日本発見の希少鉱物・スギライトとは?色の秘密と紆余曲折のストーリー

スギライトと聞いて「なんだか日本語っぽい?」と感じた人は、鋭い勘を持っています。
スギライトのスギは「杉」です。日本で発見された、比較的新しい鉱物です。世界三大パワーストーンとしても人気があり、収集家も少なくありません。
今回は日本人コレクターなら知っておきたい、スギライトの魅力に迫ります。引き込まれるような紫色の秘密、そして発見当初はうぐいす色だった事実、さらに鉱物額的な視点からも網羅しました。
スギライトがもっと好きになる情報が満載です。ぜひ最後までご覧ください。
▶ TOP STONE で販売中のスギライト
1. 宝石・ルースとしてのスギライト

スギライトは硬度があまり高くなく、ファセットカットには向きません。ほとんどがラウンドやカボションにカットされ、置物などの用途として流通しています。
そんなスギライトの魅力は、なんといっても深く神秘的な紫色でしょう。
宝石品質のスギライトについて、クオリティの見分け方や特徴を解説します。
■高品質なスギライトとは

スギライトのほとんどは、不透明で紫系の色をしています。
他の鉱物を内包しながら生成する影響で、透明になる個体はほとんど見られません。
透明度が高く、宝石品質といえるスギライトがごく稀に産出すると「インペリアル・スギライト」と呼ばれ、非常に高い価値がつけられます。
スギライトのカラーは基本的に紫、内包する成分によって黒っぽい赤紫やピンク、黒、褐色、灰色になるものもあります。
ちなみに世界で初めて見つかったスギライトは、淡黄褐色・うぐいす色をしていました。日本の岩城島(愛媛県)が産地です。
現在、スギライトとして一般的に流通している紫色は、淡黄褐色のスギライトの変種です。南アフリカが主産地で、マンガン(Mn)を多く含むため紫色を呈します。
スギライトはマンガンのほか、鉄(Fe)やアルミニウム(Al)を含む場合もあります。
鉄を多く含むと紫色が強くなりバイオレットカラーに、アルミニウムが多くなると紫色が淡くなりピンクに近い色合いになります。
【豆知識】
実は日本でも、南アフリカ産のような紫色のスギライトが産出していました。これは後世になってわかったことです。
もし日本でスギライトが見つかったときに紫色の変種の存在に気づいていたら、変種も「日本原産」とされていたかもしれません。
このストーリーは後半の「鉱物的視点」の項で詳しく紹介します。
■鉱物を取り込み成長するスギライト
スギライトはマンガンを豊富に含む鉱床で、さまざまな鉱物を取り込みながら成長します。
成長環境の影響で、さまざまな表情を見せるのもスギライトの魅力です。
スギライトシリカ
カルセドニー(玉髄)が染み込み、透明な部分を見せるスギライト(スギライトシリカ)もあります。
スギライトシリカは、希少なスギライトのなかでもさらに量が少ない石種です。さらに10年ほど前、価格がそれまでの10倍以上に高騰しました。
中国でスギライトが爆発的ヒットとなり、あっという間に買い占められたためです。ちなみにスギライトシリカの価格は、それ以来下がっていません。
いまでも入手は非常に困難で、専門の流通ルートを持つ宝石商でもなかなか見つけられないほどです。
【豆知識】
スギライトと並び世界三大ヒーリングストーンの1つである「チャロアイト」にも、カルセドニーの鉱染によりシリカ化したものがあります。
これはエンジェルシリカ(チャロアイトシリカ)と呼ばれます。
スギライトシリカは、ジェムシリカ(クリソコラにクォーツが浸透してできた石)のように、石そのものが半透明化します。
完全な透明にはならないものの、宝石質の高さから人気があります。
その他のスギライト
小さな結晶が放射状に集まり、花のような模様を呈するスギライトもあります。
ブルーのペクトライト(珪灰石)を取り込んだスギライトは、紫とブルーの対比が美しく、神秘的な雰囲気を感じさせます。
スギライトの埋蔵量は、年々減少しているといわれています。高品質なものはとくに価格の高騰が激しく、入手が難しいケースも少なくありません。
■スギライトにまつわる逸話
スギライトは、いまに至るまで実にさまざまな曲折を経ています。日本および南アフリカ産のスギライトの歴史を辿ってみましょう。
日本のスギライト
世界ではじめてスギライトが見つかったのは、日本です。1944年、瀬戸内海に浮かぶ岩城島(愛媛県)にあった深成岩(閃長岩)で発見されたところから、スギライトの歴史が始まります。
岩城島で数ミリ程度の新種を見つけたのは、九州大学の岩石学者だった杉健一(すぎけんいち)および久綱正典(くつなまさのり)です。
2人が見つけた小さな結晶は、実は私たちがスギライトの名前からイメージする紫色ではありませんでした。
発見された結晶は淡黄褐色をしていたといいます。
当初は分析技術が現代ほど発達していなかったこともあり、ユーディアライト(Eudialyte・ユーディアル石)に似た鉱物として、発表されました。
その後「イワキライト(Iwakilite・岩城石)」と呼ばれ、「オースミライト(Osumilite・大隅石)-ミラライト(Milarite・ミラー石)系統ではないか」と推定されるようになります。
杉健一が見つけた小さな黄褐色の鉱物が無事に新種と認定されたのは、発見から32年後のことでした。
1976年、地質学・岩石学者の村上允英(むらかみのぶひで)らによって立証されたのです。村上允英は第一発見者であり師でもある杉健一に敬意を表し、スギライトと名づけました。
南アフリカのスギライト
では私たちが目にする紫色のスギライトは、どこで発見されたのでしょうか。
紫色のスギライトは、1980年に南アフリカで発見されました。場所はカラハリ砂漠・ウィーセル鉱山です。
南アフリカで見つかったスギライトも、日本のように曲折を経ています。
まず、発見当初はソグディアナイト(Sogdianite・ソグド石)だとされていました。ソグディアナイトは1968年にタジキスタンで見つかった石で、外観がスギライトととても良く似ています。
しかし成分を調べると、一致しません。科学者たちは頭を抱えました。
スギライト | KNa2(Fe3+, Al, Mn3+)2(Li3Si12)O30 |
ソグディアナイト | K(Na, □)2(Zr, Ti, Fe3+, Al)2Li[Si12O30] |
ここでアメリカのスミソニアン博物館が登場します。同博物館は世界最大級の宝石・鉱物のコレクションを擁し、研究施設としても活躍しています。
鉱物部門が南アフリカで見つかった鉱物を調査した結果、日本で見つかっていたスギライトだと判明しました。
ようやく、日本の淡黄褐色の鉱物と南アフリカの紫色の鉱物が同一だとわかったのです。
■スギライトの産地

現在、スギライトの主産地は南アフリカです。南アフリカでは紫色のスギライトが採取されています。
南アフリカ産のスギライトは原石も非常に大きく、1つあたりトンの規模になることも珍しくありません。
2. 鉱物・原石としてのスギライト

スギライトは発見の歴史からして、鉱物コレクターの興味をくすぐるストーリーが満載です。
ここからはスギライトを鉱物的観点から、深めていきましょう。
■組成について
スギライトの組成情報は、以下のとおりです。
英名(カタカナ) | Sugilite(スギライト) |
和名 | 杉石(すぎいし) |
成分 |
KNa2(Fe3+, Al, Mn3+)2(Li3Si12)O30 リチオケイ酸鉄ナトリウムカリウム |
結晶系 | 六方晶系 |
硬度 | 5.5~6.5 |
屈折率 | 1.59~1.61 |
劈開 | 不明瞭(1方向) |
色 | (濃淡)赤紫色、ピンク色、淡黄褐色 |
産地 | 南アフリカ共和国、イタリア、オーストラリア、カナダ、インド、日本 |
■原石の形状

スギライトの原石は塊状・粒状で産出します。
主産地のウィーセル鉱山では、採掘開始から数年後に岩盤の崩落が起きたそうです。そのときに露出した天盤に、5トン以上もの巨大な紫色の岩が現れたともいわれています。
ウィーセル鉱山のスギライトは、ブラウン鉱や水マンガン鉱からなる層の隙間にバンド状に生成します。スギライトの層をサンドイッチのように水マンガン鉱が挟む原石も見つかっています。
また石英など、他の鉱物と混在し塊状になる場合もあります。レアストーンであるリヒテライトと共生するスギライトも、産出されたことがあるようです。
■鉱物視点からみたスギライト
日本で最初に見つかったスギライトは、他の鉱物と共生した黄褐色をしていました。これは日本のスギライトは、紫色の発色要因であるマンガンを含まないからです。
ところが後年、南アフリカでマンガンによって紫色になった変種が見つかります。杉健一はこの紫色のスギライトを見て、大変驚いたそうです。
日本のスギライトが見つかった岩城島は、島全体が珪長質の深成岩からできています。また東側にはエジリンを含む曹長石が分布しており、杉健一はこの岩石を「エジル石閃長岩」と名づけました。
スギライトは、このエジル石閃長岩から見つかっています。
また、愛媛県の別の場所でもスギライトが発見されたことがありました。場所は愛媛県砥部町・古宮鉱山です。ブラウン鉱の隙間を埋めるように生成するスギライトが採取されています。
岩城島のスギライトと古宮鉱山のスギライトは、あまりに色が異なったため、はじめは同一種だとは見なされませんでした。
ちなみに詳しい鑑定の結果、古宮鉱山で見つかった紫色のスギライトはアルミノスギライト(Alminosugilite・アルミノ杉石)という変種だと分かっています。
2018年にはイタリアのCerchiara鉱山を模式地とし、アルミノスギライトが新鉱物として誕生しました。
《用語解説》模式地とは
固有の名称でよばれる地層が分布する、代表的な地点のことです。
国際地質科学連合(IUGS)が「地質学上、重要である」と認めた場所は国際標準模式地と呼ばれます。
3. スギライトをより楽しむために

スギライトの豊かな紫色は、身近に置いて楽しみたくなる魅力に満ちています。
スギライトをもっと気軽に楽しむヒントを紹介します。
■石言葉・パワーストーン

スギライトの石言葉は「癒し」「邪気の予防」「浄化」「第三の目」などです。
紫色は、古代から神秘性と高貴さを象徴する色として好まれてきました。魔除けのお守りや気持ちを落ち着けたいときにぴったりの石です。
スギライトは「三大パワーストーン」の1つとして、パワーストーン愛好家からも人気があります。
ちなみに他の2つは、チャロアイトとラリマーです。
■スギライトの加工について

パワーストーンとして愛されるスギライトは、ビーズ状になったものもよく見られます。
丸く艶やかに磨かれたスギライトは、一粒一粒表情が異なるのが魅力です。他の鉱物と織りなす模様が、宇宙に浮かぶ惑星のような美しさを見せます。
透明度の高いスギライトも人気がありますが、ビーズにできるほど大量には産出されません。もし透明度が高く、しかも格安のスギライトを見つけたら偽物を疑ったほうが良いでしょう。
■スギライトの偽物に注意
日本で発見された歴史もあり、スギライトは日本での人気がとりわけ高い石です。
しかし人気があるということは、それだけ偽物も出回りやすいということ。実際、スギライトの偽物も数多く流通しています。
スギライトの真贋を見分けるポイントを押さえ、本物を見極めましょう。見分けるポイントは、以下の3つです。
①比重
偽物のスギライトの多くは、ガラスを紫色に染めて作られます。素材の違いは、比重で見分けられます。
スギライトの比重は1.59~1.61。対してガラスの比重は2.5です。
② 染色の痕跡
もう1つ、スギライトの偽物によく使われる素材がクォーツァイトです。クォーツァイトはクォーツグループの鉱物で、隙間がたくさん空いており染色しやすいという特徴があります。
表面を拡大してみると、隙間の筋に沿って紫色の染料が染み込んだうろこ状の痕跡が見て取れます。
③ 蛍光性
スギライトはごく一部の例外を除き、蛍光しません。ところが染色されたクォーツァイトは、わずかに蛍光します。
もしUVライトを照射できる場面なら、蛍光性を確かめてみてください。
天然石・レアストーン・誕生石ならトップストーン
トップストーンは、国内最大級の天然石輸入卸問屋「株式会社ウイロー」が運営するルース専門の通販サイトです。世界中から買い付けたレアストーン、誕生石を販売しております。パライバトルマリン、タンザナイト、サファイアなどの宝石、ルースなど。豊富な品揃えから、天然石やパワーストーン、カラーストーンをお選び頂けます。
適正な販売価格を提示
天然石の市場価格は、決して安定しているとは言えません。常に変動する相場の中、トップストーンでは、最新の天然石の相場・平均価格を熟知しております。世界情勢や市場の動向をいち早くキャッチアップし、適切な価格を提示しておりますので、安心してご購入いただけます。
取り扱い種類が豊富
株式会社ウイローでは、40,000点以上の石を、鉱物・原石から宝石、ルースまで取り扱っております。また、弊社独自の調査により、入手難易度レベルを作成。入手困難な希少な天然石もトップストーンならば仕入れ可能です。
第3者鑑別機関のチェック済み
弊社で扱っている宝石、ルース(天然石)の数々は、商品名には流通名または宝石名を記載して販売しております。中立の立場である第3者鑑別機関に鑑別しているため、安心してご購入いただけます。
※TOPSTONEでは、鑑別・ソーティングを概ねA.G.L加盟の鑑別機関にお願いしております
▼鑑別・ソーティングについては以下ページにて詳細をご確認いただけます
4. まとめ

スギライトは日本で発見された鉱物という歴史もあり、とても人気のある石です。
さまざまな鉱物を内包した深みのある色合いは、ずっと見ていたくなる不思議な魅力に満ちています。一般的には鮮やかな紫色が高品質とされますが、ピンクや黒色など、好みの色を見つけやすいのもスギライトならでは。
ぜひお気に入りのスギライトを探してみてください。
スギライトは鉱物標本にもおすすめです。石英や閃長岩など、他の鉱物とのコラボレーションも楽しめます。
生成環境によって形状や色合いも異なります。手頃なサイズの標本を身近に置いておけば、地球のエネルギーを日々感じられるかもしれませんね。
▶ TOP STONE で販売中のスギライト
▸ こんな記事も読まれています
この記事を書いた人

みゆな
TOP STOneRY / 編集部ライター
トップストーン編集部がお届けする「トップストーリー」メディアでは、古くから愛されている誕生石の歴史やエピソード、最新のレアストーンの特徴、宝石の楽しみ方をわかりやすく解説しています。「天然石の魅力をもっと多くの方に知ってもらいたい」という想いで、個性溢れるライターが情報発信しています。