ラズベリルではなく「ペツォッタイト」!ベリー系のとろみ感が魅力の宝石

「ペツォッタイト」を知っているあなたは、かなりの宝石通かもしれません。
ペツォッタイトは2002年に発見、2003年に新種鉱物として認められた新しい宝石です。
発見当初の名残で「ラズベリル」という名前で流通している場合もあります。
今回は知る人ぞ知るレアストーン・ペツォッタイトの秘密に迫ります。高品質なペツォッタイトを見分けるポイントや、鉱物学的に見たペツォッタイトも分かりやすく解説します。
レアストーン愛好家ならずとも、一度はお目にかかりたいペツォッタイト、ぜひこの機会に詳しくなってしまいましょう。
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1. 宝石・ルースとしてのペツォッタイト

はじめにペツォッタイトを、宝石・ルースの観点から解説します。
高品質なペツォッタイトの特徴や、ペツォッタイトのなかでも希少なキャッツアイ効果を持つ石も紹介します。
■高品質なペツォッタイトとは

高品質なペツォッタイトの条件は、以下です。満たす項目が多いほど、評価が高まります。
カラーは濃く、鮮やか
インクルージョンが少なく、透明度が高い
クラックが少ない
カラットが大きい
ペツォッタイトのカラーは、ベリーにたとえられるピンク色です。柔らかくジューシーな色合いは他の宝石にはなかなか見られず、ペツォッタイトのシズル感に魅了されるコレクターが後を絶ちません。
またペツォッタイトは、インクルージョンが入りやすい石です。インクルージョンも、ペツォッタイトの個性として許容されています。
モース硬度は8と加工に十分耐えるにもかかわらず、ルースになって流通する個体が少ないのは、宝石品質のペツォッタイトが少ないためです。
インクルージョンと内部のクラックが少なく、クリアな輝きを見せる個体は非常に高く評価されます。
ほとんどの原石は、小さな結晶で見つかります。大きなカラットに加工されたルースは、その大きさだけで価値があります。
ペツォッタイトは限られた産地からしか採れず、新しい原石がほぼ見つかっていない希少な石です。
レアストーン愛好家ならずとも、ぜひコレクションに加えたい価値があります。
■ペツォッタイトの工芸品
ペツォッタイトは、さまざまな加工を可能にする硬度と靭性を持っています。
市場に流通する個体のほとんどは1カラット未満の小さなルースですが、稀に大きな結晶が工芸品に加工される場合もあります。
アメリカのアリゾナ州・ツーソンにあるグラナダ ギャラリーには、世界的に有名な宝石彫刻家Patrick Dreherがペツォッタイトに施した「とぐろを巻いたドラゴン」があります。【 参照:GIA 】
高さ10cm弱、201.03カラットにも及ぶペツォッタイトは、一見の価値ありです。
ちなみにPatrick Dreherは、生きているかのような宝石彫刻の技術で有名です。Dreher家は5世代に渡って、宝石のカッティングと彫刻を担い続けてきました。
■ペツォッタイトとモルガナイト

もし両者の区別が必要な場面があったら、インクルージョンに注目しましょう。
モルガナイトは比較的インクルージョンが少なく、高い透明度が見られます。一方でペツォッタイトは肉眼で見えるインクルージョンが多いという特徴があります。
そしていっそ、両者を手元に迎えてみませんか。淡いピンク色のコレクションが増え、石を愛でる楽しみが増えそうです。
■キャッツアイ効果をもつペツォッタイト

ペツォッタイトのごく一部に、キャッツアイ効果を見せる個体があります。原石の10%が宝石品質、そのさらに10%ともいわれる希少中の希少さがある宝石です。
キャンディのようなトロっとした光沢で、ライトを当てると猫の目のような光学効果(シャトヤンシー・Chatoyancy)があらわれます。
ペツォッタイトのキャッツアイ効果は、チューブ状のインクルージョンによって起きると考えられています。
キャッツアイ効果を持つペツォッタイトは、キャッツアイ効果がない同ランクの個体より価格が上がります。
■含浸処理について
インクルージョンやクラックが多いペツォッタイトは、一般的に含浸処理が施されます。
含浸処理とはキズやヒビを目立たなくし、宝石としての価値を高めるために行う処理の一つです。宝石の屈折率に近いオイルや樹脂などを宝石に充填します。
ペツォッタイトに対する含浸処理は一般的に行われており、処理の有無で宝石の価値が変わることはありません。
一般的に含浸処理が行われる宝石は、ほかにエメラルドやレッドベリルなどがあります。
【豆知識】
含浸処理の有無が宝石の価値に影響するかどうかは、宝石の種類によります。
ペツォッタイトやエメラルド、レッドベリルは、市場にある個体の99%が含浸処理されているともいわれます。通常の状態で、処理済みということです。
処理が行われているのが標準のため、価値への影響がないのです。
ところが同じ含浸処理でも、ルビーやサファイアは価値が下がります。
ルビーやサファイアは含浸処理がない個体が標準です。
鉛ガラスが含浸されたルビーやサファイアは色が鮮やかになり、透明度が高まりますが、価値は下がるのです。
■ペツォッタイトにまつわる逸話
ペツォッタイトがペツォッタイトとして認められるまでには、紆余曲折、さまざまなストーリーがありました。
まずペツォッタイトが初めて世に出たのは、2002年・マダガスカルです。フィアナランツォア州・サカヴァラナ鉱山のペグマタイト鉱床にて、地表から6メートルほど堀り進んだ晶洞から見つかりました。
この時、ペツォッタイトはトルマリンやスポジュミン(リチア輝石)とともに産出しています。
そのため発見当初は、ベリーカラーのトルマリンと誤認されてしまいます。
その後、研究が進むにつれて「どうもトルマリンとは違う」という見方が大勢を占めるようになり、次はベリルだと見なされます。
赤いベリル(レッドベリル)と混同されたのは、見た目や化学組成が似ていたのが理由のようです。
ではペツォッタイトとレッドベリルは、どのくらい似ているのでしょう。
表にまとめましたのでチェックしてみてください。
ペツォッタイト | レッドベリル | |
化学式 | Cs(Be2Li)Al2Si6O18 | Be3Al2Si6O18 |
結晶系 | 三方晶系 | 六方晶系 |
硬度 | 8 | 7.5~8 |
屈折率 | 1.59~1.62 | 1.56~1.57 |
比重 | 3.09~3.11 | 2.63~2.92 |
確かに、似ていますね。
ただ結晶系が異なります。ベリル種は六方晶系ですが、この鉱物は三方晶系なのです。このあたりがきっかけになり、新種ではないかとの分析が進みます。
その結果、ベリルの主成分であるベリリウム(Be)がセシウム(Cs)やリチウム(Li)と置き換わっていることが分かります。
国際鉱物学連合(IMA)によってベリルグループの新種鉱物として認められたのは、発見の翌年、2003年のことでした。
ペツォッタイトの分析で重要な役割を果たしたのは、イタリア人地質学者・鉱物学者のフェデリコ・ペツォッタ氏(Federico Pezzotta)です。
彼の名前にちなんで、この新鉱物はペツォッタイトという名前がつけられました。
【豆知識】
新鉱物として認められるまでの誤認の歴史から、ペツォッタイトはさまざまな名前で呼ばれる場合があります。
- ラズベリル
- ピンクベリル
- マダガスカル・レッドベリル
- レッドエメラルド(ビクスバイト)
- ラズベリーベリル
ペツォッタイトではない正式な宝石が存在するもの(レッドベリル)や、単なるコマーシャルネームであるもの(レッドエメラルド)が混ざっています。
現在、ペツォッタイトは正式な鉱物名として認められています。
本記事ではペツォッタイトは「ペツォッタイト」との名前で解説を進めます。
■ペツォッタイトの産地

ペツォッタイトの産地はマダガスカルです。
2002年に初めて採掘された折、40kgほどの原石が見つかったそうです。ところがこの原石が見つかったのが最初で最後のよう。
これまでに、他の晶洞からは見つかっていません。鉱床は枯渇したのでは、と見られています。
2003年のツーソンショー(米国・アリゾナ州で行われる世界最大の鉱物展示会)での初お目見えでは、世界中のコレクターの注目を集めました。
ただ、それ以来新しい原石が発見されていないこともあり、コレクターの熱は徐々に落ち着いているようです。
とはいえ初めに見つかった原石がすべて、という事実に変わりはありません。さらに宝石品質になれるのは、そのうち10%ほどしかないとの説もあります。
40kgの10%…、たった4kgです。
たった4kgしかない宝石品質のペツォッタイト。これからも、大変希少なレアストーンとして人気を保ち続けるでしょう。
もしミネラルショーやルース専門店で見かけた際は、じっくり見てみてください。ジューシーな輝きが、きっとあなたを虜にするはずです。
<補足情報>
ペツォッタイトの産地として、ミャンマーやアフガニスタンの名前が挙がる場合があります。
ただ、宝石品質のペツォッタイトは、マダガスカルでしか採れません。ミャンマーやアフガニスタンで採れても、ルースにできる品質ではないようです。
高品質なペツォッタイトを手に入れたい人は、産地にも注目してみましょう。マダガスカル産の透明度の高いルースは、"TOP STONE"をはじめとする専門店が在庫を持っている可能性があります。
2. 鉱物・原石としてのペツォッタイト

ペツォッタイトは鉱物学的にも、興味深い石です。
ペツォッタイトを鉱物・原石の視点から見てみましょう。
■組成について
ペツォッタイトの組成情報は、以下のとおりです。
英名(カタカナ) | Pezzottaite(ペツォッタイト) |
和名 | ペツォッタ石 |
成分 |
Cs(Be2Li)Al2Si6O18 ※ ケイ酸セシウムリチウムベリリウムアルミニウム |
結晶系 | 三方晶系 |
モース硬度 | 8 |
屈折率 | 1.59~1.62 |
劈開 | 不完全(1方向) |
色 | ラズベリーレッド、ピンク、オレンジレッド など |
主な産地 | マダガスカル |
■原石の形状
ペツォッタイトは花崗岩質のペグマタイト鉱床で産出します。一つひとつ手掘りするため、採掘にとても時間がかかるといわれます。
結晶は三方晶系で、六角柱状で採掘されます。
大きな原石はほとんど見つかりません。小さな結晶で採れるため、ルースに加工される際も必然的に1カラット未満になるケースが多いようです。
トラピッチェ構造を持つペツォッタイトも見つかっています。
トラピッチェは、スペイン語で「砂糖キビの搾り機」です。
トラピッチェ構造は「歯車構造」とも呼ばれ、インクルージョンが歯車状に、中央から6方向に放射状に伸びる模様を指します。
■鉱物としてのペツォッタイト
ペツォッタイトはベリルの主成分・ベリリウム(Be)が、セシウム(Cs)やリチウム(Li)に置き換わってできた鉱物です。
ここからは、セシウムに注目してみましょう。
セシウムは国際原子時計の基になる原子時計をはじめ、多くの工業用途に欠かせない鉱物です。触媒としても使われています。
ところが、セシウムは自然界での産出がごく少量です。フランシウム(Fr)を除けば、地球では存在量が最も少ないアルカリ金属元素といわれます。
セシウムを主成分とする鉱物はポルサイト、そのほか緑柱石(ベリル・Beryl)やリシア雲母(レピドライト・Lepidolite)、光歯石(カーナライト・Carnallite)から採れます。
セシウムを含む鉱物は、それだけで希少です。ペツォッタイトを手にできたら、鉱物学的にも価値があることをじっくり味わってみてください。
3. ペツォッタイトをより楽しむために
レアストーン・ペツォッタイトを、より身近に楽しむヒントを紹介します。
お手頃価格のペツォッタイトは、インクルージョンやクラックが多く、ルースにならないものから探しましょう。
運が良ければ、1万円台のペツォッタイトに出会えるかもしれません。
■ペツォッタイトの石言葉
ペツォッタイトの石言葉は、「純粋」「決然」「意志」「信念」などです。
自分の志を掲げ、進む道に邁進したいときにピッタリでしょう。
また孤独や不安、悲しい気持ちのときに、そっと寄り添ってくれる石でもあります。心を落ち着かせ、困難を克服したいときにも向いています。
■ペツォッタイトの加工について
ペツォッタイトはさまざまな加工に耐える強さを持っています。
ただ一つひとつのルースが小さめなこともあり、ジュエリーにはあまり向きません。
ルースとしてコレクションに加えて楽しむのがおすすめです。
またコロンとかわいらしい結晶のまま、あるいは他の宝石と組み合わせてグラデーション状に並べたアクセサリーにしても素敵です。
<ペツォッタイトのお手入れ>
ペツォッタイトの硬度は8、靭性も高く日常使いには十分な堅牢さを持っています。
ただし内部にクラックがある個体が多いため、割れやすい点に注意しましょう。
硬いものとぶつけないように保管し、超音波洗浄は避けてください。汚れが気になるときは、ぬるま湯に中性洗剤を溶かし、柔らかい布で優しくぬぐってあげてくださいね。
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4. まとめ
ペツォッタイトが採れる鉱床は、ほぼ枯渇しているといわれます。
いま市場に流通しているペツォッタイトが、世の中にあるほとんどすべてということです。
産出量も産地もごく限られるペツォッタイトは、レアストーンの一つとしてコレクターから熱い視線を集めています。
ベリー系のジューシーカラーの透明なルースも、キャッツアイ効果があるとろけそうなキャンディの石肌も、それぞれ素晴らしい魅力を持っています。
ペツォッタイトは希少性ゆえ、一般のパワーストーンショップやジュエリーショップでは見つからないかもしれません。
"TOP STONE"をはじめとする高品質なルース専門店や、各地で開催されるミネラルショーでチェックしてみてください。
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この記事を書いた人

みゆな
TOP STOneRY / 編集部ライター
トップストーン編集部がお届けする「トップストーリー」メディアでは、古くから愛されている誕生石の歴史やエピソード、最新のレアストーンの特徴、宝石の楽しみ方をわかりやすく解説しています。「天然石の魅力をもっと多くの方に知ってもらいたい」という想いで、個性溢れるライターが情報発信しています。