | ポルクス石、ポルックス石 |
成分 | Cs(AlSi2)O6・nH2O (水和アルミノケイ酸セシウム) |
結晶系 | 立方晶系(等軸晶系) |
硬度 | 6..5~7 |
屈折率 | 1.51~1.53 |
劈開 | なし |
色 | カラーレス、白色、帯ピンク色、帯青色、帯紫色 |
産地 | アフガニスタン、アメリカ、カナダ、イタリア、ロシア、イタリア、フィンランド、ナミビア、マダガスカル、パキスタン など |
■原石の形状
ポルサイトは、リチウムに富んだ花崗岩ペグマタイト中に産出します。白色で表面が溶けた塊状で見つかることが多く、美しい結晶系は成しません。氷砂糖のイメージに近いかもしれませんね。
ポルサイトはリチア雲母やリチア電気石、スポジュメン、クォーツ(石英)などを伴って産出します。
クォーツと肉眼での区別が難しい物も多く、昔は混同されていたこともあるようです。
多くは無色〜白色ですが、淡いピンク色を帯びる原石もあります。これは内包する、モンモリロナイト(モンモリロン石・montmorillonite)が影響していると考えられています。
■鉱物視点から見るポルサイト
ポルサイトを鉱物視点から深めていきます。ポルサイトが属するゼオライト(沸石)グループについて、またポルサイトを語る上で欠かせないセシウムに関してまとめました。
ポルサイトはゼオライト(沸石)グループ

ポルサイトは、ゼオライト(沸石)グループの一員です。
ゼオライトはSiO₄およびAlO₄を基本構造とし、水やカリウム(K)、カルシウム(Ca)、ナトリウム(Na)を含みます。50種類以上の鉱物が属する、一大グループです。
結晶を加熱すると、内部の水分が放出され沸騰しているように見える点もゼオライトの特徴です。沸石という名前も、この特徴からついています。
ちなみにゼオライトは親水性が高く、乾燥剤として利用されています。製造工場の脱水工程や食洗機の乾燥工程にも使われるほどです。
多孔質で保水力がある特性を活かし、土壌改良剤や住宅の調質材にもつかわれるなど、実は私たちに身近な存在です。
ポルサイトとセシウム
ポルサイトは、セシウム(Cs)を豊富に含む鉱物として、工業的にも重視されています。
セシウムはアルカリ金属元素の1つで、フランシウム(Fr)を除くと、地球でもっとも存在量が少ないアルカリ金属元素です。
さてこのセシウム、とても興味深い性質を持っています。それは、融点がわずか28.5℃ということ。夏の屋外では溶けだしてしまうほどの融点の低さです。
室温ではなんとか固体を維持しますが、その柔らかさゆえにモース硬度はたったの0.2です(2ではありません、0.2です)。
ちなみに沸点は705℃。ただし非常に反応性が高く、空気中に放置するとどんどん酸化します。
セシウムは光電管(光の強弱を電流の変化にかえる機械)や、ストロボ放電管(陽極と陰極との間で放電を起こす電子管)などに使われています。いずれもセシウムの「光があたると電子を放出しやすい性質」を利用しています。
また触媒の機能を向上させたり、光学ガラスの材料となったり、あるいは放射線計測や医療診断につかわれたりと、さまざまな用途に欠かせない材料です。
【豆知識】セシウム=放射性物質
セシウムと聞くと、放射性物質では?と心配する人もいるかもしれません。
たしかにセシウムは、放射性物質の一つです。
ただし、放射性物質に分類されるセシウムは「セシウム137」と呼ばれる、核分裂により人工的につくられたセシウムです。
ポルサイトをはじめとする鉱物に含まれるセシウムは、天然です。天然のセシウムは放射性を持たず、手元に置いておいても何の心配もありません。
人為的につくられたセシウム137を水熱合成してポルサイトに変化させると、安全性にもコストにも優れた貯蔵方法となるとする研究結果もあります。
3. ポルサイトをより楽しむために
レアストーンのポルサイトも、近年は産地が増えたこともあり、比較的手に入れやすくなっています。
ポルサイトをもっと身近に、気軽に楽しむヒントを紹介します。
■ポルサイトの石言葉
ポルサイトはヒーリング効果が高い石として、パワーストーン愛好家からも注目されています。マイナス要素を取り込み、持つ人を苦悩から解放してくれる効果があるそうです。
過去のネガティブな思い出から解放されたい人や、人生のお守りが欲しい人は、ポルサイトをチェックしてみてはいかがでしょうか。
石言葉はとくにありませんが、乙女座・蠍座・水瓶座の守護石とする向きもあります。
■ポルサイトの加工について
ポルサイトはその希少性から、ビーズやアクセサリーにはほとんど加工されません。ルース、あるいは鉱物標本として、コレクター向けに流通しています。
塊状の原石は、他にはない独特の味わいを持っています。凍てつく冬の朝に見つけた氷の塊や氷砂糖を思わせる白い原石も、淡いピンク色を帯びた優しい印象の原石も、どちらも素敵です。
自然の力強さを思わせる存在感を、手元に置いてみてはいかがでしょうか。
ポルサイトのルースは、ルース専門店で見つかります。TOP STONE のオンラインショップでも限定数ですが取り扱いがありますので、興味のある方はぜひチェックしてみてください。
またカラーレスのポルサイトルースは、クォーツやジルコンなど、他のルースと混同される可能性があります。
本物を手に入れるには、鑑別書のついたポルサイトを探しましょう。鑑別書に「鉱物種名:天然ポルサイト、宝石名:ポルサイト」と記載されていれば、本物です。
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トップストーンは、国内最大級の天然石輸入卸問屋「株式会社ウイロー」が運営するルース専門の通販サイトです。世界中から買い付けたレアストーン、誕生石を販売しております。パライバトルマリン、タンザナイト、サファイアなどの宝石、ルースなど。豊富な品揃えから、天然石やパワーストーン、カラーストーンをお選び頂けます。
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株式会社ウイローでは、40,000点以上の石を、鉱物・原石から宝石、ルースまで取り扱っております。また、弊社独自の調査により、入手難易度レベルを作成。入手困難な希少な天然石もトップストーンならば仕入れ可能です。
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弊社で扱っている宝石、ルース(天然石)の数々は、商品名には流通名または宝石名を記載して販売しております。中立の立場である第3者鑑別機関に鑑別しているため、安心してご購入いただけます。
※TOPSTONEでは、鑑別・ソーティングを概ねA.G.L加盟の鑑別機関にお願いしております
▼鑑別・ソーティングについては以下ページにて詳細をご確認いただけます
4. まとめ
ポルサイトは、通好みのカラーレスの宝石です。屈折率は高くなく、煌めくようなファイアはありません。しかしガラス光沢、ときに油脂光沢を思わせる独特の照りがファセットカットを際立たせます。
希少性が高く、高品質なルースはかなりの高値で取引される場合もあります。透明度が高く美しいポルサイトを見つけたら、ぜひじっくり堪能してみてください。
鉱物好きの人には標本での収集もおすすめです。明瞭な結晶形ではない原石は、コレクションの中で個性的な存在感を放ってくれるでしょう。
希少石・ポルサイトは、ルース専門店などで探せます。品質の良いルースに出会うためにも信頼できる専門店をチェックしてみてください。また、通年を通して各地で開催される天然石の展示即売会やミネラルショーなどでも探してみると良いかもしれません。
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この記事を書いた人

みゆな
TOP STOneRY / 編集部ライター
トップストーン編集部がお届けする「トップストーリー」メディアでは、古くから愛されている誕生石の歴史やエピソード、最新のレアストーンの特徴、宝石の楽しみ方をわかりやすく解説しています。「天然石の魅力をもっと多くの方に知ってもらいたい」という想いで、個性溢れるライターが情報発信しています。