息吹く緑を映し出すグリーン ツァボライトについて解説

熟れる柘榴の実や燃える炎になぞらえ、名前をつけられたガーネット。その鮮烈な色で、聖書の時代から赤色の宝石の代表格として重宝されてきました。
そのガーネットにグリーンカラーが発見されたのは、19世紀半ば。はじめロシアで愛されたグリーンガーネットは、遠く離れたツァボの地でも発見され、その地名を冠したツァボライトという名前で、今日緑色の宝石の代表格として広く愛されています。
その魅力やデマントイドガーネットとの違いについてご紹介します。
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1.宝石・ルースとしてのツァボライト

グリーンの貴石の代表といえば、宝石の女王エメラルド。
しかしその美しさに迫り、勝るとも劣らぬ美しさを放つのがツァボライトです。
その宝石としての魅力を解説します。
■絢爛たるガーネット一族

ガーネットはその成分によって様々な種類に分かれています。
基本はレッドとグリーンに分かれる2つの大きなグループがあり、その中で更に3タイプに分かれています。
レッド系統をパイラルスパイトグループと呼び、アルマンディン、パイロープ、スペサルティンガーネットに分かれます。パイラルスパイトグループはアルミニウムを豊富に含むグループです。
グリーン系統をウグランダイトグループと呼び、ウバロバイト、グロッシュラー、アンドラダイトガーネットに分かれます。ウグランダイトグループはカルシウムを豊富に含むグループです。
パイラルスパイトグループ、ウグランダイトグループそれぞれの端成分が混ざり合い、固溶体を作ることで一味違った美しいガーネットが晶出します。
詳しくは、ガーネットの記事で解説していますので、ぜひそちらもご覧ください。
ウグランダイトグループを代表するグロッシュラーガーネットは、グリーン系からオレンジ系まで多様な色を呈します。中でもグリーンのグロッシュラーガーネットが、ツァボライトと呼ばれています。
ガーネット各種について、こちらの記事でそれぞれ詳しく解説しています。
▸ 華麗なるガーネット一族、時代や場所を問わず愛されてきた宝石
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■ツァボライトとは?

ツァボライトはグリーンのガーネットにつけられたコマーシャルネームです。コマーシャルネームですが広く普及しているため、鑑別書にも「ツァボライトと呼ばれています」と表記されることが多いです。
鉱物としては、ガーネット族の一部であるグロッシュラーガーネット。グロッシュラーガーネットの中でも美しいグリーンに発色するものがツァボライトとよばれています。
グリーンの美しい宝石といえばエメラルドが不動の女王ですが、そのエメラルドに似た透明度の高いグリーンと、何よりインクルージョンの多いエメラルドに比べ、クラリティ(透明度)が高いのが特徴といえます。
またガーネットは屈折率も高く、美しい煌きとテリ感が魅力です。
透き通るグリーンの煌きは、グリーン系の宝石に革命をもたらしたといっても過言ではありません。
■高品質なツァボライトとは?
どの宝石にも言えることですが、発色が良く、クラリティ(透明度)が高く、カットが美しい、大粒の石が最高品質といえます。ツァボライトは比較的産出量も多く、美しさに対して安価に感じるかもしれません。
グリーンと一口にいっても、深い海の底のようなグリーンから新緑のライムグリーンまで幅があります。ですが、価値は色の濃淡のみではあまり左右されません。大人っぽい深味を装いたいなら濃い石、浮き立つような気持ちを装うなら明るい石など、あしらいや好みで選ぶのが良さそうです。
かといってカラーを軽視して良いわけではありません。濃くて黒っぽく感じるグリーンや薄い為に水っぽく感じるようなグリーンのツァボライトはやはり価値が下がります。
そして濃淡での価値より、色味の方が重要視されます。黄色味を含むグリーンより、青味のグリーンの方がツァボライトとしては品質が良いと言えるでしょう。
濃くても明るくても、グリーンが映える石を選びたいですね。
ガーネットは比較的クラリティが高い貴石です。ツァボライトもクラリティの高い石を見つけ易いでしょう。しかし時に黒色インクルージョンやルチル、クリスタルインクルージョンを含むこともあります。特に黒色インクルージョンは色を阻害して目立つため避けたいですね。
一方、インクルージョンがないツァボライトはありません。特徴として指紋のようなフィンガープリントインクルージョン、羽のようなフェザーインクルージョンを含むことが多いです。多くは肉眼では気にならないですが、集合するともやっとして気になるインクルージョンになるかもしれません。
品質としては格を下げてしまうインクルージョンですが、インクルージョンにもその石の顔を作る味があります。
ツァボライトは、そのカットとカラットも重要になってきます。特にカットは、等しく対称的で宝石特有のモザイクと呼ばれる影がはっきり出ているものが、見る人を圧倒する美しさを演出します。
最高品質であればカラットが大きければ大きいほど価値はあがりますが、ツァボライトは小粒でもすっきりと発色する貴石です。ルースをどう飾るのか、どう仕立てるかで相応しいサイズを選ぶのが最良ではないでしょうか。
ちなみに、高品質かつ最大のツァボライトはなんと325.13カラット。それもファセットカットを施した上での300カラット超えです。2007年のツーソンジェムショーでお目見えしました。
このツァボライトの原石はおよそ925カラット。天然のままで美しいツァボライトのその原石を発見した瞬間、どんな感銘を受けるのでしょうか。規模が大きすぎて想像もつきません。
■グロッシュラーガーネットの仲間たち

前述の通りツァボライトは商標ネームであり、宝石名はグリーングロッシュラーガーネットになります。
ガーネット一族の中でも、グロッシュラーガーネットはとりわけ多彩な色を魅せてくれます。オレンジ系のヘソナイトやアンドラダイトとの固溶体であるマリガーネットが有名です。
同じグリーングロッシュラー中にも、個性豊かなガーネットがあります。
ミントガーネット
メレラニミントガーネットとも呼ばれる、1990年代後半に発見され近年人気を集めているミントガーネット。
名前の通りミントグリーンの明るい色彩が特徴で、爽やかな印象があります。
流行のパステルカラーであり、また今まで蛍光しないと言われていたガーネットの中で顕著に蛍光する石が多く、話題となりました。
バイカラーツァボライト
多様な色を魅せるグリーングロッシュラーですが、その理由として、本来のグロッシュラーガーネットは無色透明であるということが挙げられます。
リューコガーネットという名前で知られる、希少なカラーレスガーネットですね。
そのカラーレスの中に微量の元素が含まれることで、ツァボライトのグリーンと本来のカラーレス両方を楽しめる結晶ができます。
カット次第ですが、クリアとライトグリーンの縞模様であったり、カラーレスの結晶にグリーンの光が差し込むように入っていたり、一つとして同じ形がないのもバイカラーの魅力です。
すっきりとしたツァボライトのグリーンカラーがクリアの結晶に引き立てられ、より爽やかに感じられます。
ハイドログロッシュラーガーネット
ハイドログロッシュラーガーネットは、一見するとヒスイに似ています。不透明~半透明のグリーンで、同じグリーングロッシュラーガーネットでもツァボライトと似ているのはその色調だけです。
そもそもグロッシュラーガーネットの組成の一部が水酸基に変わっている為、グロッシュラーガーネットに含めるかも議論の余地があるようです。
その見た目からトランスバール翡翠、アフリカ翡翠という誤解を招く名前をつけられたこともありました。ガーネットの特徴たる透明度や煌めきはありませんが、鬱蒼としげる自然を写し込んだようなグリーン、グレーのコントラストが非常に面白い石です。
■ツァボライトの名前の由来と歴史
グロッシュラーガーネットは、その美しさの割に今一つ人気のない貴石に思われます。宝石に必要な要素として、まず美しさ、その美しさが変わらないこと、そして希少性が挙げられます。この希少性という点においてのみ、ガーネットはやや劣るのかもしれません。
特にグロッシュラーガーネットは、オレンジカラーのヘソナイトは一定の人気があったものの、赤い宝石の印象が強いパイラルスパイトグループに比べて、今一つと思われたこともあったのでしょう。
しかし、1850年頃、ロシアで冴え冴えとしたグリーンのアンドラダイトガーネットが発見されます。今までのレッドカラーとは一線を画す美しさにロシアのみならず世界が注目したのですが、ロシア革命という時代の憂き目で採掘は中断されます。
その後に発見されたのが、ツァボライトでした。1969年頃、ジェモロジストであり地質学者でもあるキャンベル・ブリッジス(Campbell Bridges)がタンザニアで発見します。
美しいグリーンの宝石の再来に宝石業界は沸き立ちますが、タンザニア政府は当時採掘を許さず、ジェモロジストのみが知る石となっていました。
その後、鉱床は広範囲に広がっているとみたキャンベル・ブリッジスはケニアでツリーハウスを建てて採掘を続けます。彼の見立ては正しく、1971年に新たにケニアで鉱床を発見しました。
このケニアで発見されたグリーングロッシュラーガーネットを、ティファニーが大々的にキャンペーンを推しだし売り出します。この時、ケニアのツァボ・イースト国立公園にちなんでツァボライトという名前をつけられました。それが今日にも知られるようになったのです。
ちなみに、同じくティファニーが推しだした宝石にタンザナイトがありますが、このタンザナイトもブリッジズがアメリカに持ち込んだものです。
宝石業界に燦然と輝く功績を残したブリッジス。しかしその発見が彼にとって本当に幸運だったかは判りません。
ツァボライト発見の名誉と共にもたらされたのは、密猟者との戦いの日々でした。1971年から続いたツァボライトの鉱床を巡る争いは、2009年キャンベル・ブリッジスの殺害という悲劇で幕を閉じることになります。
■ツァボライトの産地

ガーネットは多くの場所で産出しますが、ツァボライトの産地は限定的です。代表的なものは、名前の由来にもなっているケニアのツァボ、メレラニ、バラカでしょう。メレラニ鉱山はミントガーネットの産地としても有名ですね。
またバラカ鉱山は最高品質のツァボライトが期待できるとしても有名です。
他にタンザニア、マダガスカルから産出があります。キャンベル・ブリッジスが発見した当時採掘許可が降りなかったタンザニアからも、現在は採掘されています。
最高級のツァボライト "バラカガーネット"
最高級のツァボライトが欲しい! と思った時に、もしかしたらバラカガーネットの名前を見る機会があるかもしれません。ツァボライトの中でも、特にケニアのバラカ鉱山で採掘されるツァボライトはテリが強く発色もはっきりとしている最高級品と言われています。
しかし、ガーネットのほとんどは産地鑑別ができません。バラカで採掘されたものかどうかは、人の手に渡った時点で証明できなくなってしまいます。
また現在国内では、最高級のツァボライトをバラカガーネットと呼ぶ、というルールがあるわけでもないようです。
産地によって特色のある輝きを放つ宝石は珍しくありませんが、手元のツァボライトが本当はどこの産地なのかは判りません。特に資産としての宝石を求めるのであれば、バラカ産のガーネットを探し求めるより冒頭の最高品質を参照に、最高級のツァボライトを探したほうが確実だと思えます。
2.鉱物・原石としてのツァボライト

美しいグリーンを呈する宝石、ツァボライト。
そのグリーングロッシュラーガーネットとしての側面、鉱物的な面にも魅力があります。
■組成について
まずは、組成から見てみましょう。
英名 | Tsavorite(ツァボライト) Green grossular garnet(グリーングロッシュラーガーネット) |
和名 | 灰礬柘榴石 |
成分 | CaAl2(SiO4)3 |
結晶系 | 等軸晶系 |
モース硬度 | 7-7.5 |
屈折率 | 1.735-1.745 |
劈開 | なし |
色 | グリーン、ライトグリーン |
主な産地 | ケニア、タンザニア、マダガスカル |
ツァボライトの和名は灰礬柘榴石。その和名の通り、カルシウムとアルミニウムを多く含んだ珪酸塩鉱物です。ガーネット一族のウグランダイトグループの中でも、基本といえる組成を持つガーネットですね。前述した通り、グロッシュラーガーネットファミリーからも他の宝石が分類されています。
ツァボライトは鑑別書上は鉱物名ガーネット、宝石名グリーングロッシュラーガーネットと記載されます。このグロッシュラーガーネットはイエロー、オレンジ系統のヘソナイトからカラーレスのリューコガーネットまで非常に多くの色を持つガーネットです。
同じ組成でありながら豊かなカラーを持つのは、微量に含んだ成分の為。リューコガーネットは不要な成分を含まないため、カラーレスになります。では何が混ざることでツァボライトになるかといえば、微量のクロムとバナジウムがツァボライトの鮮やかな新緑のグリーンを作り出しています。
特にクロムを多く含むツァボライトは、同じくクロムを色因として持つエメラルドのような青味がかった美しいグリーンになるような気がします。しかし実際は、クロムの含有量が多いとかえって黄色味が強まるようです。
新しいガーネット、ベキリーブルーガーネットのブルーを生み出しているのはバナジウムですが、このバナジウムはツァボライトの美しさにも多分に影響しているようです。また、ツァボライトは微量の鉄も含んでいます。その為、黒色インクルージョンが混入することもありますが、この鉄分こそがキラキラと光を反射する輝きの元にもなっています。
■鉱物としての魅力

原石のツァボライトは、他のガーネットと同じく12面体から24面体の天然のカット石のような形状で産出されます。人為的処理を必要とせず、そのままで美しい発色と輝きを持つのも他のガーネットと同じ魅力ですね。
ツァボライトの誕生は新原生代まで遡ります。10億~5億万年前という途方もない数字ですが、地球全土が氷漬けになるような氷河期を迎えた時代で、最古の化石が発見されている年代でもあります。
その時代に地底の奥底で生まれたツァボライトは、強い変成作用の中で歪み、傷つき、再結晶と成長を繰り返します。その結果、前述したインクルージョンがその永遠のような時間の痕跡を残してくれています。そういった変成作用や成長の仕方で、バイカラーのガーネットが生まれるのもこの石らしい特徴ではないでしょうか。
中々見られる機会の少ない宝石の内部世界ですが、10倍ルーペでも確認できるインクルージョンは少なくありません。悠久の時間を閉じ込めた内部世界が垣間見えるのも、鉱物としての魅力の一端といえるでしょう。
また、ツァボライトは南極でも発見されている宝石の一つです。南極から商業目的に採掘するわけにはいきませんが、今後研究目的に採掘されれば、新たな地球の秘密を解き明かす一助になるかもしれません。
3. ツァボライトをより楽しむために

宝石のその他の楽しみ方として、誕生石や石言葉、加工品の使用例などをご紹介します。
■誕生石・石言葉

ガーネットは1月の誕生石です。ガーネット全体の石言葉は真実、友愛、勝利、真実など。
ツァボライト固有の石言葉としては、生命力や調和が挙げられます。
若葉のような爽やかなグリーンから大樹の広葉を思わせる深いグリーンまで幅広く美しいグリーンのツァボライト。その鮮明なグリーンからは芽吹くような生命力を感じられるように思えます。どうにも元気が出ない時、新たに前に進みたい時、ツァボライトに願いを託してみるのも良いかもしれません。
■ビーズやアクセサリーへの加工

モース硬度が高くへき開もないツァボライトは、小さな加工にも向いている鉱物です。また小粒でも色が薄く見える、逆に暗く見えるようなこともなく、ぱきっと鮮明な色を見せてくれます。そのため、さざれビーズなどとしても良く流通しています。
目の覚めるようなグリーンが鮮やかで、小さなワンポイントでもしっかり映えるのがツァボライトの良さ。耐久性が高く、場所を選ばず身につけられるのも魅力です。
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4. まとめ
ツァボライト、いかがでしょうか。実は近年、ツァボライトの値段は上昇傾向にあります。様々な新たなガーネットが誕生している現代だからこそ、改めて再評価されているのかもしれません。
この機会に是非、一度手にとって欲しい貴石です。
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この記事を書いた人

佐伯
TOP STOneRY / 編集部ライター
トップストーン編集部がお届けする「トップストーリー」メディアでは、古くから愛されている誕生石の歴史やエピソード、最新のレアストーンの特徴、宝石の楽しみ方をわかりやすく解説しています。「天然石の魅力をもっと多くの方に知ってもらいたい」という想いで、個性溢れるライターが情報発信しています。