ダイオプテーズ | かつてエメラルドと信じられた希少宝石を解説

ダイオプテーズは、一般的な知名度が高いとはいえない、希少な宝石です。ただ、発見当初は「エメラルド」と間違えられたという独特の緑色を見れば、一目で恋に落ちること間違いなしでしょう。ルースに加工されたダイオプテーズも、クラスター状の結晶標本も、鮮やかに深く輝き、たまらない美しさを見せてくれます。
今回は、知られざるダイオプテーズを、詳しく解説します。ルースがあまり見られない理由や美しさ・魅力、また鉱物的解説、取り扱いの注意点など、多方面からまとめました。
緑色の宝石が好きな人にも、原石が好きな人にも、さらには「持っている人があまりいない石を探している」人にもおすすめの、ダイオプテーズ。さっそく、見ていきましょう。
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1.宝石・ルースとしてのダイオプテーズ

はじめに、ダイオプテーズを宝石・ルースの観点から解説します。美しさや品質の基準、個性的な緑色の秘密、似た宝石「ダイオプサイド」との違い、また歴史的逸話や産地をチェックしてみてください。
■高品質なダイオプテーズとは

ダイオプテーズは、大きな結晶に成長せず、さらに脆さを持った石です。ルースに加工できる結晶はめったに採れず、ルースのダイオプテーズは、それ自体にとても価値があります。
ただ、せっかく手にいれるなら、少しでも品質が良いものを、と願うのもコレクターの自然な心理。高品質とされるダイオプテーズの条件を見てみましょう。
カラー
ダイオプテーズは、やや青みを帯びた魅惑的なエメラルドグリーンが美しい宝石です。ダイオプテーズの緑色は銅に由来しており、“銅らしい”緑が鮮やかに濃く出ている個体ほど、価値があるとされます。
落ち着いた色合いのダイオプテーズは、価格もお手頃になります。
カット
ダイオプテーズは、完全な劈開と硬度の低さをカバーするため、カボションに加工されるものが多めです。だからこそ、ファセットカットされたダイオプテーズは、計り知れぬ価値を持つといって良いでしょう。
ファセットカットされたダイオプテーズも、輸送や保管の間にガードルが欠けたり、クラックが入ったりすることもあります。それほどまでに脆い石・ダイオプテーズ。はかなさも、この石の魅力の1つです。
カラット
ダイオプテーズの結晶は、大半が1センチ未満の小さな結晶クラスターです。大きな結晶に成長するものはほとんどありません。
また、まれに見つかる大きな結晶は、宝石品質を満たさないものがほとんど。全体的に劈開があらわれていたり、透明度が低かったりと、加工には不向きです。
もし、ファセットカットされたダイオプテーズで、1カラットを超えるものがあれば、とても価値があります。品質の良いダイオプテーズをお探しなら、カラットと透明度の両立に注目してみてください。
■ダイオプテーズの特徴
ダイオプテーズは、多色性を持つ宝石です。多色性とは、角度を変えながら宝石を見たときに、さまざまな色があらわれる光学効果です。
ただし、ダイオプテーズに含まれる銅イオンは、光の通過を阻む性質を持っています。少し大きめの結晶になると、光が通過しにくくなり、多色性も息をひそめてしまいます。
ダイオプテーズの多色性を楽しみたいコレクターには、透明度が高く、小ぶりのルースがおすすめです。
■ダイオプテーズの緑色の秘密
ダイオプテーズの独特の青緑色は、銅(Cu)に起因します。一昔前は、銅で青錆びがついた10円玉をよく見かけたものです(近頃は、あまり見られませんね)。
銅は、元来は赤銅色をしています。表面の酸化が進むと、徐々に青緑色に変化し、銅特有の「青錆び」になります。青錆びで銅の表面がびっしりおおわれると、内部の錆がそれ以上進行しないというメリットがあり、古くからさまざまな場面で活用されてきました。
さて、そんな銅由来の緑色を呈するダイオプテーズ。同じく銅によって緑色になる石は、クリソコラ(孔雀石)やマラカイト(珪孔雀石)です。
ちなみに、その昔、ダイオプテーズが混同されたエメラルドは、クロム(Cr)が発色要因です。エメラルドはベリル(緑柱石)の仲間。クロムによって、鮮やかな緑色を呈する種類を、特別にエメラルドと区別しています。ベリルは非常に種類の多い宝石で、青色のベリルは、アクアマリンと呼ばれます。
エメラルドやベリルについてはこちらの記事で詳しく解説しています。
■ダイオプテーズにまつわる逸話

発見当初、「エメラルド」と間違えられたという逸話を持つ、ダイオプテーズ。美しいガラス光沢と深い緑色を持つこの石は、確かにエメラルドにそっくりです。
ダイオプテーズは18世紀後半の1785年、アルティン=チュベ銅山(Altyn-Tyube、現在のカザフスタン)で見つかりました。鑑別技術も未発達だった当時のこと、人々は「エメラルドが見つかった!」と驚き喜び、当時カザフスタン周辺を支配していたロシアの皇帝・パーヴェル1世(Pavel Petrovich Romanov|在位1796年 - 1801年)に、“カザフスタンで見つかったエメラルド”を献上したそうです。
ただ、研究が進むにつれて、この緑色の宝石とエメラルドの違いが明らかになります。エメラルドにはない劈開があること、硬度が低いこと…、やがて1797年、かのルネ=ジュスト・アウイ(René Just Haüy|1743年 - 1822年)が、ダイオプテーズに固有の特徴を発見。「エメラルドとは別の鉱物である」と、名前を付けて発表しました。
アウイが発見したダイオプテーズの特徴とは、劈開です。エメラルドには劈開がありませんが、ダイオプテーズは、内部に劈開が透けて明瞭に見えるのです。ダイオプテーズの名前も、ギリシア語の「通して(dia)」+「見える(oazein)」から名付けられています。
<豆知識>フランスの鉱物学者、アウイ
アウイは「結晶学の父」と呼ばれる偉大な学者です。現代の鉱物学・結晶学の礎となっている、“結晶”という理論を打ち立てたのは、アウイです。アウイは、床にカルサイト(方解石)を落としたときに、元と同じ形状の小さな結晶の破片に砕けたことに気づき、「大きな結晶も、小さな結晶が繰り返されてできている」との考え方を導きました。
多くの宝石の名前を付けた人物でもあり、ダイアスポアやアナテース、ベスビアナイト、アキシナイトも、アウイが名付け親です。極めつけは、アウイの名前を冠したアウイナイトでしょう。「アイフェルのサファイア」と呼ばれて愛されるネオンブルーの鮮やかな宝石は、高い人気を誇る希少石です。
ちなみに、ダイオプテーズの発見は18世紀に入ってからですが、利用自体は古くから行われていたようです。紀元前7200年ごろにつくられたと見られる像の目に、鮮やかな緑色のダイオプテーズが顔料として使われていたことも、わかっています。この像は、ヨルダンのアイン・ガザル遺跡から見つかっています。
アウイにまつわる宝石はこちらの記事で詳しく解説しています。
■"ダイオプテーズ"と"ダイオプサイド"

ダイオプテーズと混同しやすい石に「ダイオプサイド(Diopside・透輝石)」があります。
ダイオプサイドは輝石グループの石です。緑色や褐色がかった緑色の個体、また黒色や灰色、黄色などが見られます。ただ、クロムによってエメラルドによく似たグリーンとなるダイプサイドもあり、これがダイオプテーズとの区別が至難。しいていえば、ダイオプテーズの方が、銅らしい青みを帯びている点が違いでしょうか。
ダイオプテーズとダイオプサイドは、複屈折を見ると区別できます。ダイオプサイドは、名前がギリシア語の「2つの(di)」「見え方(optis)」からきているほど、強い複屈折性を持っています。両者を比べるときは、ファセットラインの見え方に注目してみてください。
<ダイオプテーズとダイオプサイドの比較>
ダイオプテーズ | ダイオプサイド | |
---|---|---|
成分 | CuSiO3(H2O) | CaMg(Si2O6) |
緑色の要因 | 銅 | クロム |
硬度 | 5 | 5.5~6.5 |
屈折率 | 1.64~1.72 | 1.66~1.72 |
分散 | 0.036 | 0.017~0.020 |
劈開 | 完全(3方向) | 完全(1方向) |
比重 | 3.30~3.40 | 3.22~3.43 |
色 | 緑色、帯青緑色 | 緑色、褐色、黄色、灰色、黒色 など |
ダイオプサイドについてはこちらの記事で詳しく解説しています。
■ダイオプテーズの産地

ダイオプテーズは、乾燥した銅鉱床の酸化帯で見つかります。現在、市場に流通しているダイオプテーズにロシア産が多いのは、ソビエト連邦が崩壊(1991年)したときに、市場に大量のダイオプテーズが流出したからだといわれています。
現在、ダイオプテーズの大きな鉱床は、ナミビアのツメブ(Tsumeb Mine)や、アメリカ・カリフォルニア州にあるソーダレイクで見られます。また、発見地でもあるカザフスタンの中央アジアにも、大きな鉱床があると報告されています。
ツメブ産のダイオプテーズは、最高品質として知られています。1970年代、それまでダイオプテーズが採取されていた上部酸化帯ではなく、地下1000メートル地帯にある下部酸化帯から、ダイオプテーズが発見されました。カルサイトやドロマイト(苦灰石)とともにきらめくダイオプテーズに、鉱山労働者たちは小躍りしたのではないでしょうか。
現在、下部酸化帯の鉱床は、閉山していると聞きます。ただ、発見当時に一気に市場に流出した、良質なダイオプテーズがまだまだ流通を待っているともいわれます。
2. 鉱物・原石としてのダイオプテーズ

ここからは、鉱物・原石の観点から、ダイオプテーズに迫ります。地中から生まれた結晶そのままのダイオプテーズの美しさを、堪能していきましょう。
■組成について
ダイオプテーズの組成情報は、以下のとおりです。
英名 | Dioptase(ダイオプテーズ) |
和名 | 翠銅鉱(すいどうこう) |
成分 | CuSiO3(H2O) 水和ケイ酸銅 |
結晶系 | 三方晶系 |
硬度 | 5 |
屈折率 | 1.64~1.72 |
劈開 | 完全(3方向) |
色 | 緑色、帯青緑色 |
産地 | コンゴ、チリ、ロシア、ナミビア、アメリカ など |
■原石の形状

多くのダイオプテーズは、粒状の集合体や短柱状、塊状で産出します。白いカルサイト(方解石)やクォーツ(石英)とともに見つかることが一般的。白い母岩に鮮やかなエメラルドグリーンの結晶がびっしりと育った原石標本は、コントラストの美しさで人気です。
2019年、GIAによって、15.65カラットのナミビア産クォーツに、無数のダイオプテーズが共生した標本が調査されました。ダイオプテーズは、クォーツと共生することもあれば、クォーツの内包物になる場合もあります。
いずれにせよ、無色のクォーツと、鮮やかな青緑色のダイオプテーズは、静謐でありながら力強い美しさが印象的です。
≪ 参照:GIA / Quarterly Crystal: Dioptase in and on Quartz (外部サイトが開きます) ≫
ダイオプテーズの3方向に完全な劈開と、硬度5という脆さから、ファセットカットされる結晶は、めったにありません。産出した時点で、結晶の全面に劈開が肉眼で見えるほどに出ているものもあります。
だからこそ、ダイオプテーズは原石標本のまま流通するケースが多く、コレクターも原石を求める傾向があります。クラスターに無数に入ったクラックは、光をキラキラと反射させ、とても美しい佇まいを見せくれます。
ちなみに、ダイオプテーズは塩酸や硝酸で溶けてしまいます。カルサイトと共生しているダイオプテーズを取り外したい場合、カルサイトを溶かしつつダイオプテーズには影響しない、酢酸が用いられます。酢酸でカルサイトだけを溶解し、ダイオプテーズを取り出すのです。
■鉱物としてのダイオプテーズ
ダイオプテーズは銅鉱床の酸化帯、とくに砂漠のような乾燥気味の地域で見つかります。銅鉱床で、カルサイトや石灰岩の一次硫化物が風化すると、ダイオプテーズが生じます。
マラカイト(孔雀石)やクリソコラ(珪孔雀石)も同じようなできかたをしますが、ダイオプテーズの希少性はマラカイトやクリソコラとは比べ物になりません。
3. ダイオプテーズをより楽しむために
希少さと脆さが、ダイオプテーズの魅力です。お迎えできたら、どのように楽しみましょうか。
この章では、ダイオプテーズをもっと身近に、もっと楽しむためのヒントを紹介します。
■誕生石・石言葉
ダイオプテーズは、誕生石には指定されていません。365日、それぞれにゆかりのある石を定める誕生日石では、9月17日の石とされています。
ダイオプテーズの石言葉は、「安定」「再会」「毒素の排除」など。心にうるおいを与えて癒し、次への一歩を後押しする石といわれます。また、宇宙の神秘を伝え、活力を与える石でもあるそう。変化を求める人、決意したい人にもおすすめです。
■ビーズや加工品として
ダイオプテーズは、脆い石です。また、結晶が小粒であるため、ビーズには加工されません。大半は原石のまま標本としてコレクター向けに流通し、まれにファセットカットされたルースとなって、私たちの前にあらわれます。
ダイオプテーズの標本は、ほとんど母岩がついたまま販売されます。母岩とのコントラストを楽しみ、ダイオプテーズが地中にあったときの姿を想像するのも、楽しい時間となるでしょう。
また、マラカイト(孔雀石)やクリソコラ(珪孔雀石)と共生したダイオプテーズも、人気があります。ダイオプテーズとマラカイト、クリソコラのそれぞれで異なる緑の色調は、ずっと見ていても飽きない深い魅力を持っています。
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4. まとめ
ダイオプテーズは、発見当初は「エメラルドだ」と人々に思わせたほど、鮮やかな緑色が魅惑的な宝石です。もし、硬度がもっと高かったら…、もし劈開がなかったら…、エメラルドと肩を並べる貴石になっていたかもしれませんね。
ただ、名前の由来にもなっている劈開は、ダイオプテーズの個性の1つ。劈開面があるからこそ、結晶が光を反射し、キラキラと見事な輝きを見せてくれます。
ダイオプテーズは、ほとんどが結晶標本で流通しています。加工が難しいルースは、めったに市場に出ません。もし、ダイオプテーズのルースをお探しなら、品揃え豊富なルース専門店を探してみてください。運が良ければ、美しいダイオプテーズルースに巡り合えるかもしれませんよ。
TOP STONE オンラインショップでも僅かですが取り扱いがございますので、ぜひチェックしてみてください。
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この記事を書いた人

みゆな
TOP STOneRY / 編集部ライター
トップストーン編集部がお届けする「トップストーリー」メディアでは、古くから愛されている誕生石の歴史やエピソード、最新のレアストーンの特徴、宝石の楽しみ方をわかりやすく解説しています。「天然石の魅力をもっと多くの方に知ってもらいたい」という想いで、個性溢れるライターが情報発信しています。