遊色効果が見られるかも?流通量の少ないリューサイトを詳しく解説

リューサイトは、コレクターでも滅多に手にできないレアな宝石です。イタリアの火山周辺が主な産地ですが、宝石品質の個体はごくごくわずか。
さらに
遊色効果
オパールなどにみられる、光の干渉で浮かぶ虹色の揺らぎ。
詳しい解説はこちら
を持つルースも稀に見つかるとあって、収集家ならずとも一度は見てみたい宝石といわれます。
今回はかの文豪・ゲーテも目を留めたリューサイトを、宝石・ルースの面から、歴史の面から、そして鉱物・原石の面から詳しく解説します。
ワックスのような独特の輝きを放つリューサイトを、この機会に深めていきましょう。
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1. 宝石・ルースとしてのリューサイト

リューサイト自体は、産出量も多く珍しい鉱物ではありません。ところが大半のリューサイトはルース品質になれないとなると、話が変わります。
ルースに加工される透明度の高いリューサイトは非常に希少で、コレクターですらなかなか手に入れられません。
はじめに、宝石・ルースとしての品質を持ったリューサイトについて見ていきましょう。
■高品質なリューサイトとは

ジェムクオリティのリューサイトは、以下の4つの要素で決まります。
- 透明度
- インクルージョン
- クラック
- カラット
リューサイトのカラーは無色~白色です。チタンや鉄、マグネシウムなどの不純物の影響で、わずかに黄色や赤みを帯びるものもあります。
白濁しやすいため、透明度が高いほど高品質とされます。
またカットしたてのリューサイトは、透明なガラス質の輝きを持っています。ただ風化しやすく、時間の経過とともにワックス状から鈍い輝きに変化します。
この輝きの変化は、リューサイトの自然な状態です。手元に置き、一緒に歩んだ時間による輝きの変化を味わえるのも、リューサイトの魅力の一つでしょう。
インクルージョンやクラックといった、輝きを阻害する要因が少ない個体ほど高評価です。
【豆知識】
リューサイトは、結晶が大きくなるほどインクルージョンが含まれやすくなります。
リューサイトには、以下のインクルージョンがよく含まれます。
- アパタイト
- 輝石
- マグネサイト
- カンラン石
- スピネル
- 天然ガラス
リューサイトは結晶があまり大きく成長しません。12cmほどの結晶があれば「最大級」といわれるほどです。
ほとんどのリューサイトは1カラット前後で流通し、3カラットを超える個体は稀です。
…と、ここまでトップクオリティの説明をしましたが、兎にも角にもルースに加工されたリューサイトはそれだけで本当に希少です。
もし見かけたら、その時が一期一会!ぜひその目で確かめてみてください。
■遊色効果を魅せるリューサイト
ルースになれるリューサイトも全体のごく一部ですが、実はさらに希少なリューサイトがあります。
それが、遊色効果を持つリューサイトです。
用語解説 : 遊色効果とは
宝石内部で結晶構造が層状になった部分に入射した光が干渉し、宝石表面に虹色に輝く色彩を浮かび上がらせる現象です。プレイ・オブ・カラー(Play of Color)と呼ぶこともあります。
遊色効果といえば、オパールが有名ですね。実はオパール以外の宝石で遊色効果を持つものは、非常に珍しいのです。
遊色効果についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
■リューサイトの別名
リューサイトは、いくつもの別名を持ちます。国内では馴染みのない名前もありますが、5つの別名を紹介します。
- アンフィジーン
- グレナタイト
- ロイコリス
- Oeil de perdrix(フランス語で「ヤマウズラの目」)
- ホワイトガーネット
最後の「ホワイトガーネット」という名前には注意してください。この名前はリューサイトの結晶がガーネットによく似ていることからついたと考えられます。
しかしリューサイトとガーネットは、まったく別の宝石です。またリューサイトは鉱物名であり、宝石名でもある、正式な名前です。
■リューサイトにまつわる逸話
リューサイトという英名は、ギリシア語の「leukos(λευκος・艶消しの白)」に由来します。名付け親はドイツの地質学者であったエイブラハム・ゴットロブ・ウェルナー(AG Werner)です。
ちなみにウェルナーは「ドイツ地質学の父」と呼ばれる人物で、地球の地殻は5つの層に分けられるとの理論を打ち出し、現代の地質学につながる礎を築きました。
彼はフライベルク鉱業大学の前身であるフライベルク鉱業アカデミーで教師として働いていました。
古代ギリシアの偉大な哲学者・ソクラテスを彷彿とさせる対話形式の講義が人気で、後に続く多くの鉱物学者を育てています。
大英博物館についで多いとされる74,000以上もの動物学・地質学コレクションを所有したエディンバラ大学教授のロバート・ジェイムソン(Robert Jameson)や、バナジウムの発見者であるアンドレス・マヌエル・デル・リオ(Andrés Manuel del Río)も、ヴェルナーの弟子でした。
さて、リューサイトの和名は白榴石(はくりゅうせき)といいます。「榴」の漢字から、柘榴石(ガーネット)を連想した人もいるのではないでしょうか。
白榴石の名前は、この石が「形はガーネットに似ているが、色が白い」ことから付けられています。
■リューサイトの産地

リューサイトの最大の産地は、イタリアです。
とりわけ有名な産地は、ベスビオス火山(Il monte Vesuvio)周辺でしょう。ベスビオス火山は、「美食の都」として有名なナポリから東に9kmほど行ったナポリ湾岸にあります。
ベスビオス火山で採掘される火山岩には、大概リューサイトが含まれます。ただしそのほとんどは白濁しており、ジェムクオリティのものはほぼ採れません。
かの『ファウスト』を著したドイツの詩人・ゲーテ(Johann Wolfgang von Goethe・1749 - 1832年)も、ベスビオス火山を訪れた折りに、リューサイトに言及したといわれています。
ゲーテは自然科学にも造詣が深く、ベスビオス火山周辺の地形に「ガーネット(柘榴石)に似た白い鉱物があること」に気づいたそうです。
リューサイトはそれほど昔から、イタリアではなじみ深い鉱物だったことがわかります。
ただゲーテはリューサイトを、ガーネットとははっきり区別していたようです。さすがゲーテ、面目躍如といったところでしょうか。
ちなみに「ベスビオス火山」は、世界史の教科書にも登場します。古来噴火を繰り返した火山で、紀元79年の大噴火がポンペイの町を埋めた出来事は、あまりに有名です。
ベスビオス火山は、現在は噴火していません。最も近年に活動が活発化したのは、1631~1994年でした。
ゲーテがベスビオス火山を訪れたのも、このタイミングです。
この時ゲーテは登山ケーブルカーを利用したようです。残念ながらケーブルカーは、後の噴火で溶岩の下となりました。
多くの人が一度は口ずさんだことがあるであろう有名な歌『フニクリ・フニクラ(Funiculì funiculà)』は、このケーブルカーを題材につくられました。
2. 鉱物・原石としてのリューサイト

ここからはリューサイトを鉱物・原石の観点から深めていきます。化学的な解説も登場しますが、できるだけわかりやすく記述しました。
ぜひ続けてお付き合いください。
■組成について
リューサイトの組成情報は、以下のとおりです。
英名(カタカナ) | Leucite(リューサイト) |
和名 | 白榴石(はくりゅうせき) |
成分 | KAlSi2O6 |
結晶系 | 正方晶系 |
硬度 | 5.5~6 |
屈折率 | 1.50~1.51 |
劈開 | 不明瞭 |
色 | 無色、白色 |
産地 | イタリア、アメリカ、フランス、ドイツ、オーストラリア など |
リューサイトはカリウム(K)を含みます。
カリウムは植物の根の発達を促し、茎や葉を丈夫に育てます。根っこに効き目がある優秀な肥料として、農家さんや園芸家さんにはお馴染みの肥料です。
リューサイトが豊富に産出するイタリアでは、リューサイトを砕いて天然の肥料としても使うそうです。
■原石の形状
リューサイトの結晶は整った24面体(イシコテ四面体)をしています。低温環境下では正方晶系になり、625℃以上では疑立方晶系(等軸晶系)に転移することがわかっています。
台形や粒状、双晶になる個体もあります。
非常に興味深いことに、リューサイトはもっともメジャーな鉱物の一つである石英(クォーツ)とは共生しないといわれています。
これは結晶が析出する温度が関係しているのではないか、と考えられています。石英は一般的におよそ1000℃以下の環境で析出します。
一方、リューサイトは高温環境下でなければ析出しません。リューサイトが生成する温度は、およそ1200℃以上が目安です。ちなみにリューサイトは低温環境だと粘土に置き換わってしまうことがわかっています。
またリューサイトが産出する地域は、カリウムに富みつつ、ケイ酸が少ない地域です。地殻の生成成分の違いも、石英とリューサイトが共生しない要因の一つではないでしょうか。
■鉱物としてのリューサイト

現在、リューサイトはゼオライト(沸石)グループに分類されています。
ゼオライトは、50種類以上の鉱物が属する一大グループです。SiO₄およびAlO₄で構成された基本構造に水やカリウム(K)、カルシウム(Ca)、ナトリウム(Na)が入っています。
ゼオライトは結晶構造に水を含みます。そのため、結晶を加熱すると内部の水分が放出され、まるで沸騰しているように見えるという特徴があります。
和名の「沸石」は、この特徴から名づけられました。
ちなみに「Zeolite」という英名も、沸騰するという意味のギリシア語から来ています。
さてリューサイトに話を戻しましょう。
現在はゼオライトグループに分類されているリューサイトですが、しばらく前まではカリ長石(KAlSi₃O₈)に分類されていました。
カリ長石とはカリウムに富んだアルカリ長石で、サニディン(波瑠長石)やオーソクレース(正長石)、マイクロクイン(微斜長石)などがあります。
カリ長石(KAlSi₃O₈)からSiO₂が抜けると、リューサイト(KAlSi₂O₆)になります。このことからカリ長石に分類されていたようですが、ここで見直しが入りました。
「リューサイトの成分は、むしろ方沸石(NaAlSi₂O₆・H₂O)に似ているのではないか」と。
こうしたいきさつがあり、現在リューサイトはゼオライトグループに分類されるようになったようです。
【豆知識】
ゼオライトグループに分類されたものの、リューサイトは以下のゼオライト特有の性質は持っていません。
◎ イオン交換能
ゼオライト中の陽イオンは、比較的自由に結晶細孔内を移動できます。水の中で可逆的なイオン交換が発生します。
◎ 沸石水の含有
沸石水とは脱水と吸湿を繰り返す水分です。沸石は、他の鉱物より多くの沸石水を含有しています。
【豆知識】
学校で理科の実験をしたとき、「沸騰石」を使った記憶がありませんか?
突沸(急な沸騰)を防ぐために、液体にあらかじめ入れておく、小さな石です。「沸騰石を入れる目的は、突沸を防ぐため」と、テスト前に暗記した記憶がある人も多いのではないでしょうか。
この沸騰石、名前は沸石と似ていますが、別物です。
沸騰石は多孔質の物体です。細かくたくさん空いた穴が水中で空気を保持し、急激な沸騰を防ぎます。沸騰石としてよく使われるのは気泡を混ぜ込んだガラスや砕いた素焼きの粒です。
沸石と沸騰石、似て非なる2つの石。面白いですね。
3. リューサイトをより楽しむために
ジェムクオリティのリューサイトはとても希少で、そのほとんどがルースのままコレクターの手元にわたります。
しかしよく探すと、比較的お手頃な価格で入手できるリューサイトに出会える可能性もあります。
ここからはリューサイトをもっと身近に、気軽に楽しむヒントをお届けします。
■リューサイトの石言葉
リューサイトは明晰さや浄化、精神的な上昇を象徴する石として、パワートーン愛好家から注目されています。
とくに女性におすすめの石とされ、心身のバランスを整えて縁を結ぶパワーを持つとされます。
たしかに、リューサイトの柔らかな輝きはやさしさに満ちています。人と良好な人間関係を築きたい人は、リューサイトを身に付けてみてはいかがでしょうか。
■リューサイトの加工について
リューサイトは、私たちの生活に欠かせないセラミックの重要な原料です。
身近でリューサイトがつかわれているところといえば、歯科でしょうか。歯の修復用素材として、ブリッジやクラウンなどに使われています。
ちなみに歯科で使われるリューサイトは、強化されたセラミック状です。熱と圧力への耐性を高めてあるため、簡単には破損しません。
「リューサイトは硬度が高くないのに」と心配しなくても大丈夫です。
■リューサイトのお手入れ
リューサイトは変質しやすく、脆い性質を持っています。柔らかいブラシと中性洗剤を溶かしたぬるま湯を用意し、丁寧に汚れを拭いましょう。
他の宝石や鉱物と離して、単体でケースに保管します。
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4. まとめ
リューサイトは和名を白榴石といい、無色~白色の宝石です。産出量自体は少なくないのですが、宝石品質の個体がほとんど採れず希少石として扱われます。
稀に遊色効果を持つ個体もあり、その価値は計り知れません。
希少さと脆さから、日常使いより収集家向けの石だといえます。ミネラルショーやルース専門店で見かけたら、ぜひチェックしてみてください。
希少なリューサイトに出会えるチャンスは、一期一会です。
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この記事を書いた人

みゆな
TOP STOneRY / 編集部ライター
トップストーン編集部がお届けする「トップストーリー」メディアでは、古くから愛されている誕生石の歴史やエピソード、最新のレアストーンの特徴、宝石の楽しみ方をわかりやすく解説しています。「天然石の魅力をもっと多くの方に知ってもらいたい」という想いで、個性溢れるライターが情報発信しています。