セレンディバイトとは?|黒色に輝く謎の希少石、秘められた多色の魅力と希少性・価値を紐解く

セレンディバイトはコレクターですら、知る人が限られる希少石です。どれほど希少かというと、情報を探してもほとんど見つからないほど。筆者の手元には10冊以上の鉱物・宝石図鑑がありますが、セレンディバイトが載っていたのは、たった1冊でした。
今回は、知られざるセレンディバイトについてどこよりも詳しく解説します。セレンディバイトそのものの魅力はもちろん、派生的に楽しめる逸話も紹介していきます。
希少石好きもルースコレクターも、さらには多色性が好きな人にもおすすめしたい、セレンディバイト。その魅力を、少しずつ紐解いていきましょう。
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イントロダクション: セレンディバイトとは

セレンディバイトは、カルシウムやマグネシウム、アルミニウム、ホウ素など、非常に多くの成分が組み合わさってできる鉱物です。
地の色は、ほとんど「真っ黒」ともいえる濃いブラウン、あるいは黒。一見、ジェット(黒玉)やオニキス(黒瑪瑙)かなと思うカラーをしています。
透明度が高いジェムクオリティの個体は、めったに採れません。ただ、その「めったにない」ルースが放つ個性は、他に類を見ないもの。シックで落ち着いた色合い、艶やかなガラス光沢は、はっと息を飲む神秘的な美しさです。
また、光に透かすと、多色性を見せるものもあります。多色性について詳しくは後ほど紹介します。多色性を楽しむためにセレンディバイトを探している、という人もいるほどに、個性的で唯一無二の表情を楽しめるポイントです。
1.宝石・ルースとしてのセレンディバイト

ここからは、宝石・ルースになったセレンディバイトについて、美しさや魅力、逸話などを深く解説していきます。
■セレンディバイトの多色性
セレンディバイトの魅力は、やはり多色性でしょう。光を透かしたときに、ぱっとあらわれる多彩な色は、見る人に鮮やかな驚きを与えます。
セレンディバイトは、真っ黒な地色からは想像できないほど、さまざまな色を見せます。褐色や赤色、黄色、茶色などの暖色から、緑色や青色などのクールな色まで、実にさまざま。ひとつのルース内で、複数の色を確認できる個体もあり、部分ごとに色が変わる様子は、まさにイリュージョン!いつまでも見ていたくなる美しさ、面白さを持っています。
透明度が低いセレンディバイトは、スマートフォンのライトなど、強い光に透かしてみてください。強い光に照らされた多彩な色が、ネオンのようにあらわれます。
■セレンディバイトの希少性
セレンディバイトが希少な理由は、複雑な生成環境のためでしょう。詳しくは後述しますが、高温で多様な成分を含む環境を必要とします。偏在性が高いホウ素(B)が構成成分の1つであることも、希少性に拍車をかけます。
レアストーン中のレアストーンといっても良いセレンディバイトは、流通価格もそれなりです。2015年には、アメリカの経済誌「Forbes」で、世界で4番目に高価な宝石とされたこともあります。
さて、Forbes誌が列挙した世界でもっとも高価な宝石たち、その中でもTOP1はどの宝石だったかご存知でしょうか。
やはりダイヤモンド?それとも、世界三大希少石とされるアレキサンドライトやパライバトルマリン、パパラチャサファイア?あるいは、人気が爆発しているタンザナイト?
正解は、以下の通りです。ダイヤモンドは第5位、そして第1位はレッドダイヤモンドでした。
順位 | 宝石名 | 1カラットあたりの価格 | 日本円に換算 |
---|---|---|---|
第5位 | ダイヤモンド | 1万5,000ドル | 約225万円 |
第4位 | セレンディバイト | 1万8,000ドル | 約270万円 |
第3位 | グランディディエライト | 2万ドル | 約300万円 |
第2位 | ターフェアイト | 3万5,000ドル | 約525万円 |
第1位 | レッドダイヤモンド | 100万ドル | 約1億5千万円 |
※ 日本円は、1ドル=150円で換算
※ 出典:世界で最も高価な5つの宝石 | Forbes JAPAN公式サイト
ちなみに、このランキングが発表された2015年当時の為替レートでは、セレンディバイト(1カラット)のお値段は、日本円で約220万円でした。10年あまりで、50万円も値上がりしたことになります。
近年、宝石・ルースや天然石の世界では、石価格の急激な値上がりがしばしば、話題になります。生産地の事情や治安の問題、輸送コストの増大など、値上がりの理由はさまざまですが、円安も相当大きな要因となっていることは、確かです。
コレクターとしては、なんとか価格の安定を願いたいところですね。
【豆知識】セレンディバイト以上に高い宝石の正体
グランディディエライトは、独特の青緑色で人気の宝石です。2014年に宝石品質の原石が見つかり、話題となりました。パライバトルマリンが好きな人にも、おすすめです。
ターフェアイトは、博物館級といわれるレアストーン。淡いモーブ色や紫色をした、愛らしい宝石です。クンツァイトやモルガナイトが好きな方は、要チェックです。
レッドダイヤモンドは、赤色をしたダイヤモンドで、ほとんど発見されていません。世界中を探しても、30ピースほどしかないといわれています。
グランディディエライト・ターフェアイトについてはこちらの記事で詳しく解説しています。
■セレンディバイトの発見と名前の由来

セレンディバイトは、1900年代に入って間もなく、スリランカで見つかりました。発見された年は1902年、あるいは1903年という説があります。
セレンディバイトの名前は、発見地である「スリランカ」を、古いアラビア語で言い表す言葉「サランディーブ」からきています。サランディーブ→セレンディップ→セイロン、というわけです。セイロンは、いまのスリランカにかつてあった国の名前です。スリランカ産の紅茶「セイロンティー」に、名残がありますね。
さて、ここで少し寄り道しましょう。サランディーブがセイロンになるまでの間にあった「セレンディップ」に注目します。
「セレンディピティ(Serendipity)」という英単語は、聞いたことがありますか?思いもよらない偶然がもたらした幸運を意味する言葉です。
このセレンディピティは、実はセレンディップからきているといいます。スリランカに伝わる民話が発祥だそうです。
民話『セレンディップの王子たちの話』
その昔、セイロンの地に3人の王子がいました。彼らは兄弟で、父である国王から旅を命じられます。
旅の途上、さまざまな困難や冒険が、王子たちにおそいかかります。しかし、3人は、知恵と機転を利かせ、次々と解決し、旅を進めました。
やがて旅を終え、帰国した王子たちは、多くの経験を糧にし、立派な青年に成長していました。国王の信頼も勝ち得、それぞれが国を治める立派な王になったということです。
この民話から、予想もしていなかった偶然や発見が幸運を引き寄せるという解釈が生まれ、「セレンディピティ(Serendipity)」という言葉につながったといわれています。
セレンディップの王子たちの話は、絵本にもなっています。興味があれば、探してみてくださいね。
ちなみに、セレンディップの地・スリランカは、宝石箱にたとえられるほど、多種多様な宝石の産地として知られています。現地では、そのあたりの川をさらったり、畑を耕したりしたときに、原石が見つかることもあるのだとか。まさに、セレンディピティですね。
■セレンディバイトの産地

セレンディバイトの産地は、スリランカやミャンマーです。スリランカはラトナプラ、ミャンマーはモゴックなどが知られています。そのほかは、タンザニアやアメリカ、ロシアなど。
ちなみに、セレンディバイトの個性である多色性は、透明度の高いルースのほうが明瞭に見られます。透明度の高い個体はスリランカで採れるといいますが、スリランカ産のセレンディバイトは、まずもって流通していません。私たちルース専門店でも、ほぼ手配できない希少な存在です。
国内にあるセレンディバイトの大半は、スリランカよりは産出量が多いミャンマー産です。
2.鉱物・原石としてのセレンディバイト

【英語版Wikipedia掲載画像】
By Kelly Nash - http://www.mindat.org/photo-452545.html, CC BY 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=40165638
ここからは、希少なセレンディバイトに鉱物・原石の観点から迫ります。
■組成について
セレンディバイトの組成情報は、以下のとおりです。
英名 | Serendibite(セレンディバイト) | |
和名 | セレンディブ石 | |
成分 | Ca4[Mg6Al6]O4[Si6B3Al3O36] カルシウムアルミノホウ酸ケイ酸塩、マグネシウム、アルミニウム |
|
結晶系 | 三斜晶系 | |
モース硬度 | 6~7 | |
屈折率 | 1.69~1.70 | |
劈開 | なし | |
色 | 黒色(光の透過により、青色や青緑色、青灰色、黄色等を示す場合がある) | |
主な産地 | ミャンマー(Mogok)、スリランカ(Gangapitiya)、タンザニア、アメリカ(California、New York)、ロシア など |
セレンディバイトはスカルン鉱床とよばれる場所で生成されます。スカルン鉱床とは、熱水鉱床の一種です。高温のマグマが、石灰岩やドロマイトなどに接触し、金属成分が集まってできています。
マグマ由来であり、とても温度が高い環境であることが特徴。さらに、セレンディバイトは、ホウ素を含んだ熱水が岩石に変成を起こしてできます。
環境的・成分的にも、希少な条件が重なった場所でないとできない石が、セレンディバイトです。
■原石の形状

【画像:英語版Wikipedia掲載画像】
By Rob Lavinsky, iRocks.com – CC-BY-SA-3.0, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=10441659
■鉱物観点からみるセレンディバイト
鉱物視点から見たセレンディバイトについて、2つの観点から深めていきます。「セレンディバイトと鉄」「セレンディバイトとサファリン」です。
セレンディバイトと鉄の関係
セレンディバイトの個性である多色性を存分に楽しめる、透明度の高いルースは鉄分の含有量が少ないと生まれる、と考えられています。実際、鉄はセレンディバイトのスペクトル吸収にも関与していることが分かっています。
中央宝石研究所の調査でも、先行研究より鉄の含有量が多いセレンディバイトのスペクトル吸収帯を調べたところ、鉄との関連性が深いことを示す、810nmの吸収バンドが示されたそうです。
では、透明度が高いセレンディバイトが多いといわれるスリランカは、鉄(鉄鉱石)がないかというと、そうでもありません。少ないながらも鉄鉱石を輸出しており、さらにお隣のインドは、世界有数の鉄鉱石生産量を誇ります。
鉄分が少ないと、セレンディバイトの透明度は上がる。とはいえ、スリランカにも鉄は埋蔵されている。ではなぜ、スリランカのセレンディバイトは透明度が高いのか。謎が謎を呼ぶ、これぞまさに鉱物界の醍醐味です。
セレンディバイトとサファリン

セレンディバイトはエニグマタイト(Aenigmatite)と呼ばれるグループに属します。エニグマタイトとは、ギリシア語で「解くべき謎(énigme)」をあらわします。名前のとおり、謎めいた石でしたね。
さて、エニグマタイトグループには、レアストーンがもう1つあります。「サファリン(Sapphirine)」です。
サファリンも、多色性を持っています。ピンクや青、ラベンダーブルー、緑色に変化するさまは、セレンディバイトとよく似ています。クールな灰青色が魅力的なサファリン、レアストーン好きの方やコレクターにおすすめです。
3. セレンディバイトをより楽しむために
希少なセレンディバイト、世界で4番目に高いとされるセレンディバイト。もし手に入れられたら、どのように楽しみましょうか。心が躍りますね。ここからは、セレンディバイトをより身近に、気軽に楽しむヒントを紹介します。
■誕生石・石言葉
セレンディバイトは、誕生石には指定されていません。ただ、8月30日の誕生日石とする説もあります。
セレンディバイトの石言葉は、「直観力、平静、気運」。セレンディピティの語源にふさわしい、未来を切り拓くポジティブなエネルギーに満ちた言葉が並びます。
黒い地色は、神秘的、洗練、上品などの印象を与えます。ジェットやオニキス、ブラックオパール、ブラックスピネル、オブシディアンなどと並べ、コレクションしたい石です。
■ビーズなどの加工品について
めったに見つからず、流通量も少ないセレンディバイト。結晶の多くはコレクター向けに流通しています。残念ながら、ビーズで見かけることはありません。
セレンディバイトの硬度は6~7、十分な堅牢さを持っています。劈開もないため、扱いやすい石といって良いでしょう。アクセサリーにお仕立てし、身にまとうのも素敵です。
一粒でしっかりと存在感を主張してくれるのは、黒色ならではの魅力。リングやネックレスにすると、カラーストーンにはない独特の存在感を醸し出します。
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4. まとめ
セレンディバイトは、産出量が極めて少なく、国内の市場にはほぼないといわれる希少石です。希少性ゆえに価格も高くなり、「世界で4番目に高い宝石」とされたこともあります。
地色が濃いため、地味な印象もあるセレンディバイト。しかし、豊かな多色性を持ち、光に透かすと驚くほどの表情を見せるものもあります。
TOP STONE オンラインショップではごく少量ですが、セレンディバイトの販売もしていますので、気になった方はぜひチェックしてみてくださいね。また、大規模なミネラルショーなどで、もしかしたら出会えるかもしれません。もし運良くセレンディバイトに出会えたら、コレクターの方はお迎えの検討をしても良いかもしれません。それほどまでに、希少な宝石です。
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この記事を書いた人

みゆな
TOP STOneRY / 編集部ライター
トップストーン編集部がお届けする「トップストーリー」メディアでは、古くから愛されている誕生石の歴史やエピソード、最新のレアストーンの特徴、宝石の楽しみ方をわかりやすく解説しています。「天然石の魅力をもっと多くの方に知ってもらいたい」という想いで、個性溢れるライターが情報発信しています。