シルクの輝きをまとう宝石・シリマナイトとは?魅力や特徴、鉱物観点からも解説

シリマナイトは、宝石・鉱物業界以外の人にはほとんど知られていないと言える希少石です。シリマナイトを知っていると、ミネラルショーやフェアで、一目置かれること間違いなしでしょう。
別名をフィブロライトといい、針状・繊維状の細かな結晶がシルキーな質感を生み出す、個性的な宝石です。さらに多色性にキャッツアイ効果もある、とくれば、チェックしないわけにはいきませんね。
今回は、知られざるシリマナイトの世界にご案内します。
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1. 宝石・ルースとしてのシリマナイト

はじめに、シリマナイトを宝石・ルースの観点から深めていきましょう。高品質なシリマナイトの条件や、個性・特徴、歴史的ストーリーを紹介します。
■高品質なシリマナイトとは

ファセットカットされ、ルースになったシリマナイトは、大変な価値がある宝石です。その理由、そしてトップクオリティとされるシリマナイトの条件を、見てみましょう。
カラー
シリマナイトの本来のカラーは、無色(白色)です。カラーバリエーションには黄色や緑色、青色があり、これらは含まれる微量元素によって発色します。
青色〜紫色の発色要因は、鉄・チタン、黄色や緑色はクロム由来です。
シリマナイトで希少な色は、青色や紫色、そして無色です。彩度が高い色合いも、珍重されます。
カット
シリマナイトをカット・研磨すると、ガラス質や絹を思わせる、しっとりとした光沢があらわれます。
ところが、シリマナイトはカットがもっとも難しい石の一つ。劈開が完全な上、結晶が、粘り強さと脆さを併せ持つ性質のためです。
カッティングや加工の折に、なんと全体の50%が傷ついてしまう、ともいわれます。
ファセットカットされたシリマナイトは、カットそのものにも価値があるといえるでしょう。カッターがどれほどの技術と心を込めてカットしたか、その様子を思い浮かべると感慨深いものがあるのではないでしょうか。
透明度
他の宝石と同様に、シリマナイトも内包物が少なく、透明度が高い個体ほど価値が上がります。
ただし、シリマナイトの大半は半透明です。また「フィブロライト(Fibrolite・Fiber=繊維、ite=石)という別名が象徴するように、結晶が繊維状をしており、繊維状・針状のインクルージョンが多いのも特徴です。
そのため、透明度の高いシリマナイトは非常に稀で、価値があります。
カラット
繊維状の結晶に成長するシリマナイト。ファセットカットできる、大きな個体は滅多に見つかりません。
4〜5カラット以上で宝石品質を満たした、テリの良いルースは、ほとんどないといわれるほどです。
5カラット以上のシリマナイトを見かけたら、絶対にお迎えしたい!と熱望するコレクターの声が聞こえてきそうです。
■シリマナイトの特徴
ここからは、シリマナイトの個性的な特徴を2つ紹介します。
まず、多色性。多色性とは、宝石を見る角度によって、異なる色が見える光学効果です。タンザナイトやアンダリュサイト、アイオライトなどが有名ですね。
(ちなみに後述しますが、アンダリュサイトはシリマナイトとは「同質異像」の関係にあります。)
シリマナイトは「高品質な個体は多色性を愛でるのにピッタリ」といわれるほど、多色性が魅力的です。角度を変えるとほんのり淡くあらわれる黄緑色や緑色、青色が、えもいわれぬ美しさ。
ファセットカットが難しいシリマナイトですが、多色性を見るためにはファセットカットが欲しい…、そんな板挟みの思いをコレクターに与える石です。
もう一つの特徴は、キャッツアイ(シャトヤンシー)です。シリマナイトには繊維状の結晶集合が含まれるため、集まり方によってキャッツアイ効果を呈します。
ムーンストーンのようにほんのりと光を放つものから、くっきりとした“猫の目”になるものまで個性もさまざま。
また、キャッツアイシリマナイトは、本来のシリマナイトの色に加えて、灰色や茶色になる個体もあります。
【豆知識】シリマナイトがインクルージョンになるケースも
シリマナイトは、インクルージョンが多い宝石です。ところが、シリマナイトがインクルージョンになるケースもある、というのは興味深いポイントです。
後述しますが、シリマナイトが形成されるのは生成環境が限られた、かつ厳しい環境です。そんな環境下でシリマナイトを取り込み、成長した宝石は…ルビーです。
ルビーはシリマナイトと共生することがありますが、密なインクルージョンとして内包されるのは珍しいようです。
2018年冬のGIAレポートには、針状のシリマナイトを含有したルビーの調査結果がまとめられています。
インクルージョンのあるルビーは「宝石品質に満たない」と価値が下がってしまうため、GIAの調査に乗る機会が滅多にないそうです。
■シリマナイトにまつわる逸話
この希少な宝石に「シリマナイト」という名前をつけたのは、アメリカの科学者だったジョージ・トーマス・ボーエン(George Thomas Bowen)です。1824年、彼はアメリカ・コネチカット州にあった標本を研究し、アメリカの地質学者・化学者だったベンジャミン・シリマン(Benjamin Silliman)に敬意を表して「シリマナイト」と名づけました。
ちなみにシリマンは、アメリカ国内で初めて石油を蒸留精製した人物として有名です。アメリカ東部の名門大学群「アイビー・リーグ」のひとつであるイェール大学の、初期の教授でもあります。
ただ、シリマナイトが鉱物学者たちに知られるようになったのが、1824年からかというと、そうではありません。
1792年、シリマナイトに初めて名前が付けられます。それは「ファーバーカイゼル(Faserkeisel)」。ドイツ語で「繊維状の小さな石」という意味です。この名前をつけたのは、オーストリアの化学者、ジョセフ・リンダッカー(Joseph Lindacker)です。
続く1802年、フランスの鉱物学者ジャック・ルイ・コント・ド・ブルノン(Jacques-Louis, Comte de Bournon)は、南インド・カルナティック地方で採れた繊維状のシリマナイト鉱物に、「フィブロライト(Fibrolite)」と名付けます。この名前は、いまでもシリマナイトの別名(繊維状結晶が目立つタイプ)として使われています。
シリマナイトの名前の変遷は、まだ続きます。1819年、ドイツの科学者ルドルフ・ブランデス(Rudolph Brandes)は、同じ石に「ブコルツァイト(Bucholzite)」と名前をつけました。ブランデスの恩師であり、ドイツの著名な化学者だったクリスチャン・フリードリヒ・ブホルツ(Christian Friedrich Bucholz)にちなんでいるといわれています。
シリマナイトの別名は、フィブロライト。そして歴史を紐解くと、ファイバーカイゼルやブコルツァイトというものもあるのですね。
また、シリマナイトは先史時代にすでに利用されていたことが分かっています。2010年、新石器時代のものと思われる研磨された刃が、フランスで見つかっています。
ネイティブアメリカンも、道具を作るために使っていたと言われています。
現在、シリマナイトは、アメリカ・デラウェア州で「州の鉱物」として認定されています。デラウェア州ブランディワイン・スプリングス(Brandywine Springs)で大量のシリマナイトが発見されたことが、きっかけです。1977年、デラウェア鉱物学会が州議会に提案し、州の鉱物に決まりました。
■シリマナイトの産地

現在、高品質なシリマナイトはミャンマー・スリランカ・ケニアで産出しています。
ミャンマーやスリランカからは、緑色や青色、紫色をした、キャッツアイのない通常のシリマナイト、また、独特の灰緑色をしたシリマナイトキャッツアイが採れます。
ケニアも一大産地ですが、他の地域と比べると、見つかる結晶の大きさが小ぶりなようです。
また、インドのオリッサには、シリマナイトの豊富な鉱床があります。さらに、南極でも見つかるそうです。
ただし、シリマナイトは火山地帯に多く産出します。採掘作業が危険を伴うことも多く、産出量は豊富とはいえません。
2. 鉱物・原石としてのシリマナイト

■組成について
シリマナイトの組成情報は、以下のとおりです。
英名(カタカナ) | Sillimanite(シリマナイト) / Fibrolite(フィブロライト) |
和名 | 珪線石(けいせんせき) |
成分 | Al2SiO5 酸化ケイ酸アルミニウム |
結晶系 | 斜方晶系 |
硬度 | 6.5~7.5 |
屈折率 | 1.65~1.68 |
劈開 | 完全(1方向) |
色 | 無色、白色、灰色、黄色、褐色、帯緑色、青色、青紫色、帯紫黒色 など |
産地 | ミャンマー、スリランカ、インド、ケニア、アメリカ、カナダ、イギリス、フランス、ドイツ、ブラジル、マダガスカル、南アフリカ共和国、韓国、ロシア など |
シリマナイトは、酸化ケイ酸アルミニウムです。地殻の9割を占めるともいわれる最大の鉱物グループ「ケイ酸塩鉱物」の一種で、フィロケイ酸塩鉱物という小グループに属します。
フィロケイ酸塩鉱物は、ケイ酸塩四面体の層が、平行に積み重なった構造が特徴です。
■原石の形状
シリマナイトの原石は、そのほとんどが細い針状結晶の集合体です。多くは片麻岩中に産出しますが、高温の変成作用を受けた次の場所にも生成します。
スカルン
花崗岩
ペグマタイト
アルミニウムが豊富な泥岩
黒雲母や石英、長石と共生するものもあります。コランダムやカイヤナイト、アイオライトを伴って産出した原石も見つかっています。
■鉱物視点からみたシリマナイト

シリマナイトは、800℃以上の高温環境下で、結晶を成長させます。環境がわずかに異なると、カイヤナイトやアンダリュサイトと呼ばれる、同質異像の別の鉱物になってしまいます。
<用語解説> 同質異像とは
同質異像は、化学組成は同じものの、原子配列が異なる物質のこと。どちらも炭素(C)から成るが、元素の並び方が異なるために一方は石墨に、他方はダイヤモンドになるのが好例。
同質異像の3鉱物、シリマナイト・カイヤナイト・アンダリュサイトを分ける環境条件をまとめました。
シリマナイト:高温(800℃以上)
カイヤナイト:高圧(600℃で6kbar(キロバール)以上)
アンダリュサイト:低温+低圧
※アンダリュサイトが「比較的低温」といっても、それはマグマにさらされている地中内の温度の話。数百度には達しています。
成分は同じなのに、置かれた環境が違うと別の鉱物に成長する同質異像…、なんとも不思議で神秘的な現象です。
また、シリマナイトはかなりの高温に耐えられます。その性質を活かし、シリマナイトは工業用途でも活用されています。
<シリマナイトの工業用途の例>
不燃材
断熱材
車のスーパープラグ等、高温度用のセラミック
耐火レンガ
セメント
セラミック
上質な磁器の製造
鋼鉄・鉄の精錬
工業用強度ガラスの製造 など
ちなみに高温に強い反面、低温下では不安定です。低温の環境で放置すると、白雲母に変質する場合があります。
カイヤナイト・アンダリュサイトについてはこちらの記事で詳しく解説しています。
■シリマナイトとよく似た石
シリマナイトと雰囲気がよく似ている石を、2つ紹介します。ダイオプサイドとクリソベリルです。
ダイオプサイド

淡い黄緑色のシリマナイトは、ダイオプサイド(透輝石)とよく似ています。
ダイオプサイドは、ケイ酸塩鉱物の一種である輝石グループに属する、緑色の鉱物です。深い緑色が有名ですが、淡い緑色や青、白、灰色、紫などもあり、カラーバリエーションもシリマナイトと酷似しています。
多色性やキャッツアイ効果を持つ個体がある点も、よく似ていますね。
<ダイオプサイドの基本情報>
組成:CaMg(Si2O6)
硬度:5.5~6.5
劈開:完全(1方向)
屈折率:1.66~1.72
クリソベリル

シリマナイトキャッツアイは、キャッツアイ効果を持つクリソベリル(金緑石)と雰囲気が似ています。
クリソベリルキャッツアイは、キャッツアイの代表選手ともいえる、有名な宝石です。シリマナイトキャッツアイが、クリソベリルキャッツアイとして販売されるケースもあるようです。
クリソベリルは緑色や黄色、黄緑色、褐色、金褐色などのカラーを持つ、ベリリウム鉱物です。実はクリソベリルとして出回ることは少なく、キャッツアイのほうが有名という珍しい石です。
<クリソベリルの基本情報>
組成:BeAl2O4
硬度:8.5
劈開:明瞭(2方向)
屈折率:1.74~1.76
3.シリマナイトをより楽しむために
希少なシリマナイトを、もっと身近に楽しむヒントを紹介します。
■誕生石・石言葉
シリマナイトは、誕生石には指定されていません。ただ、淡いグリーンが新緑を連想させるためか、5月の誕生石の代用にすることもあるようです。
ちなみに、5月の誕生石は「エメラルド」「翡翠(ひすい)」。どちらも緑色が印象的な、フレッシュさあふれる宝石です。
また、シリマナイトキャッツアイは、4月30日の誕生日石でもあります。
シリマナイトの石言葉は、以下のとおりです。
危険回避
勝利
問題解決
成長
清浄
光輝
持つ人をポジティブな思いで満たし、人生の充実度を上げてくれる石としてパワーストーン愛好家から人気があります。
無色・白色のシリマナイトは気持ちの浄化に、緑色のシリマナイトは、楽観主義や成長のイメージを持つそうです。
■シリマナイトの加工
シリマナイトは、完全な劈開を持つため、カットが難しい石です。より気軽に楽しむには、カボションカットされた石がおすすめ。
カボションカットのシリマナイトは、ファセットカットされたルースよりも、手頃な価格で入手できます。
キャッツアイ効果を持つシリマナイトを、リングやピアスに仕立ててはいかがでしょうか。手の動き、頭の動きにあわせてシャトヤンシーが揺れ、幻想的な雰囲気をまとわせてくれます。
■シリマナイトの保管とお手入れ
シリマナイトを保管する際は、他の鉱物や硬いものとは離し、単体で保護材に包みましょう。ちょっとした衝撃で割れてしまいやすいため、不安定な場所や振動が多い場所での保管は避けたほうが無難です。
アクセサリーにして身に付けるときも、スポーツやガーデニング、掃除など、他のものとぶつかる可能性があるシーンでは外します。
汚れが気になるときは、マイクロファイバークロスでそっと拭うか、薄めた中性洗剤で洗います。よくすすいで水分を拭き取り、保管してください。
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4. まとめ
シリマナイトは、柔らかな輝きと照りが美しい宝石です。ファセットカットされたルースで流通することがほとんどなく、コレクターでもまだ知らない人がいるかもしれません。
淡い多色性や、クリソベリルに良く似たキャッツアイ効果を持つ個体もあり、個性も豊か。同質異像のカイヤナイト・アンダリュサイトと、3つ揃えたくなる石ではないでしょうか。
この機会に、希少なシリマナイトのお迎えを、じっくり検討してみませんか。
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この記事を書いた人

みゆな
TOP STOneRY / 編集部ライター
トップストーン編集部がお届けする「トップストーリー」メディアでは、古くから愛されている誕生石の歴史やエピソード、最新のレアストーンの特徴、宝石の楽しみ方をわかりやすく解説しています。「天然石の魅力をもっと多くの方に知ってもらいたい」という想いで、個性溢れるライターが情報発信しています。